少女幻想怪奇録-第二章-

秋乃楓

第1話_祠ノ怪

それは中学を卒業してから後の事。

俺と昇は北見高等学校への進学が決まり、これまで付き合いの有った友達とも離れ離れになる事が決まった。

今は携帯電話が有る事から離れていても連絡を取る事が出来る。そして高校へ入学するまで退屈だった事から自宅から自転車を漕いで約1時間半掛かる場所にあるM神社へ深夜に友達3人と出掛ける事となった。

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「おーい、総士!早くしないと置いてくぞ?」



「解ってるよ!!もう少し待てっての!」


茶髪の少年が外に居た黒髪に眼鏡を掛けた少年へ促されながら立ち寄ったコンビニで会計をしていた。他にも彼と似た髪色の少年が2人外で待機している。総士と呼ばれた彼は目の前のレジに居る黒い長髪の女性へ金銭を手渡した。


「960円丁度お預かり致しました。レシートはご入用ですか?」



「えと、貰っときます……一応。」


白い肌をした華奢な右手の指先で店員がレシートを取ると総士へ手渡して来るとそれを受け取って彼は名前を見ていた。


「鈴村…黄泉さん……変わった名前ですね?」



「そうかな?私、此処のコンビニでアルバイトしてるの。キミはこれから何処か行くの?」



「…ちょっと友達と遊びに。」



「成程ね…あまり親御さんを心配させちゃダメよ?もう夜10時は過ぎてるんだから。」



「はーい…ありがとうございました。」


総士が出て行こうとした時に黄泉と名乗った店員は何かを付け加えて来た。


「…心霊スポットとかそういう危ない所へ行くのは止めておきなさい。絶対ロクな目に合わないから。」



「へ?あ、はい。」


一瞬だがビクッと身体が震えた。

彼女には今から行く場所の事を話していないのに何故か言い当てられた様な気がしたからだ。

茶髪のショートヘアの彼の名前は杉本総士すぎもとそうし、中学3年生。そして先程、呼んでいた黒い髪の少年は彼の友人である秋元昇あきもとのぼる。それから2人の共通の友達で灰色の髪をした加藤浩也かとうひろや、薄い赤色の髪をした新条啓介しんじょうけいすけ

啓介に至っては黒縁に丸レンズの眼鏡を掛けていた。

各々は自転車へ跨りながらコンビニで買った夜食代わりのホットスナックや菓子類を食べながら雑談をし、それが済むと目的地へと向けて自転車を漕ぎ始める。


「なぁ、昇?後どれ位で着きそうだ?」



「そうだな…多分20分位じゃねぇか?」


昇は左手首に嵌めている時計を見て呟いた。

そして漕ぎ続けた後、4人は自転車を神社の付近へ停めてからスタンドを立てて降りると鍵を掛ける。

それから持って来た懐中電灯を各々がリュックサックやサイドバックから取り出して明かりを点けると階段を

照らしながら歩き出した。

夜の神社は真っ暗な上に風で靡く木々の葉がざわめく音しか聞こえてこない事もあり、より一層不気味さが際立っていく。


「……すげぇ気持ち悪ぃな此処。」


総士が照らしながら呟いた時、浩也が「わッ!」と突然声を上げた。


「へへッ、ビックリしたか?こんなん怖くも何ともねぇって、なぁ?啓介!」



「え?ま、まぁ…総士はこういうの平気なのか?」



「ば、馬鹿だな!怖くねぇよ別に!!ほら行くぞ!昇が見えなくなっちまうから!!」


先に上がって行った昇の後を追う形で3人が階段を駆け上がって行き、漸く鳥居を見つけると階段を登り切った。視界に入って来たのは古くなった赤い鳥居の他に放置されたであろう赤い塗料を塗った木で作られた本殿とそこから少し離れた場所に有る小さな木製の祠、苔が生えていて手入れのされていない2体の狛犬の像だけ。

