スキル:分析(アナライズ)で世界を攻略せよ
@とむ
第1話 異世界に転生す
暗闇の中で目が覚めた。ぼんやりとした光が差し込む空間に、湿った土の匂いが広がっている。頭がぼうっとして、次に思い出すのは、自分が「転生」したという事実だけだった。
「ここは……どこだ?」
目をこすりながら立ち上がると、どうやら小さな森の中にいるらしい。木々の間から微かに太陽の光が漏れている。だが見慣れた樹木ではなく、葉の先が淡い青色に光り、風に揺れるたびにかすかな音を立てている。地球ではない――それだけは確信できた。
まずは冷静になれ。生き延びるためには、この世界を理解しなければならない。息を吸い込み、頭を整理し始める。
声を出してみる。
「テスト、テスト。……これで聞こえるか?」
自分の声は普通だ。だがこの森で自分の言葉を使っても、何も起きない。周囲に生き物の気配は……いや、遠くで動物の鳴き声らしきものが聞こえる。言語が通じる相手がいるかどうか、まずは確かめないと。
視界の隅で光が揺れる。木陰に隠れるように、小さな生き物がこちらを見ている。まるで羽根の生えた小動物のようだ。小さな音を立ててこちらを警戒している。試しに話しかけてみる。
「こんにちは。君はここに住んでるのか?」
その瞬間、生き物がピタリと動きを止めた。そして驚いたことに、頭を軽く傾けたあと、鳴き声に似た声で返事をしてきた。
「ピィ……ピュイ?」
言葉ではないが、何らかの意思が通じる感触がある。少なくとも、この世界の生物とコミュニケーションを取る糸口はありそうだ。
次に、周囲を見渡す。大きな木々が鬱蒼と茂り、遠くには山のようなものが見える。足元には見慣れない植物が広がっており、触れると微かに光るものもある。どうやら夜間でも視界が完全に閉ざされることはなさそうだ。
足音を立てないよう慎重に歩きながら、道らしきものを探す。やがて小川にたどり着く。水は澄み切っており、飲めるかもしれない。手ですくい上げて少し口に含む。冷たく、特に異常は感じられない。ここは、水や食料が手に入る可能性がある環境のようだ。
ふと気づく。手の甲に見慣れないマークが浮かび上がっている。緑と金色の線が交差する奇妙な模様だ。触れても特に痛みはないが、じっと見ていると何かが脳内に流れ込んでくる。
――「スキル:分析(アナライズ)」が発動します――
脳内に響く声に驚く間もなく、小川や植物が一瞬でデータのように視界に浮かび上がる。名前や効果、危険性までが簡潔に説明される。たとえば、小川の水は「飲用可能:マナを微量に含む」と記載されている。どうやら、このスキルを使えば、この世界の物や状況をある程度理解できるらしい。
「マナって……魔法の源か何かか?」
魔法という概念が実在する世界なのだろうか。試しに「魔法」という言葉を口にしてみるが、特に何も起きない。スキルが発動したことで、この世界には何かしらのルールが存在することがわかるが、自分がそれを使いこなせるかどうかは別問題だ。
森の中を歩きながら、自分自身の体をチェックする。どうやらこの体は転生する前のものとは少し違う。以前よりも筋肉がついている気がするし、視界や聴覚が妙に鋭い。何よりも、この「分析」スキルが鍵になりそうだ。
「これをうまく使えば、生き延びる確率が上がるかもな。」
胸の奥にかすかな不安が残るが、それを押し殺して歩き続ける。
情報はまだ足りないが、いくつかの手掛かりを得た。まずはこのスキルを活用しながら、近くに人がいないか探すべきだろう。言葉が通じる相手がいれば、さらなる情報が得られるはずだ。
「さて、この世界でどう生きていくか……やることは山積みだな。」
一歩、また一歩と踏み出す。未知の世界の空気を吸い込みながら、俺は新たな一日を始めた。
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