夏祭りの噂

鷹野ツミ

夏祭りの噂

「もうすぐ夏祭りだねー」

「あー、行く? せっかくならテントの噂確かめに行こーぜ」

「えーこわーい。ガチで闇オークション会場あったらどうすんの」

「なわけ。まあ普通に奥行けないように警備員立ってるからムリだけど」

「なんだー。じゃあ行けないじゃん」

「いやマジで行く気あったんかい」


 楽器を片付けながら、楽しげな会話が飛び交っている。俺も混ざりたいところだが、

「糸杉、来いよ」

 この呼び掛けを無視することはできない。

 俺が標的になっている間、周りはハッピーでいられるし、他と違ってメンタルの強い俺には適役だ。


 音楽準備室の鍵が慣れた手つきで閉められた。


 標的にされた切っ掛けは何だったか。パシリにされた後輩を助けたから? 教科書を隠された女子に見せてあげたから? テストで早稲くんより上になったから?

 多分、そういう些細なこと全部が目についたのだろう。はっきりした理由なんてないのだ。

「おい、寝てんの?」

 頬を木琴のバチでぺちぺち叩かれた。ぼんやりしている間に、俺の足元には数滴の血が落ちている。鼻の違和感からおそらく鼻血だろうと思う。

「起きてるよ」

 鼻血を擦りつつ立ち上がれば腹の真ん中を蹴られ、後ろの木琴が俺を受け止めた。

 早稲くんはしなやかな長い指で俺の口をこじ開け、バチを押し込んでくる。たまらず嘔吐くと透明感のある声で愉しげに笑われた。歌声もきっと綺麗なのだろうと思う。顔も天使と呼べる美少年だし、ぜひ遠くから見るだけでいたいものだ。

「早稲、その辺にしとけって……」

 取り巻きの一人が苦笑いで言うが、早稲くんが睨み付けると目を逸らして黙ってしまった。

 庇ってくれて嬉しいが、余計なことを言うと明日から君が殴られてしまうよ取り巻きくん。

 心の中で思っていると、完全下校時刻の放送が流れてきて、同時に早稲くんの舌打ちが飛んできた。

「もう時間か。おい糸杉、顧問にチクったら分かってんだろうな?」

「うん。また知られたら、悲しまれちゃうもんね」

 早稲くんは返事もせず、取り巻きと共に音楽準備室を出て行ってしまった。

 顧問は確か、早稲くんの父親とそういう仲だ。有名ピアニストと、しがない音楽教師の恋なんて良いじゃないかと思う。だが、早稲くんは多分再婚について良く思っていないし、二人の前で気を遣ったり、厳しいピアノレッスンだったり、ストレスが溜まってどうしようもないのだろう。

 だからと言って暴力で発散しないで欲しいが。

 あと、やばくなったら金で全部隠蔽するの本当に最低だと思う。

 みんなの背中を見送り、俺は散乱した古い楽譜に手を伸ばす。

「……ちぎって詰めとくか」

 ティッシュの代わりに鼻に詰めておいた。

 さっさと鍵閉めて帰ろうと、準備室、第一音楽室、第二音楽室、と一つづつガチャガチャやっていた時だ。

「やあ。身体は大丈夫かい?」

 突然の足音と声に勢いよく振り返ると、にこにこ笑顔のクラスメイトが佇んでいた。

「……檜木くん……なんで、居るの」

「ん? ドアの隙間から見てたんだ。で、みんなが出てきそうなとき急いで階段に隠れた」

 確かに、この上の階は屋上で、誰も上ってこないから隠れるのに丁度いい。しかし、

「……いや檜木くん吹奏楽部じゃないよね」

「そうだけど。ちょっと糸杉くんとお話したくてさ。一緒に帰ろうよ」

 落ちていた俺のカバンを拾われ、逃げられない状況を作られてしまった。正直檜木くんのことは苦手だ。常に笑顔を貼り付けていて少々不気味だし、ヤクザの息子だか孫だかブラックな噂がある。改まってお話したいなんて言われると普通に怖いのだが。

