追及
荒れ狂う心を抑えてきた何かが壊れる音が微かにした。マンセスにはそう思われた。押し込んできた何かが、重い鉄蓋を押し上げて溢れ出す。それを押し戻す気力は彼にはとうになくなっていた。心のどこかで悲鳴をあげている過去の自分を遠目で認識しながらも、彼はそれを突き放した。
「ユーラ…君は、自分が何をしたのか理解しているのかッ⁈」
「時代の求めに応じたまでだっ!政が民に開かれて以来、様々な機会が民に向けて解放された。それに対して全く、幾世紀も前から変わらずにいるのは、今や星座会だけだ。良い加減、変革の流れに身を投ずるべきだ、そう言って皆を説得した」
「かくも成れば我が父を尊敬する。やはり市民に知を解き放つのではなかった。知を得た愚衆は、どう足掻いても浅はかな知で満足する。それが真理の一端にすら触れる事ができていないにも関わらず、それが世の理だと思い込む」
「マンセス、それは我々に責任がある。これまで民に知識を与えず、我らの所有物としてきたのは確かなのだ。知とは何であり、それを学び知る事の限界や可能性に思い至るまでには時が必要だ」
「まだその時ではないと言うのか」
「いや、確実に民の中でも気付きつつある者達は存在する。現に、バハスはこうして私の隣に立っている。彼が何よりの証拠だ」
「仮に君の言が正しいとして、果たしてそれが真理に至る最短の道のりなのか?恐らく回り道、いや、既に道を外れて彷徨っているのだろう。西方では学制を施行した国家が、施行から僅か三十年余りで内乱の戦禍に飲み込まれた。あまつさえ愚衆は上長し、仕えるべき主君を殺し、知識人を惨殺、数多の書物に火を焚べた」
「それは我が国で起こった事ではないっ!」
「何が違うと言うのかッ⁉︎この国で同じ事が起きないとどうして言える?我々が相手にしているのは、理解することもできない、理解しようともしない、日々を生きるだけで必死な市民だ。彼らに理論や合理が通用すると、本気で考えているのか?」
「マンセス、いつから民の事をそこまで蔑む様になったッ⁈仮にも民は、我々が保護すべき存在なのだよッ⁈」
「その言葉が出てくる時点で君は彼らを理解できていないのだよッ!いつの日から市民は、
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