第23話 side:U 準備といらない手伝いと
「え」
「うん、だから一緒にお風呂入ろうね」
素っ頓狂な声を上げた俺に嗣にぃはもう一度繰り返した。
・・・きたよ、風呂イベント。一緒に風呂。
一気に心臓が高鳴る。落ち着け、俺。
今からって毎日になるんだろうか。いや、まさかな。どうなんだろう・・・うちはどうだっけ?夫婦仲はそこそこ良い父さんと母さんはどうだったか・・・あまり意識したことないから覚えていない。
いや、でも、だ。考えようによってはポイントを稼ぐ場所なのだ、が・・・。
風呂の後って、もう、あれではなかろうか。新婚さんの、あれ。
『お帰りなさいダーリン、お風呂にする?ご飯にする?それとも、あ・た・し?』ってやつ。・・・これは会社から帰宅後にするやつか?
とにかく。流れ的にそれこそ食べられるやつですよね?風呂ではつまみ食いされて、ベッドでメインディッシュですよね?!?!
・・・・・・うん。落ち着け、俺。そして覚悟を決めろ。この男を落とすんだ・・・!存分に召すがいいよ!俺を!
「・・・う、うん」
意気込みとは裏腹に出た声は小さいものだ。しかも裏返った気がする。
まだ慣れきっていない接触に胃液を吐きそうに緊張するし、心臓だってバックバクだ。
俺は腕の中にいるのでこの鼓動が嗣にぃに聞こえないか心配・・・・・・いや、まてよ。俺は風呂でやらねばならないことがあった・・・!
俺は不意に思い出して、嗣にぃを見上げた。
「・・・つ、嗣にぃ・・・その、やっぱり一人で・・・後で入りたい、な・・・と・・・」
移動やらなんやらの合間合間で俺はネット様で調べたわけで。
俺と嗣にぃは男同士なんで、こう・・・ね。男同士のアレやソレ・・・セックスについても調べた。うっかりととんでもないサイトに飛んで死ぬかと思ったけど。
俺は恐らく、多分だけど受け入れる側でーーだって嗣にぃは慣らすって言ってた気がする・・・ーー使う場所は分かりきった出口専用のあそこだ。
出口専用なので受け入れるようにはなっていないし、女性の・・・場所のように清潔なわけでもない。
で、だ。中をシャワーで洗えば良いと書いてあったんですね。ネットに!
あらかじめそういうことをするのは夜を期待しているようで恥ずかしいが、何もなかったらなかったで良いけれども、あった場合に嗣にぃに嫌な思いをさせたくないし・・・俺だって、行為自体に集中したい。その為には洗浄が必須事項。どう足掻いてもそれは・・・いわゆる腸内の洗浄ーー浣腸にあたる。誰かがいてできる代物ではない。調べた感じだと便通があればそもそも出る物はないらしいのだが、やったことなんてないのでさっぱりわからない。
「どうして?」
あ、はい。聞かれますよね。迂闊に一度は良いと言った手前!
けれど、内容を言うわけにもいかない。というか恥ずかしくて言えるものでもない。
「えっと、その、ほら、ね。色々とこう、考えたいこと、とか・・・?あって。だから、その・・・とにかく、一人で・・・気になる場所を、洗ったり・・・嗣にぃも、一人でゆっくりと・・・!」
しどろもどろになりながら説明するも、嗣にぃが俺を離してくれる素振りはない。
多分ぼかして上手く言えたはずなのだ。そう信じたい。
綺麗にする前に触られるのは嫌だ。困る、非常に困る。
俺を抱き込む手をぺちぺちと叩くと、嗣にぃの顔がグッと俺の耳元に近寄った。
「僕が洗ってあげるから大丈夫だよ」
低めのウィスパーボイスで囁かれた。思わず俺の声が漏れそうになり、口元を押さえる。この男、声も良いからタチが悪い・・・。そうやってうかうかとしている俺を嗣にぃは抱き上げた。しかも横抱きで。
「ちょっ!一人でっ!!」
「僕がしてあげるから、心配ないよ」
あーーーーー神様ーーーーー無慈悲ーーーーー!なんでーーーーー!
俺はそのまま風呂場にドナドナされたのだった。
※
はい。こちら実況の春見ゆうです。絶賛風呂の中でーーーす!