 職員室で鼻血を心配されたが上の空で鍵を返し、不安なまま檜木くんと横並びで歩き始めた。ヒグラシの声が夕暮れを感じさせてくる。

「ボク、糸杉くんのこと好きだなあ」

「……それは、どうも……」

 唐突に告白じみたことをされて反応に困った。俺は好きではないので。

「ああ、変な意味じゃなくてさ。たっぷり太らせてから食べてやろうって考えが、すごく好き」

「……は?」

「自覚してなくて可愛いね」

 ご機嫌な笑顔をされた。

 よく分からないが、メンタルの強さなら自覚している。

 俺はどんなにいじめられても不登校にならないし、自主退学も絶対にしない。だって、早稲くんが謝るところが見たいから。力ずくで土下座させて地面舐めさせてやるんだ。卒業式当日までたっぷりと優位に立たせておいて、高校最後の思い出として屈辱を味わってもらうなんて最高じゃないか。

 こういうポジティブな思考が、俺のメンタルの強さの理由だって思う。

「糸杉くんは犬派? 猫派?」

「え、うーん、強いて言えば犬派かな……」

 檜木くんって動物好きなのだろうか。脈絡のない質問に少々戸惑った。

「だと思った。はい、これあげる。じゃあボクあっち方面だから」

 俺のカバンと同時に、一枚のメモ用紙が渡された。書いてあるのは、毎年まあまあ賑わう夏祭りの名前と日付と地図だった。

 まさか夏祭りのお誘い? 檜木くんとデートする気なんてないが? 意図が分からなさすぎて怖い。

 毎年七月、満月に近い日曜日に開催されるこの祭、俺はほとんど行ったことがないが特別面白い催し物があるわけでも、珍しい屋台があるわけでもない。

 だが、変な噂がある。

 並んだ屋台が途切れたその先、生い茂る木々の奥へ奥へと進むと、大きなテントに辿り着く。その中では演劇をやっているだとか、夏祭りの喧騒をオカズにキャンプしているだとか、えぐいアダルトグッズの屋台だとか。

 そういえば、部員達は闇オークション会場があるとか話してたっけ。

 そしてこの地図だが、完全に木々の中を示していないか?

 いや本当に、どういうこと?

 満員電車内でぐるぐる考えてみたが、檜木くんの不気味さがただ増しただけだった。



「うわ、吐くなよ。汚ねえ」

 部活の終わりかけの時間、今日も俺は早稲くんにボコボコにされている。水がぶ飲みした直後なんだから流石に吐くだろ。さっきのフルートのソロ、うっとりするほど良かったのに。全部幻に思えてきた。

「あー萎えたわ。掃除しとけよな糸杉」

 早稲くんはガラっと準備室のドアを開けると、停止ボタンを押されたかのように固まった。後ろに続く取り巻きがつまづく。何だろうかと俺も目を向けると、ドアの前で顧問が顔を覆っていた。

「……こんなこともうしないって言ったじゃない……」

「きっしょ。なんで居んだよ」

 早稲くんはそのまま出て行こうとするが、縋るように顧問が腕に絡み付いている。

「ねえ、ちゃんと糸杉くんに謝って。こんな、お父さんも、悲しむわ……」

「触んな。オレの父親のこと金ヅルとしか思ってないくせに母親面か?」

「なっ、そ、そんなわけないでしょ……!」

「おい図星じゃねえか。そのきしょい嘘泣きやめてくんね? マジで見たくない」

 早稲くんは顧問を振り払い、本気で嫌そうな顔をして去っていった。「顧問にチクるな」と俺に言っていたのは、多少なりとも思いやりがあったわけではなく、母親面されるのが嫌だったからなのか。