廃神社という事もあり、余計に気味が悪い。

総士達は境内に入ると呆気に取られていた。


「なぁ昇…マジで出んのか?」


総士が尋ねると彼は携帯を見せて来た。


「間違いない。写真だけ撮って帰ろう…さっきから鳥肌が凄いんだよ。」


総士達は近辺を探索していると不意に啓介が祠へ近寄って行く。そして彼はジロジロとそれを見た後にコンコンと右手を拳にして叩き始めた。


「へぇー、こんな家みたいなモン有るんだな?まるで人形の家みたいだぜ。」



「おい啓介、あまりそういうの触らない方が良いって!バチ当たるぞ!」



「バチぃ?信じねぇっつーの、そんなの!それより写真撮るんだろ?どうせなら此奴で──」


総士が止めに入ったが間に合わず、啓介がそこへ寄り掛かった途端に崩れてしまった。バラバラになった祠の有様は見るも無惨という言葉が良く似合う。


「あー…やっべ…。」



「壊しちゃったよ…どうすんだよ啓介!?」



「し、知らねぇ!どうせ廃墟だろ?祟りとかンなもん有る訳ねぇよ!!」


啓介がそう言い切った時、浩也が何かに気付いた。


「何か風が温くなった様な……気の所為か?それにさっきから誰かに見られてる気がするんだ。」


浩也の隣に居た昇もそれに対し頷くと啓介は壊れた祠を背にし戻って来た時、女性の悲鳴の様な叫び声が聞こえて4人はその場に固まっていた。


「な、なぁ…?今の聞いたか……?」


総士がそう話しかけると3人が頷く、そして昇が

「早く帰ろう」と切り出した時だった。


「…あーあ、壊しちゃったんだ。あの祠。」


その声は女性の声で自分達より歳上なのは間違いない。

声は本殿の方から聞こえた事から4人は恐る恐る振り返った。そこに居たのは色白の肌に黒い着物を着て白い帯を巻いた女性。

柔和な笑みを浮かべながら4人の方を見ているが

さっきまで人は間違いなく居なかった。

彼女は歩いて来ると薄い黄金色の瞳で各々を

見つめていた。


「…アレが有るから自由に動けなくて困ってたの。でも、壊してくれて助かったわ……これで自由に動ける。出してくれたお礼に──」


女性は総士達へ向けて右手を差し出すと、風の様な物を浴びせて来たのだ。お香の様なその香りは嗅いだだけでも何処か気持が良い。


「貴方達に呪いを掛けてあげた。今日から...そうねぇ、10日後に貴方達全員は死ぬ。うふふッ、どう?素敵でしょう?」



「ふ、ふざけんじゃねぇ!そんなの信じられるかよ!!」



「そ、そうだ!呪いなんて有るわけない!!」



浩也が声を上げ、直後に啓介が喰って掛かろうとしたが手足が思う様に動かせない、どうやら金縛りに合っているのは間違いない。

女性が近寄って来ると途端に悪寒と尋常ではない程の冷や汗が身体から出始めていた。そして至近距離で啓介の顔を両手で掴むと彼の顔を見つめている。


「...貴方が言えた口かしら?何なら此処で誰よりも先に殺してあげましょうか?手足をへし折ってから...それを引きちぎって...お腹の中をグチャグチャに掻き回して......化け物達の餌にしてあげても良いのだけど?」



「ひぃいいッ...!?嫌だ、嫌だぁああッ!!」


普段から強気で勝気な性格の啓介が珍しく怯えている。

つうっと冷たい指先が啓介を撫でた後、今度は総士の方へ目線を合わせて来た。


「......憶えておきなさい、哀れな子供達。何をしてもどう足掻いても貴方達が死ぬという運命は変えられない。死んだ時、迎えに行くから...楽しみに待っていてね?」


