オモテヤ

ゐ己巳木

其の壱 子妖と面・上

―――――ここは人と妖で賑わう華の都。そんな花盛りの都で、色とりどりの面を売る不思議な男がおりました。そして、その店にやってくるものも様々な思いを抱えて店にやってくるのでありました――――



◇◇◇◇◇   ◇◇◇◇◇   ◇◇◇◇◇



都の大通りで、面を売っている御面屋の男がいる。


「いやぁ、新しいのが買えてよかった。もうこの面も古くなってしまってね。でも気にいったのがあったから。」


「その面はちょうどそれで最後なんで、お客さんは運がよかったですねぇ。」


客は男にお金を渡した後、面を片手に上機嫌で帰っていった。


男は先ほどの客を見送ると、立ち上がり大きく伸びをした。日はもう西に傾いている。


「もう面も全て売れましたし、今日はもう帰りましょうかね。」


帰る支度をし、大通りを後にする。迷路のような袋小路を抜けると、明かりのついたままの小さな面屋が現れた。屋根から垂れている看板には〝おもてや〟と書かれている。


明かりを消すのを忘れていた、とうっかりしていると、店の前に小さな影が見えた。


「ウチに何か用がおありですか?」


男が聞くとその影はこちらに気付いた様で近づいてきた。よく見ると、実体はあるみたいだが、周りに黒い霧のようなものがフワフワと巻き付いている。そして、大通りにいた妖よりも遥かに小さい。


――――――ああ、〝子妖〟だ。



子妖(こよう)とは、その名の通り子どものあやかし、ということ。妖に子供も大人もあるのか、と思ってしまうが、一般の妖よりも妖力が小さく未熟の〝妖と呼ぶにはまだ早い、完全ではない状態〟のことを、人々が勝手に名付けたのだ。




「あのっ、もしかしてここのお店の人ですか⁉」

「ええ、そうですg」

「えっと、えっと、僕は〝かげまとい〟っていうんですけど、御面がここで買えるって聞いて、ここに来たけど明かりはついていたのに中に入れなくって…えーと…」


元気よくしゃべる様子に少し驚きながらも、一生懸命話しているかげまといに、男は優しく語りかけた。


「面が欲しいのでございますね、かしこまりました。」


かげまといは大きく頷いた。



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