前のエピソード――第26話　時間に追われる社会の矛盾

現代社会は、情報にあふれている。スマートフォンやインターネットが普及したことで、私たちはあらゆる情報に簡単にアクセスできるようになった。しかし、この「情報の豊かさ」は、必ずしも私たちの選択を自由にするわけではない。むしろ、情報が多すぎることで迷いが生まれ、選択が困難になり、結果として行動できなくなることもある。

たとえば、何かを買おうとするときの経験を思い出してほしい。インターネットで調べれば、レビューやランキングが数えきれないほど表示される。それぞれに異なる意見があり、どれを信じればいいのか分からなくなることはないだろうか。選択肢が多すぎると、最終的に「どれも選べない」という状況に陥り、無駄に時間を消費してしまう。

また、情報過多は「正しい判断」を難しくする要因にもなる。特に健康や美容、ライフスタイルに関する情報は、根拠が曖昧なものや矛盾する意見が混在している。「この食材が健康に良い」「この方法は危険だ」といった情報が次々と出てくる中で、私たちは何を信じればいいのか分からなくなる。結果として、どの情報も鵜呑みにせず、逆に無関心になってしまうこともある。

さらに、SNSの発達によって、私たちは日常的に大量の情報に触れるようになった。一見有益な情報や新しい知識に思えるものも、実際には単なるノイズである場合が少なくない。過剰な情報の中で、自分にとって本当に重要なものを見つけることが難しくなり、必要以上に疲弊してしまう。

では、なぜ情報過多がこれほど私たちを圧倒するのだろうか。一つの理由は、私たちが情報を「常に追い求める」姿勢を持っているからだ。「もっと知りたい」「間違えたくない」という欲求が、情報収集をやめられなくする。結果として、選択肢を増やしすぎてしまい、逆に選べなくなるという矛盾が生じる。

また、情報過多の背景には、情報提供者側の意図もある。メディアやプラットフォームは、視聴者や利用者の注意を引くために、次々と新しい情報を発信し、消費を促す。その結果、私たちは必要以上に情報を浴びることになり、思考や行動が情報に縛られる。

では、この情報過多の時代において、選択の自由を取り戻すにはどうすればいいのだろうか。一つの方法は、「情報の取捨選択」を意識的に行うことだ。すべての情報を追いかけるのではなく、自分にとって本当に必要な情報だけを選ぶ習慣を身につける。たとえば、信頼できる情報源をいくつか絞り込み、それ以外の情報はあえて見ないようにするのも一つの手だ。

また、「情報を集める目的」を明確にすることも重要だ。何を知りたいのか、どのような決断を下したいのかをはっきりさせることで、情報収集の範囲を限定し、迷いを減らすことができる。目的が曖昧なまま情報を集めると、必要以上に選択肢が増え、混乱を招いてしまう。

さらに、情報から「距離を置く」時間を作ることも大切だ。SNSやニュースをチェックする時間を制限し、情報から解放される時間を意識的に設けることで、自分の考えを整理しやすくなる。情報に触れることをやめて初めて、自分にとって何が大切かが見えてくることもある。

情報は私たちを豊かにする一方で、自由を奪う力も持っている。だからこそ、情報に振り回されるのではなく、それをどう使うかを主体的に考えることが求められる。選択肢が多いことは、必ずしも良いことではない。自分にとって本当に必要な情報を見極め、迷いのない選択をすることで、情報過多の時代における自由を取り戻せるのではないだろうか。