そして女性は不気味な笑みと共に姿を消し、金縛りも同時に解けると4人は大慌てで階段を駆け下りて各々の自転車に乗ると無言で足早に帰宅した。

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10日後に死ぬという現実を受け入れられぬまま、

総士は折り返しである5日目の朝を迎えていた。

ここ最近は眠りについても悪夢に近いそれを見せつけられる事からあまり眠れていなかった。

高校入学も決まったばかりなのに一気に人生のどん底へと叩き落とされた気分そのもの。

指定された日には入学式も控えている事からその日に死ぬというのが信じられない。彼は朝食を済ませ、気晴らしに散歩でもしようかと思って通りを歩いていた。


「はぁ…俺、マジで死んじまうのかなぁ。てか親に相談しても信じて貰えねぇだろうし……。」


歩きながら色々と考えている時に彼の携帯が鳴る。

メッセージのやり取りをするアプリの通知が来たらしく、どうやら個人間ではなく普段から使っているグループの方に誰かが書き込みしたらしい。確認してみるとそれは浩也からだった。


「えーっと、なになに?……は?嘘だろ?」


あまりにも唐突だった。

そこには[入院する事になった。]との記載が有ったのだ。

詳しく聞いてみると彼が通っている塾で講習を終えた帰り道で車に轢かれて左腕を骨折したのだという。

後に昇からメッセージが来ると彼は原因不明の体調不良で寝込んでいて、啓介に至っては音信不通。

つまり次に何か起こるとしたら必然的に自分という事。

急に悪寒が走ると共に思わず唇を噛み締めていた。

心臓の動悸が早まるのを感じ、何かの間違いだと思いながら歩き出す。気を紛らわせようとゲームセンターの有るビルへ向かう最中に工事現場の近くで信号待ちをしていると何かが外れる様な音がして悲鳴が上がった。


「……へ?」


振り返って頭上を見上げると此方へ建築資材と思われる赤茶色の鉄骨が数本落下して来たのだ。長さ約30cmでアルファベットのHを象ったそれは一直線に総士へ向けて降って来る。あれが直撃すれば間違いなく即死、逃げようにも足が動かない。


「あ…俺、死ん──」



「おいッ!ボサっとするな、早く逃げろ!!」


突然、女の人の声がして身体が左へ大きく突き飛ばされる。その直後に轟音を立てて資材が地面へ叩き付けられた。目を開けてみると自分の直ぐ真横に学生服を着た茶髪のショートヘアの女性が居て、総士と女性は同じタイミングで身体を起こした。歳は自分より1つ上に見えた。


「いッッ…何考えてる、あのまま突っ立って死ぬ気か!?」



「す、すいません……ッ…。」


総士が先に立ち上がった後、女性も立ち上がる。

歩き出そうとした時に彼女は彼の左手首を掴んで引き止めた。


「待った!……キミ、何処か具合でも悪いのか?」



「え?俺は別に……何とも…。」



「…嘘吐け、良くないのが憑いてる。」


女性は「こっちに来て」と話した直後、総士を連れて人気のない路地裏へと連れ込む。そして女性の連れと思われる黒髪の女性もそこへ合流すると彼女へ見張りを頼んだらしく、路地の方へ背を向けて立っていた。


「俺、別に何ともないっスよ!? 」



「解ったから背中をこっちに向けろ。ちょっと痺れるかもしれないけど…我慢してくれよ?」


総士が背を向けていると何かが貼り付いた途端、バチィッ!!という大きな音がした。身体に僅かな痛みと痺れが走った直後に振り返ると女性はその右手に何かの紙を握り締めていた。


