合わせ鏡 シーズン3

ブライトさん

第1話 ~ならず者~

高校に通いだして、早1年と数か月が過ぎた。

身長168㎝。決して背が高い方ではないが、チビと言われることはなくなった。


今日も少し混雑した電車にゆられて通学している。

車中を見渡すと二十歳ぐらいだろうか、僕より年上に見えるひときわ紫色の淀みに包まれた、一人の男がいた。


その男に軽く意識を集め、現われ出た合わせ鏡にその男を映し出す。

周囲の時間はゆっくりと止まり、鏡の中の時間だけが刻まれていく。

幾重にも映し出された鏡の中の男に向かって「やめた方がいいよ」と思念で語り掛けた。

その男は睨みつけ「なに?なにもしてない」と反論する。

矢継ぎ早に「僕は君の身勝手な欲望を見つけることができる」と畳みかけた。

その男は大きく目を見開いて鏡の奥の無限の彼方に逃げ出した。


意識を戻すと、周囲の時間が動き出した。

僕は男に近づいて


「あのさ、やめた方がいいよ」


と耳元でささやいた。


男は慌てた様子で、僕の方に顔を向け睨みつける。


「なに?」

「なにもしてない」


「いつでも、どこでも、何度でも、僕は君の身勝手な欲望を見つけるよ」


少しばかりのはったりを入れて、破廉恥風男にそうささやいた。

男は、見透かされたことに驚愕しているようだった。

電車が駅に着き、扉が開くやいなや、両手で人をかき分けながらホームの奥に消えていった。


「改心してくれるといいんだけど」


その日以来、その男を見かけることは無くなった。


中学を卒業し、高校に通い始めた頃から僕の思念を司る感覚器官は視覚野にまで影響を及ぼすようになっていた。


そんなにはっきりとは色分け出来ないけれど、感情の思念はおおよそ、


負の感情の青

憤怒の赤

性欲の紫

喪失の灰色

恐怖や絶望の黒

それ以外

の区別はついた。

そして、自制を無くした感情の色はひときわ色が濃い。


色が見え始めた頃、

青い色をまとった人達が、一人の生徒を囲んで理不尽に詰っていたり、

赤い色を放つ人サラリーマンが、駅員さんにイチャモンを付けて怒鳴り散らしていたり、

紫色がにじむ若い男性が、電車の中で女性にいかがわしいことをしていそうだったり、

灰色や黒い色に覆われた人が、うつむいてホームの端を歩いていたり、


見えていたとしても、僕はどうしていいのかが分からなかった。

だから、僕は悪くないと言い聞かせて、ただの高校生の生活を送ることだけを考えていた。


あの時、あの人との出会うまでは。

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