その企画を考えたのは僕です!

崔 梨遙(再)

1話完結:2100字

 30代の後半、僕はフリーの採用コンサルタントだった。フリーの採用コンサルタントと言うと、かっこつけ過ぎていると思う。実際、そんなカッコイイものではなかった。まあ、メインは求人広告と採用業務の代行。採用業務の代行というのは、求める人材像を明確にして、採用人数を決め、媒体を決めたり、面接の代行や同席もする。合同説明会の助っ人もする。パンフレットも作る。というのが仕事なのだが、それだけでは安定した収入が得られないことが多く、採用と全く関係無いこともした。


 例えば、食器洗浄機の営業。採用と全く関係が無い。だが、“完全歩合制で売りこんでくれ”と依頼された。お試し用の実物が届いた時、“これは売れないな”と思った。思ったのだが、飲食業のお客様がいたので、3件、2週間とか1ヶ月、お試しで導入してもらえた。だが、お試し期間が終わって食洗機を回収するときに、


「お買い上げいただけますか?」


と聞いたら、


「要らん」


と言われた。予想通りだ。他にも、“完全歩合制で売ってくれ”と言われる物が多々あった。だが、どれも“これは売れないだろうなぁ”という物ばかりだった。


 だが、人脈だけは広がる。個人で活動している知人も増えた。要するに、みんな苦しいから人材を紹介し合うのだ。みんな、お金になりそうな事業や企画に頭を悩ませていて、知人を広げることでチャンスを広げようとしていたのだと思う。


 そんな中、50代で、いつも自信満々な横沢という人を紹介された。僕は問うた。


「横沢さんは、何が出来るんですか? 何が得意なんですか?」

「儂は集客や! 客を集められる自信がある! 何か企画さえあればなぁ。崔さん、何かいい企画は無いか?」

「企画はありますよ。“表現のプロが教える女子力アップ研修”です。どうですか?」

「それ、おもしろいやないか、その“表現のプロ”って誰や?」

「僕の知人の女性です。ご自身、レースクイーンやモデルをやりながらモデル事務所を経営している女性です。東京在住なのでギャラに交通費も必要ですが」

「そのモデル会社の女社長を紹介してくれ」

「いいですよ、ブログを見てください(当時はブログが流行っていた)、このブログです。このブログに、僕の紹介でこういう研修をやりたいけど講師をやってくれるか? メッセージを送って女社長の反応を見てください。後はギャラの交渉です。交通費のことは忘れないでください」


 僕はチラシを作った。そして横沢さんにチラシとチラシのデータが入ったUSBメモリを持って行った。タイムスケジュールのたたき台も持って行った。それもUSBメモリにデータで入れてある。


「崔さん、女社長の方は講師をやってくれるらしい」

「そう思って持って来ました。こんなチラシはどうですか?」

「ええやんか、これで行こうや。でもな、崔さん、後は儂等に任せてくれ」

「はあ? ほな、僕は?」

「ここまでやってくれたら充分や。後は儂等で進めることにした」

「わかりました。そういうことなら、今後のことは僕は知りません。ノータッチです。成功しようが失敗しようが、あなた達の責任です。ただ、女社長には誠意のある対応をしてくださいね」

「大丈夫、責任は儂がとる!」


 僕はドアを蹴って横沢の事務所を出た。僕の企画なのに除け者にされた。腹が立って仕方ない。女社長のことは気になったが、僕はもう無関係なので考えないことにした。そして、少し日が経った。


 いきなり、僕の所に横沢からメールが来た。


“イベントまで後1週間、現在参加希望者1名のみ。残念ながらキャンセルに決定”


 はあ? 何をやってるの? 集客には自信があるって言うたやんか、僕でも女性10人くらいなら集められるぞ! でも、僕は知らない。僕は除け者なのだから。


 すると、女社長から電話があった。


「崔さん、イベントがキャンセルになったんですけど」

「僕もさっき、横沢からのメールでキャンセルになったと知りました。実は僕、企画だけ盗られて、その後はずっと除け者にされているんです」

「せっかく研修内容を考えたのに」

「キャンセルになるとして、キャンセル料は幾らなんですか?」

「元々約束していたギャラが6万円なので、半額の3万円です」

「この企画を進めたのは横沢です。横沢からきっちりキャンセル料を取ってください。僕は除け者にされていたので、イベントの進み具合がわかりませんでした。すみません。横沢は責任はとるからと言って僕を除外したのですが、もし、横沢からキャンセル料をもらえなかったら、僕がキャンセル料の3万を支払います」


 数日後、女社長から僕にメールが来た。


「今回、キャンセル料はいただきましたが、気持ちのいい取り引きではなかったので、今後、崔さんとのお取引はいたしません」



 僕は、ビジネスパートナーを失ってしまった。企画だけ盗られてビジネスポアートナーを失うって、どういうこと? その日、僕は1日寝込んでしまった。怖い、怖い、お化けよりも人間の方が遙かに怖い。これ、実話ですから。皆様、損をしないようにお気を付けください。大口を叩く人は、そこにもいるかもしれません。







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その企画を考えたのは僕です! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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