「これで良し…と。普通の人に取り憑くにしては随分と厄介なのが取り憑いてたけど、何処で何をやらかしたんだ?」



「えーっと…てか、そもそもアンタ誰なんスか!?」



「私か?私は鈴村詩乃すずむらしの。そこに居るのは私の友達の日向朱里ひなたあかり。ま、こういう類に詳しい人……かな?」


詩乃と名乗った彼女は路地の入り口へ戻って朱里という女性へ声を掛けた。それから3人は表通りに出ると警察が駆け付けていてちょっとした騒ぎになっていた。

詩乃と朱里が総士と別れて立ち去ろうとした時、彼は2人の背を見て話し掛けて来た。


「……あ、あのッ!鈴村さんは…その、呪いとかそういうの信じるタイプっスか!?」



「…?何だい、藪から棒に。まさか新手のナンパでもしようとかそういう魂胆か?」



「えっとッ…その…此処だと非常に言い難いんスけど…。」


詩乃の横に居た朱里が小突くと「話だけでも聞いてあげたら?」と目線で促して来る。溜め息をついた詩乃は

彼の話を聞く為に近くのファミレスへと足を運んだ。

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店内へ入ると3人は4人掛けの席へ腰掛け、詩乃と朱里が

それぞれテーブルを挟んで正面に並んで腰掛けると総士だけ1人奥側の席へ腰掛けた。冷水の入ったコップを3人分店員によって置かれた後に詩乃から話しを切り出す。


「そういえば聞くのを忘れていたが…キミの名前は?」



「えっと杉本総士っス。実はその…俺、あと5日後に死ぬって言われてて……。」



「5日後に死ぬだって?…どうして急に。そんな事誰に言われた?」



「黒い髪で着物を着た変な女の人に言われたんです…夜に友達3人と噂の廃神社へ行った時に。それから1人が大怪我して、もう1人が音信不通…1人は病院に入院してて……。」



「噂の神社…SNSで話題になってるY神社の事か?それよりまだ中学生なのに深夜に出歩くのはどうかと思うけど……これに関してはこの際だし無視しておこう。」


総士はそう言われて幾度か軽く頭を下げていた。

そして更に詩乃は話を続けていく。


「話を整理するとキミは数日前の夜中に仲間3人と共にY神社へ行き、そこで見た黒い髪の女から10日後に死ぬと言われ…何も為す術がないまま5日目を迎えたと。」



「はい…。」



「成程ね、大体の話は理解したよ。」



「な、何とかなりそうっスか…?」



「…恐らくね。問題なのは音信不通になっていると話していたキミの友達の方だが……。」



「アイツ、結構人騒がせな奴だからそこまで心配しなくても良いと思いますけど?実は嘘でしたーなんて事が過去にも何度か有りましたから。」



「そうはいかない。私には知る義務が有るんだ…何故こんな事になったのか、そしてその裏で何が関与しているのかをね。」


詩乃は上着の内ポケットから取り出した棒付きの丸いキャンディーを総士へ向けて彼の方をじっと見つめる。

彼女の目は何処か真っ直ぐで何かを見通す様な目をしていた。そして軽い食事を済ませてから店を後にすると

詩乃と朱里は総士の案内で啓介の家へと向かった。

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着いた先は10階建てのマンションで啓介の居る階はマンションの6階。総士はエントランスへ来ると端末に彼の部屋番号を入力してインターホンを鳴らしてみたが応答はなかった。


「…ダメだ、全然出ないっス。」



「彼は此処に1人で?」



「確か受かった学校と実家が離れてるから此処に1人で暮らしてるって言ってました。」



「成程ね…正面が無理なら裏口から回ろうか。」


3人はエントランスを出て裏手へ回ると階段を見つけた。だが此処も鍵が掛かっていてマンションの住人しか入れない様になっている。詩乃は立ち止まって何かを確認してから振り返った。


「…杉本君、彼の住んでいる部屋番号は?」



「え?605号室ですけど…それがどうかしたんスか?」


朱里は何かを察したのか溜め息を付く。そして詩乃は

僅かに後退し軽く助走を付けたかと思った瞬間、器用に階段付近に有る格子状のフェンスへ飛び付くとよじ登ってから飛び越えた。地面へ降り立つ前にスカートの中身が見えたが黒いスパッツを穿いていた事からある意味ではセーフだった。


「鈴村さんッ!?何してんスか!?」



「内緒にしといてくれよ?緊急事態なんだから。朱里、杉本君を頼む。何かあれば連絡するから!」


手を振ると詩乃は階段を勢い良く駆け上がって行き、

1階、2階、3階、4階と上がって通り過ぎて行くと5階を越えて目的地である6階へと辿り着いた。

605号室の表札を探して歩いて行くと順に辿った末に問題の部屋を見つけ、その前で立ち止まった。


「605号室…此処だ。」


ドアへ近寄ると詩乃は細長いドアノブに手を掛けて引いてみると何故だかドアが開いた。本来なら施錠されていても可笑しくない筈、そして意を決して1歩踏み入れると冷んやりとした冷たい空気が肌へ触れる。

