第50話 幸せは足元にある

私たちはしばしば「幸せ」を遠くに求めてしまう。理想の仕事、成功、経済的豊かさ、誰もが羨む生活――これらを手に入れれば幸せになれると信じ、追い求める。しかし、そうして遠くばかりを見つめていると、足元にある大切な幸せを見落としてしまうことがあるのではないだろうか。


たとえば、日常の何気ない瞬間に目を向けてみる。朝、温かいコーヒーの香りに包まれるひととき。窓から差し込む柔らかな日差しや、通りすがりに聞こえる子どもの笑い声。家族や友人と交わす何気ない会話。そうした小さな瞬間こそが、心を穏やかにし、確かな幸福感をもたらしてくれる。


しかし、私たちは慌ただしい日常の中で、その小さな幸せに気づく余裕を失いがちだ。「もっと良い仕事がしたい」「もっと収入が増えれば」「いつか理想の生活が手に入れば」と未来に期待し、今の自分の生活に不満を感じてしまうことがある。そして、その「もっと」の先にたどり着いたとしても、新たな欲求や不安が生まれ、真の満足を得ることは難しい。


また、他人と比較することで自分の幸せを見失うことも多い。SNSに投稿される誰かの華やかな生活や成功を見て、「自分はまだまだだ」と感じてしまう。しかし、それは表面の一部に過ぎず、その人もまた悩みや苦労を抱えているかもしれない。他人の幸せと自分の幸せを比べる必要はないのだ。


では、私たちはどうすれば「足元の幸せ」に気づくことができるのだろうか。一つの方法は、「今に集中する」ことだ。未来の不安や過去の後悔に囚われず、「今、この瞬間」を大切にする。忙しい中でも立ち止まり、目の前の景色や自分の心の動きに意識を向けることで、日常の中にある小さな喜びを見つけることができる。


また、「感謝する習慣」を持つことも効果的だ。日々の中で感謝できることを意識的に探し、言葉にすることで、目の前にある幸せが浮かび上がる。たとえば、「今日も無事に一日が過ごせた」「温かい食事がある」「誰かと笑い合えた」といった、当たり前のように感じることこそが、実は大切な幸せなのだ。


さらに、「小さな幸せを記録する」のも良い方法だ。日記やメモに、その日感じた小さな喜びや感謝を書き留めることで、日常が愛おしいものに変わる。書くことで幸せを振り返り、その価値に気づくことができる。


幸せは、決して遠くにあるものではない。それは目の前に、私たちのすぐ足元に広がっている。大きな夢や目標を持つことも大切だが、そればかりに囚われず、今の生活の中にある「小さな幸せ」を感じることで、私たちはもっと豊かに生きることができるのではないだろうか。


「幸せは、今ここにある」。そう気づくことができたなら、日々の景色や瞬間が、これまでとは違った輝きを持ち始めるだろう。追い求める幸せではなく、すでに手の中にある幸せに気づき、それを大切にする生き方こそが、真の幸せなのかもしれない。

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