異世界ファンタジー、魔法がないとはこれ如何に~転生者俺のみ魔法使い~

岳鳥翁@書籍一巻発売中!

第1話:異世界転生

『死』というものは、生きていればどんな生物であっても必ず訪れる絶対の理だ。


 不死なんてものが考えられるのは、それこそファンタジーの世界でお馴染みの吸血鬼とかそういう現実ではありえない生き物だけだ。


 現実では絶対に避けられない『死』


 だからこそ、歴史に名を連ねる権力者たちはこれを恐れ、そしてそれを回避しようとしたのだ。


 始皇帝の話なんて有名だろう。あれに関しては、不死の薬を探すために派遣した一団が戻ってこなかったとか聞いているが。

 個人的な意見としては、霊薬探しに必要と言ってたんまりと金をもらってからどこかへ逃げたんじゃないかと思っている。


 さて。そんな物語が始まる前の、どうでもいいかっこつけたようなモノローグじみたものを脳内で垂れ流しているのが俺である。『死』について考えるとか、如何にも何かの始まりっぽいものではないだろうか?


 もっとも、俺程度のモノローグなんぞ、物語に置き換えてみれば前書きにもならない程度の独り言でしかない。


 そんな、誰かに興味を持ってもらえているとは到底思えない内容を、なぜこうもダラダラと俺の脳内で垂れ流しているのか。安心してくれ、ちゃんと意味がある。


 少なくとも、俺のしょうもない脳内モノローグよりは大衆が興味を持つはずだ。


 なんと、俺は死んでいるのである。


 ほら、これだけでも意味が分からない導入だろう。読者なんてものがいれば、「は?」と顔をしかめることは間違いない。誰だってそうするし、俺だってそうする。


 当然ながら、こんなことを言ってもすぐに理解してもらえるとは思わない。そもそも死んでいるのであれば、今こうして思考し、脳内でずっと話している俺はなんなのかを問いたい頃合いだろう。


 俺が知りたいわそんなもん。

 何なら、俺が一番理解できていないともいえる。


 子供を助けた代わりに、己の体が車とぶつかったのだ。一瞬ではあったが衝撃だって感じたし、体が宙を舞う感覚も、全身が砕ける感覚だって覚えている。ほんとうに、一瞬の出来事だったが。


 どう考えても、『死』は避けられない状況だろう。むしろあんな状況で生きていたら、俺は改造人間か突然変異の人間もどきの何かだ。


 生物に等しく訪れる『死』ではあるが、まだ大学生という人生これからの時に訪れなくても良かったのではないのだろうか。


 明日は我が身とはよく言ったものである。前日の俺は、そんなことも考えず一人で酒を飲みながら撮り貯めていたアニメを消化していたぞ。もっと悔いのない生活してけよこの野郎。俺のことなんだが。


