第21話 格差社会が生む見えない壁

日本は長い間、「一億総中流」という言葉で象徴される社会を目指してきた。しかし、経済のグローバル化や少子高齢化、テクノロジーの進化といった時代の変化の中で、格差が広がりつつあるのは明らかだ。その格差は、所得や資産だけに留まらず、教育、医療、情報へのアクセスといったあらゆる側面に影響を及ぼしている。そして、その見えない壁が、人々の可能性を阻む大きな障害になっている。


たとえば、教育格差はその典型だ。都市部の裕福な家庭では、子どもたちは質の高い塾や学校に通い、幅広い経験を積む機会が与えられる。一方で、地方や経済的に困難な家庭の子どもたちは、同じような教育の機会を得ることが難しい。これにより、将来の進学や就職においても差が生まれ、結果として格差が次世代に引き継がれる悪循環が生じている。


医療の分野でも同様だ。大都市には高度な医療施設が集中し、専門医へのアクセスが容易だが、地方では医師不足や医療機関の閉鎖が相次いでいる。経済的に余裕のある人々は、予防医療や高額な治療を受けることができるが、そうでない人々は健康状態を悪化させても適切な医療を受けられないことがある。このような状況は、人々の寿命や健康の質にも直接的な影響を与えている。


情報格差も深刻だ。デジタル化が進む中で、インターネット環境が整っている人々は最新の情報やスキルにアクセスできるが、そうでない人々は取り残される。特に高齢者や地方の住民は、デジタル技術への対応が難しく、行政サービスや教育、就労の機会からも排除されることがある。これにより、社会参加が制限され、格差がさらに広がるリスクがある。


こうした格差が広がる中で、問題の根本が見えにくくなることがある。なぜなら、格差は往々にして「自己責任」という言葉で片付けられてしまうからだ。教育を受けられなかったのは「努力不足」、健康を損なったのは「自己管理の問題」、技術に追いつけないのは「怠慢」といった言葉が、格差の背景にある構造的な問題を覆い隠してしまう。


では、この見えない壁をどうすれば取り除くことができるのだろうか。一つの方法は、「機会の平等」を徹底することだ。教育においては、家庭環境に左右されずに質の高い学びを得られる仕組みを整えることが必要だ。たとえば、無料のオンライン教育プログラムや、地方への教育支援の充実が考えられる。


また、医療格差を解消するためには、医療資源を地域全体に均等に分配する取り組みが求められる。テレメディスン(遠隔医療)を活用すれば、地方や離島に住む人々でも専門的な診療を受けられる可能性が広がるだろう。さらに、医療費の負担を軽減する政策が、経済的理由で治療を諦める人々を減らす鍵となる。


情報格差に対しては、インフラの整備とリテラシー教育が不可欠だ。すべての人がインターネットにアクセスできる環境を提供するとともに、デジタル技術の使い方を教える機会を増やすことが重要だ。特に、高齢者やデジタル技術に馴染みのない人々に対する支援は、社会全体の包摂性を高める上で欠かせない。


格差社会が生む見えない壁は、一人ひとりの可能性を奪うだけでなく、社会全体の成長を妨げる。それを取り除くためには、構造的な問題に目を向け、すべての人が公平にチャンスを得られる仕組みを作る必要がある。私たちが目指すべきは、競争ではなく、共存を基盤とした社会だ。そのために、まずは見えない壁の存在を認識し、それを越えるための行動を起こすことが求められているのではないだろうか。

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