前のエピソード――第37話　期待しない生き方のすすめ

現代社会では、比較が私たちの生活に深く根付いている。学校では成績やスポーツの実力で他人と比べられ、社会に出ると収入や肩書き、ライフスタイルで評価される。さらにSNSが普及したことで、他人の成功や幸せがいつでも目に入るようになり、それが自分の価値や幸福感に影響を及ぼすことがある。比較することは成長のきっかけにもなり得るが、行き過ぎると自分を追い詰める原因にもなる。

たとえば、仕事の場面で同僚の成果を目にしたとき、自分と比べて「自分はまだまだだ」と感じることはないだろうか。このような比較は、モチベーションを高めることもあれば、「劣っている自分」を意識させ、自己嫌悪を引き起こすこともある。また、他人の成功を羨むあまり、自分の努力や成果を見失ってしまうこともある。

SNSもまた、比較の大きな舞台となっている。旅行先での美しい風景、豪華な食事、成功をアピールする投稿――これらを見ているうちに、「自分の生活は地味でつまらない」と感じてしまうことがある。SNSに投稿されるのは多くの場合、成功や喜びの瞬間であり、それを見た私たちは「他人は常に幸せそうだ」と誤解しやすい。しかし、実際には誰もが悩みや苦しみを抱えており、それが表に出ないだけなのだ。

家庭や子育ての場面でも比較は避けられない。「隣の家の子どもはこんなに優秀なのに、うちの子はどうして」という思いが、親のストレスを増幅させたり、子どもにプレッシャーを与えることがある。こうした比較が続くと、家族の絆が損なわれることさえある。

では、なぜ私たちはここまで比較に囚われてしまうのだろうか。その理由の一つは、「自分の価値を他人を通じて確認しようとする習慣」にある。他人と比較することで自分の立ち位置を知ろうとするのは、自然な心理かもしれない。しかし、それが過剰になると、他人の評価や成功が自分の幸福を左右するようになり、心の自由が奪われてしまう。

もう一つの理由は、「競争を重視する社会」の影響だ。学校や職場、SNSの世界では、他人より優れていることが評価されやすい。そのため、比較しないことが「怠けている」「努力が足りない」と感じられることさえある。

では、比較の苦しみから抜け出すにはどうすればいいのだろうか。一つの方法は、「他人ではなく過去の自分と比べる」ことだ。成長や成功の基準を他人に依存するのではなく、「昨日の自分より少しでも前進しているか」という視点を持つことで、他人に振り回されることが少なくなる。

また、「感謝の視点」を持つことも効果的だ。自分にとって当たり前に思えることでも、実は大切なものがたくさんある。たとえば健康、家族、友人といった存在に目を向けることで、他人の華やかな成功に対する羨望を和らげることができる。

さらに、「比較する場を減らす」という選択肢もある。SNSを見て心が疲れるなら、利用時間を制限する。必要以上に競争を強いる環境を離れ、自分の価値観に合った場所で過ごすことが、心の平穏を取り戻す助けとなる。

比較は、私たちを成長させる力にもなる一方で、行き過ぎると自分を苦しめる鎖となる。だからこそ、その鎖を断ち切るために、他人と自分を比べるのではなく、自分の歩みを大切にする姿勢が必要だ。他人の成功を喜びつつ、自分自身の価値に気づくことで、比較の苦しみから解放され、より自分らしく生きることができるのではないだろうか。