 だからと言って、そんな俺よりも若い、それも十にも満たぬ子どもが犠牲になればいいとは到底思えないわけで。


 ふと思い出すのは遊んでいたであろうボールを追って道路へと飛び出していった子供の姿。


 迫るトラックに、周囲に響く母親の悲鳴。


 ほんと、よく見てたもんだ。そんで、よく体が動いたもんだ。


 確かに子供は好きではあるが、ここまでくると極まったものだな、と自嘲気味に笑おうとしたが笑うための体がないためそれもできない。


 諦めて、内心で笑っておこう。


 ロリコンショタコンと揶揄っていた同期は、いったい俺の死に様を聞いてどんな反応をするのだろうか。バカ野郎め、子供が笑ってるのが嬉しいんだろうが。


 ……ああ、それと親だな。


 先立つ不孝をお許しくださいってところだ。本当に、親より先に死ぬなんて親不孝者のそれである。また会えたら、見事なジャンピング土下座でもかましてみせよう。


 もう、その土下座すらできないのだが。


 さて


 長々と俺の回想語りで長引かせてしまったわけだが……お待たせ、待った? とでもいうべきだろうか。


『いや、状況整理の時間も必要じゃろうて。それくらいは構わん。それに、ある程度は把握できているようじゃし、こちらとしても取り乱されるより楽じゃわい』


 始皇帝云々のあたりからずっと俺の目の前にいた老人……老人? なんか、ぼやけてよくわからないが、話し方からして老人ぽいので暫定で老人だ。性別も分からないけど。


 ともかく、ずっとこちらを向いたままの老人に話しかけようとして見ると、驚くべきことにこちらが言葉を発しているわけでもないのにその問いかけに反応してくれた。


『なかなか、面白い思考回路をしておるのぉ……まぁ、今のお主に言の葉を発する器官はないが、ここではそれも関係がない。気にせず、そのまま続けるといい』


 あまり説明になってはいないが、ここで突っ込みすぎるのも野暮な気がするため一先ずは置いておく。


 そしてこんな状況で目の前にいるのだ。あなたが説明か何かをしてくれる、という認識でいいのだろうか。


『うむ、それでよい。神の心は寛大じゃからの』


 さらっと、自身のことを神だと名乗った老人。そこにツッコむとキリがなさそうなので、とりあえずは俺に関することを聞いてみることにした。


 では、ここはどこなんでしょうか?


『死後の世界。その手前、と言ったところじゃな。故にお主に肉体と呼べるものはなく、今のお主は魂のみが剥き出しのままここにおる。まぁ、死んだことを理解しているのなら理解できるじゃろ』


 一問一答みたいで疲れるわいと息を吐いた老人は、『とりあえず、話を聞いてから質問せい』と話を続ける。


 曰く、俺が死んだのはことは事実ではあるが、そもそもの話、俺が死んだあの時は助けた子供が死ぬはずだったという。

 ただそこで、俺が助けに入って代わりに死んだことで運命が覆ったのだとか。そんな俺に興味を持ったこの目の前の老人……神を名乗る存在は、そんな人間を別世界に送り込むことでどんな変化があるのか、娯楽として楽しみたいのだとか。


 ……とりあえず、邪神かなにかの類ですかね?


『バカたれ。神相手に罰当たりなこと言うでないわ』


 いやだって、発想のそれがもう邪神じゃん。そうでなきゃ、トリックスターか何かだよ。


 とはいえ、大体の内容は理解したつもりでいる。生まれ変わる、ということはまぁサブカルに浸っていた俺からすれば、転生に当たるのかと考えてしまうのだが、そういうことなのだろうか。


『そういうことじゃの』


 そういうことなんだそうだ。


 まぁでも、その運命とやらが俺がいたことで覆ったのならそれでいい。あんな感覚を、小さな子供が体感して死ぬなんてそんなことがあっちゃいけない。

 それで俺も死なないのが一番よかったが……死んでしまったのならもう何を言っても変わりはない。こうして、生まれ変わる権利というものも得られるのだから、良しとしておこう。


『何やら色々と考えておるようじゃが……大丈夫か? もしまだ落ち着かぬのなら、十分体を休めてから転生するとよい』


 その体がないんじゃがな、と茶目っ気たっぷりの神様に、俺はハハッと乾いた笑いを零す。


 心配そうな声が投げかけられるが、まぁ大丈夫だろう。さっきから想像以上の事が起こっているため感覚が麻痺しているだけなのかもしれないが、それでも何とか普通に受け答えできているのはサブカルのおかげ、と言える……のだろうか?


 ……まぁ気にしても仕方ない、か。


 一つ聞きたいのはその『生まれ変わって生きる』と言うことについて。これはどういうことなのか、詳しく聞きたい。それは俺の考えている、転生とかそういう話でいいのだろうか。


『認識は間違っておらんよ。元の世界ではない、という条件は付くがの』


 どうじゃ? と再度問いかけてくる老人。


 普通に考えれば怪しさ満点で断ることができる。だが、現状がすでに普通ではないのだ。


 それにおそらくだが、これは普通では考えられない特別措置とも考えられる。断れば、俺もその輪廻とかいうのに加わることになるのだろう。


 その生まれ変わりで、俺は俺のままでいられるのか。


『保障しよう。お主はお主のまま、別世界に生まれ変わるのじゃ』


『死』というものは、生きていれば必ず訪れる絶対の理。残念ながら、それは俺も例外には含まれず、意図しない形でその『死』を迎えることになった。


 だがしかし、別世界であるとはいえ、そんな理を覆せるのであれば。


 そんなあり得ないことが通じるというのであれば。


 それはなんて、わくわくすることなのだろうか。


 そんなことを考えるのだった。

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