「あー……えと、俺は別に平気なんで」

 床掃除しつつ顧問に声を掛けると、コントラバスクラが余裕で吹けそうなくらいのため息をつかれた。

「……優しくしてやってんのにあのクソガキ」

「えっ」

 暴言に固まった。ふわふわした森ガールみたいな顧問が、そんなこと言うなんて。

「ねえ糸杉くんって友達居ないわよね?」

「……えっ、まあ、早稲くんのせいで居なくなりましたけど」

「居るって答えたら鼻で笑うところだったわ」

 顧問は準備室の鍵を閉め、俺のゲロ跡地を避けながらドラムの椅子に座った。

「先生ね、借金があるの。闇金から借りたお金なんだけど、利息がすごくてさあ。本当は教師やってられるほど余裕ないのよ。で、早稲くんのお父さん引っ掛けたわけ。金持ちだし奥さん居ないし、丁度良くて。だから金ヅルだと思ってるのは本当のこと」

 予想外の話しに困惑しかなかった。早稲くんには全てお見通しだったということか。

「あの……なんで俺にそんな話を?」

「糸杉くんに友達が居ないからよ。こんな話生徒達のネタにされるの嫌だもの」

 そういうことかと納得しつつも、わざわざ俺に話す必要性を感じず脳内が疑問符で埋まっていく。

「そんなアホ面しないで。ここからが本題なんだから」

 さっきから口悪いですね! と突っ込みたくなったが、本題の方が気になったので続きを促した。

「早稲くんのお父さんね、敏感で繊細で、流石ピアニストっていうか、冷たいキスはもうやめようとか言ってきて、連絡取れなくなっちゃったの。次の金ヅル全然見つからないし、ジャンプばっかりしてるといつまでも搾取され続けちゃうし、あーもう風俗しかないや! って全てを諦めかけたとき、闇金の事務所でヤクザとばったり鉢合わせたの! それで、一緒にクッキー食べながら色々話してたら、闇オークションで稼がないかって提案されたわけ。つまり先生は晴れて借金から解放されまーす!」

 拍手につられて拍手したが、話についていけない。ヤクザとクッキー? 闇オークション?

 顧問がすっと立ち上がり、床で体育座りをする俺の前にしゃがんだ。

「早稲くんをね、出品することにしたの。糸杉くんにとってもメリットじゃない? いじめに悩む必要なくなるでしょ?」

 顧問の笑顔は、合奏中に指揮棒を振る時の楽しげな笑顔と変わらなくて、とても冗談で言っているように思えなくて、俺はただ、そうですねとしか言えなかった。


 早稲くんが欠席続いたのは、それから間もなくのことだった。


 体調不良ということだが、顧問の話を聞いてしまった以上本当に出品されてしまったのではないかと思ってしまう。これからは殴られなくて済むのだという安心はまるでなく、このままでは土下座させられないじゃないかという苛立ちが込み上げてきた。

 だから俺は、諸々知っていそうな檜木くんを頼ることにした。

「檜木くんは、その……闇オークションに詳しい?」

「ん? それはボクの家族が……ヤクザが運営してるやつのことでいいのかな」

 にこにこと笑う檜木くんはやっぱり不気味だった。そして噂通りヤクザの関係者だったことが分かり、若干後ずさってしまった。

「あ、うん多分、それ……」

「早稲くんを買いたいって話だよね?」

「えっ、まあ、端的に言うと……」

 こうなることが分かっていたみたいに檜木くんは笑う。

「糸杉くんならそう言うと思ってたよ」



 夏祭り当日、見上げれば見事な満月が揺らめいていた。イカ焼きや焼きそばが食欲を刺激してくるが、とにかく蒸し暑くて屋台に並ぶ気力がない上そんな暇はない。汗がじわりと染み出してくる感じが不快だ。浴衣を着て化粧バッチリの人を見かける度に尊敬してしまう。

 俺は以前檜木くんに貰ったメモが闇オークションの会場だと察し、並んだ屋台の途切れた先、暗闇へと続く木々の付近まで歩いてきた。

 ここで問題なのはこの屈強な警備員二人だが……。

「糸杉さんですか?」

 声を掛けられ驚いたが、戸惑いつつも頷いて檜木くんの名前を出すと直ぐに通してもらえた。なるほど、この警備員コスプレしたヤクザさんだな。

 ほんのり月明かりに照らされながら奥へ奥へと進んで行くと、黒くて大きなテントがぬっと現れた。テント前で檜木くんが手を振っている。

「たどり着けてよかったよ。お金は用意してきたよね?」

「うん。早稲くんの家行って、お父さんに貰ってきた」

「へえ。話が早いじゃん」

「息子が帰って来なくて動揺してたおかげか、俺がいじめを訴えるって言ったらぽいって金出してくれたんだよ。それと、警察には何も言ってないらしいよ。家出ごときで騒いで記者に嗅ぎ付けられたくないって」