脱衣所であれよあれよと言うまに脱がされた挙句、
「ゆうくんの肌、すべすべで気持ちいいよね」
なんて言いながら背中や胸を撫でられて、キスまでされた。
精神統一しないと俺の俺が反応しそうで気が気じゃない。
その上、風呂に入ってからも濃厚なキスを繰り返されて腰が抜けたあたりで身体を洗われる。相変わらず手で。くまなく、だ。
スポンジありますやん・・・とぼうっとなった頭で思ったが、もう言う気力も残ってなかった。頭も洗われて、浴槽の中に入れられる。
「僕も洗ってしまうから、少し待ってね」
頷いていいのやら悪いのやら。俺はバスタブの中で湯に浸かり、身体を洗ったりする嗣にぃを見ていた。
うーん、良い身体だ・・・今日も顔面と身体のバランスが素晴らしい。筋肉だってつきすぎず、細マッチョというやつで、均整が取れて綺麗なものだ。どうやったらこんな身体になるんだろうか。俺なんか鍛えてもほっそいまま。全体的にうすーいのだ。食べてもほとんど肉にならない。
「視線が痛いね、ゆうくん。そんなに僕を見てどうするのかな?」
俺の視線に気付いた嗣にぃが俺を見て笑った。咄嗟に視線を逸らしたが、後の祭りだ。俺、色々とバレないだろうか、これ・・・好きなので目で追う癖ができてしまっている・・・。
「な、なんでもないし・・・」
誤魔化して俯く。あーあーあー・・・。
いや、てかだな。先に風呂を上がってくれないと困るんだよな、俺は。密やかな場所が洗えない。
これ、どう言えばいいんだろう・・・。もうちょっと入りたい?それだと、僕も、って言われないかな・・・。
「さて、ゆうくん」
俺が色々と思考を飛ばしていると、嗣にぃが俺へと声をかけてきた。
はあ?と間抜けな声を出しつつ、俺は嗣にぃを見る。嗣にぃは実に美しく笑いながら、
「ゆうくんの気になる場所・・・お腹の中、洗おうか?」
今、なんて言いました?
※
はい。こちら実況の春見ゆうです(二度目)。はーーい!!洗われましたーー!
はいはい、終わりましたよ。洗浄終わりました!
もうね、死ぬかと思った。羞恥心で死ぬかと思った。
というか、嗣にぃってSっ気あるんじゃないだろうか・・・対面というこの上ない格好で膝の上に座らせられてお湯を中に注入された後、なかなか出せないでいた俺ーーそりゃそうだろう。人前だしーーの腹を押したのは間違いなくあの人だ。グッと押されて強制的に排出させられたのだ。
ずっとシャワーで流してくれてはいたけれど、死ぬかと思った。というか、死んだね。泣いた。嗣にぃの胸で涙を浮かべる俺に向かって、
「綺麗になったよ」
と楽しげに言った声を俺は忘れない・・・。二度はない。次こそは絶対に自分でやるし、させない。無理。あんなの慣れるわけがない。
で、だ。今はベッドの上に下ろされていた。風呂から出た後はささっと拭かれて、バスローブを着せられ、寝室に連れて行かれーー今に至る。
嗣にぃもバスローブを着ているが、羽織っただけなので、胸板が見えるわそれ以外も見えるわ・・・間接照明しか点いていないのだが、その仄暗さが色気を増させているようだ。目に毒ぅ・・・。故に俺は俯いていた。
ことり、とベッドの脇にあるサイドボードに何か置かれた音が聞こえたが、そちらを見ることもできなかった。
そんな俺の隣へと嗣にぃが座り、俺の肩を抱く。
「ゆうくん、こちらを向いて?」
ふふ・・・無理ぃ・・・。嗣にぃの身体だけなら大丈夫だったと思うが、先ほどの風呂場での羞恥が俺には残りまくりだ。見れるはずもない。視線なんか合わせられない。
俯いたままの俺に嗣にぃがどういう顔をしているかわからないが、その手が伸びてきて俺の顎を捉える。そうして、顔を上げさせようとした。
「や、やだぁ・・・」
手から逃げるように顔を背けようとしたが、嗣にぃはそれを許さなかった。俺の顎を少し強い力で上げさせて、視線を合わせようとする。
無理無理無理無理!どういう顔をしろと?!ぎゅっと目を瞑る。
「仕方ないなぁ・・・」
困ったような声に笑みを混ぜて、嗣にぃが呟く。次の瞬間、俺の唇に温かいものが触れた。
多分俺がキスに弱いのはもうバレてるんだと思う。今日一日だって何回されただろう。されるがままになるのもなんとなくシャクで、ちょっとは抵抗をしてやろうと思ったのだが・・・。
「ふ、ぁ・・・っ・・・んっ、うっ・・・」
唇の上を嗣にぃの舌が舐めただけで息が漏れてしまい、その隙間から嗣にぃの舌が入り込む。口内を舌で舐められるだけで、背中にぞくりと快感が走ってしまう。どれだけ弱いんだ、俺・・・。顎から手が耳へと移動して、俺の耳朶を揉みながら耳穴やその下の首筋を撫でた。
