第2話 第一歩
「め、女神様どうしてここに? こっちの世界には来れないはずじゃ……」
「そのはずなんだけど……うーん?」
大きく美しい羽も付いている。間違いなくこの人はあの女神様だ。
「あれ……女神の力が使えなくなってる!?」
自分の体をペタペタと触った後、全身を淡く光らせあることに気づく。
どうやら力の一部を失ってしまっているらしい。そう思えば先程の神々しさが半減しているような気がする。
「まさか……堕天させられちゃった!?」
「堕天……? 何それ?」
「えっと、私の上司である神様が私の勝手に怒って女神としての力を没収してこの世界に落としたってところかな?」
地球でいうところの退学とかリストラなのかな……? 神様の世界にもそういうのあるんだ……
「それって大変なことじゃないの? 戻れる保証はあるの?」
「多分もう二度と神界には戻れないわね……でもいいわ。だってそのおかげで君と一緒に……君を守れるんだもの!」
女神様はまたボクを抱き締め胸の中に頭を押し込ませる。
「ちょ……く、苦しいって!」
頬を赤らめ嫌そうにするものの、正直ボクは女神様のいるこの状況に感謝していた。
新しい世界に心馳せていたのは事実だが、知り合いもいない何も知らない世界に飛ばされたのは正直心細かった。
だから先ほど知り合ったばかりとはいえ知っている人に会えて嬉しかった。
「よし! この際女神だったことなんて忘れてこの世界で生きることにするわ!」
女神様は堕天してしまったことなどを潔く割り切り、キッパリと気持ちを切り替える。
「いえ寧ろ好都合よ! 人間の体なら人助けだってできるし……」
「女神様は人を助けたりできなかったの?」
「え、えぇそうね……神は基本的に管理する世界にはノータッチ。あくまでも世界が滅ぶような事態が起きた場合に手を多少加えることが限界なの。
たとえ管理する世界でどんな悲惨なことを起きてしまったとしても……」
女神様は一瞬暗い表情をするが、それはすぐに晴れて澄んだ瞳でこの世界を捉える。
「それでめが……」
「あっ、女神様じゃなくて私はセリシアって呼んで」
「セ、セリシア……さん?」
「さんなんていらないわよ。これからよろしくね!」
セリシアはまるで太陽のような笑顔をボクに見せてくれる。その輝きは心細く凍えていた心を温めるには十分だった。
「うん……よろしく。それでこれからどうしたらいいの? ボクこの世界について何も知らないし」
「そうね……私もこんな森の中じゃ何も分からないわね。とりあえず人が居る場所を目指さないと……」
セリシアも現在地が分かっていないようで、それを把握しない以上何もできないのでボク達はとにかく太陽が沈む方向へ歩を進める。
「そういえばその翼は目立ちそうだけど大丈夫なの?」
「あっそうね。しまっておきましょうか」
セリシアは翼を光の粒子に変えて消滅させる。それから数十分ほど歩き疲れを感じ始めた頃グゥ〜とボクのお腹が音を立てる。
「あっ……」
「お腹が空いたの?」
「うん……ごめんなさい」
「いいわよ謝らなくて! それに私も人間の体になったんだしお腹も空いてくると思うから……ここら辺でお昼にでもしましょうか!」
「ありがとう……でも肝心の食べ物はどうするの?」
ボクもセリシアも服以外何も持っていない。その上ボクは知識もないので木の実などを不用意に食べるわけにはいかない。
「近くで川の流れる音がするから、そこで魚でも獲りましょう」
「魚ってそんな簡単に獲れるものなの?」
「私に任せておいて! 秘策があるから……」
セリシアは含みのある笑みを浮かべ、背中に光の粒子を集めて翼を再び出現させる。数メートル飛び上がり、木の上から辺りの様子を、近くにある川の場所を探る。
「あっ! あったわこっちよ!」
セリシアは降りてきたかと思えばボクのことを持ち上げ、飛翔したまま川へと向かう。
「すっごい綺麗な景色……」
施設に居た関係上あまり遠くに行くことがなかったので、目の前の大自然にボクは圧巻されてしまう。
その中で一段と目立っているのは川だ。澄んだ水が太陽光を良く反射している。あそこなら魚くらい居そうだ。
「川あったね! じゃあ行きましょうか!」
ボク達はお腹を空かせ、期待を胸に川まで飛んでいくのだった。
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