「有名ピアニストも大変だね」


 テントの中は、ぼんやりした灯りに照らされ、ひしめき合う人で溢れていた。

 むさ苦しく、息苦しい。詰めてもらった場所におずおずと正座したが、落ち着かないし、隣の人との密着度に若干鳥肌が立った。せめて檜木くんの隣なら良かったのだが、外で待ってるよと言うので仕方がない。太腿の上に置いた現金入りスーツケースを抱え、ひしめく背中越しにじっと舞台上を見つめる。

 ようやく現れた司会は、小さなサングラスをかけた派手なスーツの中年男性で、「待たせたな変態野郎共。さあ、楽しい買いの時間だぜ」と地味に気取ったセリフを叫んだ。

 そして舞台袖から、司会と似たような中年がチョークチェーンを引いてゆるゆると歩いてくる。緊張しつつ、チェーンに繋がれた先を見て、俺は吐き気に口元を押えた。

「一品目『ヒトマンチカン』こいつはウチのバーの元店長だ。売り上げ金ちょろまかしたカス野郎だがアナル開発済みだぜ。そんじゃあ、五百万から」

 司会の声と共に、次々手が挙がっていく。五百五十、五百七十、と次々声が飛び交っていく。

 喧騒の中、俺は混乱していた。

 だってあの商品は、あの人は、おそらくマンチカンの耳と尻尾を縫い付けられ、マンチカンのシルエットに寄せるように膝下と肘下を切断され、四つん這いで引きずられている胸毛の濃い中年男性で、こんなの売り物にしていいのかという疑問とこれが闇オークションかという納得が混ざりあっていた。

「──五品目『ヒトロップイヤー』こいつは樹海で首吊ろうとしてたから捕まえてきた家出少女だ。まだ下の毛も生えてねえが育てたらイイ女になるかもな。そんじゃあ、八百万から」

 俺がゲロを飲み込んでいる間にもオークションはどんどん進んで行く。競り落とした商品はその場で受け渡されるらしく、舞台上で現金と商品が交換されている。惜しくも競り落とすことができなかった人々の怒号が凄まじいが、司会の「次」というひと声でスっと静まる異様な空間だった。

「──七品目『ヒトプードル』こいつは某有名ピアニストの息子だ──」

 チェーンに繋がれた先を見て、俺の心臓が激しく動き始めた。ふわふわした白い耳と尻尾が縫い付けられているが、顔は天使と呼べるほどの美少年。あれは、間違いなく早稲くんだった。手足は無事のようだが、チラっと見えた掌には肉球が縫い付けられている。

 ああ可哀想にと思いながらも、白い肌を無修正の状態で晒す早稲くんを見て俺の口角は勝手に上がっていた。

「──そんじゃあ、七百万から」

 俺が早稲くんの父親に貰った金額はたかが五十万。到底支払えない。

 頭を抱える俺を他所に次々と声が飛び交っていく。

「── 一千万、他居ねえか?」

 あっという間に値段がつり上がり、手を挙げる人は居なくなった。

 ここまで来て早稲くんを見知らぬ変態に取られるなんて絶対に嫌だ。

「はい! 一千五十万!」

 叫んでしまった。

 周りの視線が俺に集まる。

 司会が他に居ないかと促すが、声は上がらない。木槌が打ち付けられ、落札されたことが示された。

 司会が指で来いというサインを出す。震える足で俺は舞台へ上がった。

 早稲くんは俺を見るなりはっとして唇を噛みしめながら涙を零した。そして弱々しく袖を掴んできたかと思えばすり寄ってきた。なんだ急に気色悪いと思ったが、早稲くんに気を取られている場合ではなかった。