「んっ、ん、っ・・・は、ぁっ・・・やぁっ・・・」
キスが深くなると、体全体が敏感になるような気がする。そしてそれも嗣にぃは知っている・・・気がする。首筋から肩に滑った手が、バスローブを落として肩が外気に触れ、その部分の肌を撫でられるだけで、身体がひくりと震えてしまう。
嗣にぃの舌は俺の舌に絡んだままで、そこから伝わる熱でどうにかなりそうだ。
「も、や・・・っ・・・はっ・・・」
俺は瞑った目を開けてキスから逃げるように身を捩らせた。あっさりと嗣にぃは唇からも、その腕からも俺を逃す。思わぬ自由を手に入れた俺ではあったが、身体を捩らせた際に手をつき損ねて、ベッドへと落ちてしまった。シーツの上に横向きに身体を投げ出すこととなり、その上に嗣にぃが覆い被さってくる。
「ゆうくん、今日は随分と積極的だね・・・僕を誘ってたりする?」
「ちがっ・・・あっ、触ら・・・っ」
嗣にいの片手がバスローブの裾を捲って太腿を撫でてから、俺の臀部に辿り着く。肉の合間に指先が入り込んで、先ほど綺麗にされた場所の入り口を突ついた。
「ひっ・・・あ、やだっ・・・」
先程のように身を捩ろうとしたが、今度は許してくれなかった。俺の身体の上に体重がかけられ、動きを封じられる。そうした上で、嗣にぃの指先がトントンとその場所を再度突つく。
「そう?でも自分でこっちの準備もしようとしたり・・・ゆうくん、僕に、抱かれたい?」
低く、耳元に声が落とされた。
ちょおおおおおおおお?!なんで?!なんで、そんなこと聞くかな?!?!しかも耳元で・・・!抱か、抱かれ・・・?!そりゃ、そりゃね?!どういう手を使っても籠絡したいですからね、俺は、あなたをね!でも、それ聞くの?!聞いちゃうの?!くっそーーーーーー!!これ、YESって言って大丈夫なやつ?!準備しようとしたのも引かれないのか怖いのにさぁ!その上でそれに『はいそうでーす』って言って良いんだろうか・・・!
ああ、でも。違うって言ったらやめられるのかな?それは、嫌だ。チャンスはなるべく逃したくない。俺と同じく童貞であればまだしも。既に経験のある手練れそうなこの男を、この身体でどうにかできるかはわからないが・・・。
やめられては、困るし嫌だ。なので、俺はおずおずと嗣にぃへと視線を合わせて、口を開く。
「・・・・・・だ、抱いて、ほしぃ・・・・・・俺、嗣にぃの、奥さんだか、ら・・・」
抱いて、と繋げようとしたが声はだんだんと小さくなり、最後の方は自分でも聞こえないくらいの小さかった。そのまま視線を合わせておくことができず、俺は顔をシーツに埋めた。耳まで熱くて、頭の血管から血を吹きそうなぐらいだ。
無理ーーーーーーーーーー!もう無理ーーーーーーー!これ以上は言えない!
可愛い女の子であれば、ノリノリで迫ることも出来たかもしれないが、男である俺が男であるあなたにこうして告げるのも、ものすごっっっっい勇気がいるんですよ!お分かりください!
だめ、もう死ぬ。俺は死ぬ。本日二度目の死・・・。お墓の前で泣いてくれなくても大丈夫なので、尻にある手を退けて下さいぃ・・・。
けれども、嗣にぃは手を退けてくれるわけでもなく、それどころか俺の耳元に顔を寄せて、耳朶を強く噛んだ。鋭い痛みが走って、ひぁ、と俺は声をあげる。
「・・・嬉しいよ。ゆうくんが自分からそう言ってくれて。忘れないでね?」
抱かれたいと言ったのはゆうくんだよ、と噛んだ場所を嗣にぃが舐めながら囁いた。俺は何度か小さく頷く。すると、良い子だね、と嗣にぃが呟き身体が一度離れる。手も離れたので俺は息を吐いたがーー次の瞬間、尻の狭間にトロリと何かが垂らされた。冷たさに吃驚して、俺は顔を上げて嗣にぃを見た。
「な、なに・・・っ?!」
嗣にぃは視線が合うと、微笑む。その間もトロトロと粘着液のそれが垂らされて、先ほどまで指が突ついていた場所にも到達した。それを見計らってか、嗣にぃの指がまたそこに触れた。ぐに、と穴の上を押す。
「ひあっ。やだっ、嗣にぃ・・・っ、そ、れっ・・・」
「ローションだよ。綺麗になった後は慣らさなきゃ、ね。ちょっと気持ちよくなる成分も入ってるみたいだけど・・・どうだろうね」
ぬるりとした液体の助けを借りて、指の先が押した場所の中へと入ってくる。
気持ちよくなる成分って!!!それ!!初心者に使っていいやつーーーー?!
俺は心の中で叫び声を上げた。
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