室内は昼間なのにもか変わらず何処か薄暗かった。鞄から数枚の形代を取り出し、それを左手に隠し持ってから廊下を歩いて行く。

左右には2つの部屋のドアが有り、真っ直ぐ行った先がリビングでその扉の前へ差し掛かると彼女は音を立てずにドアを開いて中へと入った。

室内はカップ麺やコンビニ弁当の空き容器、お菓子の箱等が散乱していて、台所に目をやるとゴミの入ったビニール袋が幾つか転がっている。生活感が丸出しのリビングは片付けも何もされていないのは明らかだった。


「汚ったないな…少しは片付けたらどうなんだ?」


カツンと右足の先に当たったのはエナジードリンクの空き缶でそれに視線を取られた瞬間、背後から人の気配を感じ振り返ると啓介が詩乃へ向けて包丁を振り上げて襲って来たのだ。咄嗟に振り返って両手を交差させて彼の手首を受け止めると包丁の刃先が詩乃の額付近で止まる。


「ぐぅうううッ!?い、いきなり来るなんて…ッ!!」



「殺してやる…殺られる前に…殺ってやる!!」


壁際へ追いやられた詩乃は何とか払い除け、彼の腹部を右足で蹴飛ばして離れる。啓介が姿勢を立て直して包丁を荒々しく振り回して襲って来た。


「死ねぇええええッ!!」


袈裟斬りの形から振り翳して来た包丁の刃を詩乃は身体を右に逸らして躱し、続く攻撃も左に逸らして躱した。今度は刺突が繰り出されると彼女は左手で手首を殴って刃を左斜め下側へ振り下ろさせ、即座に彼の顎を右手の平で掌底を放って殴り飛ばす。ふらついて後退した所へ彼女は左手にある形代を全て投擲し彼へ貼り付けた。


「かッ、身体が…動かねぇッ…!?」



「危ない危ない……殺されるかと思った…悪いけどこのまま大人しくしてて貰うよ。」


詩乃は啓介に近寄ると別の札を彼の額へ貼り付けると急に全身の力が抜けたのかその場に前のめりに倒れてしまった。彼女が咄嗟に足元に落ちていたクッションを敷いた事で頭を打つ事は無かったが彼が倒れた時にズボンのポケットから青色の小さな球体が転がり出て来る。ビー玉と同じ大きさをしたそれは青く透き通っていた。


「……?ビー玉…か?」



[…その玉から邪気を感じる。そやつが拾って来たのではないか?]


詩乃の右側から女性の声が聞こえ、彼女は自分にしか見えないそれに話し掛けた。


「邪気を?…私には感知出来なかったけど。」



[ヒトでは感知不可能な程に微弱なモノだ。恐らく、先程の奇行もこの玉による物…。]



「成程ね……それより、漸くそれらしくなったか?母さんの提案とは言え…何の霊か解らないお前を式神化させて私が使役するなんて前代未聞な事なんだぞ?」



[嫌なら断れば良かったであろう。最も、お前の母君は妾の事を好いておる様だがな。]



「…母さんの生まれは式神専門の家系、だから何見ても驚かないんだよ。それに勾玉へ封じられる怪異には限りが有る……凶悪で害を成し兼ねないモノはこの中に封じ込めて対処するのが一般的なんだってさ。父さんが言ってた。」



[ほぅ…。時に詩乃よ、お前も薄々気付いているのではないか?今回の騒ぎの大元……それが何なのか。]



「……心当たりなら有る。当たって欲しくないし、出来る事なら当人から話して貰いたいけどね。」


そう呟くと彼女は啓介を術で眠らせてから

部屋を後にし、階段を利用して神妙な面持ちと共に

2人の待つ1階へと戻って行った。


(つづく)

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