「……おいテメェ、金足りてねえけど」

 司会はスーツケースの中を確認した後、俺の胸ぐらを掴んできた。

「す、すみませんでした! あの後で必ず──」

 言い訳すらさせてもらえずぶん殴られてしまった。しかも木槌で。吹っ飛ばされ、床に打ち付けられる。

「テメェは来年の祭りで出品してやる」

 司会が連れてけと静かに言い放ち、舞台袖から出てきた中年達につまみ上げられた。

「わっ! ほんと、マジですみませんでした! ちょっ、痛い! 痛いです!」

 鼻血がツーっと流れてくる。ああやばい。俺も耳とか縫い付けられるのか。せめて麻酔ありでお願いしたい。 そもそもちゃんとした医者がやってくれるのか疑問だが……。

「あーっ、待って待って! 足りない分はボクが出すよ」

 聞こえた声に、テントの入り口へ目を向けると檜木くんが顔だけ覗かせていた。

「坊ちゃん……! いいんすか?」

 中年が叫ぶが、檜木くんはにこにこしたまま頷く。

 俺は解放され、早稲くんと共にテントから出ることができた。

「……ありがとう檜木くん。助かったよ」

「気にしないで。でも、借りた分はきっちり返してよね」

 なんとなくの圧に少々恐怖が込み上げたが、今は安心の方が勝っていた。

 ひと息ついていると不意に感じた背中の温もりと共によろけ、何事かと思えば早稲くんがバックハグをしていることに気付いた。

「……糸杉。今まで、酷いことして、ごめんなさい……」

 弱々しくも綺麗な声が俺の耳に流れてくる。

「オレ、もう、死にたい……殺して……」

 そう言うと早稲くんは萎れるようにしゃがみこんで泣き出してしまった。


 は?


 こんなの、俺の知っている早稲くんじゃない。


 今まで楽しみに取っておいた早稲くんへの思いが、一気にどうでもよくなった。こんな姿の早稲くんに土下座させてもなにも面白くない。俺はなんのために必死になって早稲くんを競り落としたのか分からなくなってしまった。


「ねえ、檜木くん」

「ん? なあに?」

「まだ早稲くんって出品できる?」

「もちろんだよ」


 檜木くんがテントの中にひと声掛けると、出てきた中年達が早稲くんをつまみ上げた。

「ひっ! やっ、やだあ! 糸杉! たすけて! いとすぎ!」

 さっき死にたい殺してって言ったくせになに助け求めてんだ?

 叫び声も綺麗な声だよなあなんて思いながら俺は早稲くんを見送った。


 我ながら良い案だと思ったんだ。これで出品者になった俺には大金が入るわけで、それを檜木くんに全部渡せば借金はなかったことになるし、前の出品者である顧問にはヤクザさんから上手く伝えてもらえばいい。顧問の借金は結局残ることになるが、大体は丸く収まるはずだ。

 早稲くんはずっと家出扱いのままになるのだろうか。まあ、どうでもいいや。



 揺らめく満月の下、戻ってきた屋台通りは撤収作業が始まっていた。祭りの終わりが近付いている。

「やっぱりボク、糸杉くんのこと好きだなあ」

 檜木くんが相変わらずのにこにこ笑顔でそう言う。

「……なんでずっと好意持ってもらえてるのか謎なんだけど」

「ん? たっぷり太らせてから食べてやろうって考えが好きなのと、獲物が取られそうになったら危ない所にも突っ込んでいくところと、一生懸命捕まえたけど腐ってるなら価値ないやって執着せずに捨てるとこ──」

「あーもう大丈夫! ありがとう!」

 檜木くんの言葉は相変わらず独特で分かりずらいが、ポジティブな意味として受け取ることにした。

「ねえ、檜木くん」

「ん? なあに?」

「来年の夏祭りも一緒に行こうよ」

「もちろんだよ」

 檜木くんはより一層楽しげに笑った。

 多分、俺が行きたい理由が分かっているからだ。

 だって、借金が返せなくなった顧問はどうなると思う? どんな変態に買われるのか見届けなきゃね。

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