山小屋のルージュ~最果てからはじめる英雄譚~
DAI!
第1話 すべては己の中に
ぼんやりと木々の隙間から月が見える、当たり前のような景色だが今その景色はひどく悲しく滲み、やりきれない怒りがあの光にすらぶつけたくなる。
今まで馬鹿にされようがこの人とはいつか分かれて過去になるからと自分の中で消していたこともなぜか蘇ってくる。
「僕は僕を認める為に生きるんだ」
あきらめと言う我慢の蓋をこじ開けて「怒」と「不公平」という“本心”を呼び覚ました。
そして喧嘩や反論する勇気すらなかった自分が初めての一歩
「そして、生きてあいつらをぶん殴る」
それだけがこの明日を知れぬ森で命を繋ぐ原動力となっていた、
……全ては面接の日から始まった。
チュンチュン
窓から差し込む意地悪な日の光で目を覚ました、
石作りの無機質な壁、
必要最低限の机とタンスが置いてある部屋だが僕にとっては最高の安息地、
このまま起きずに夢の中に入れたら幸せだったのにと思いながらベッドから出る、
今日も疲れる一日が始まる、
「大丈夫」
部屋を出る前にいつもの様に自分を鼓舞し入れてドアを開けた。
「おはよう!母さん、父さん」
心とは裏腹に元気よく挨拶をすると両親がそれに答えてくれる、昔から両親は優しいけどその視線は哀れみを宿したどこか心に冷たく悲しい感じのする目をしているあの日から……
それは入学時に可視化された自分の能力値の低さを見たときの両親の顔は凍りついた表情は忘れることはできない、
能力が全ての優劣を決める、こんな僕の親になってしまったことを申し訳ないという気持ちが、せめてのもの償いとして明るく振舞い気持ち良い挨拶や態度でこの異様な状況を生み出している。
「それじゃ!行ってくるね」
どんな扉よりも重いであろう木の扉を頑張って開き、そして一日が始まる。都市を繋ぐゲートを潜るとそこには石の道にレンガの家が広がる綺麗な都市へと移転する、
今日も嫌な暗い綺麗な青空だ……
「おう!ストーンおはよう」
やっかいな奴が来た……
ストーンと言うのはあだ名だ、
本当の名前はルージュという名前は髪の赤色から宝石『ルージュ』に由来して名付けられが、それを皮肉って宝石などは烏滸がましいからお前は無能なタダの石(ストーン)だとからかう同級生達によって付けられた。
正直面倒だ、だからそういうときは……
「おいおい、そんなこと言ったら石に失礼だろ」
「ははは、その返し最高だよ!お前笑いのセンスはあるんじゃないか」
そう笑われたらニコッと笑い返すいつもの流れ、
これで良い、反論したとこで面白がるのは目に見えているし怒れば余計に面白がる、
これが最善であり最高のかわし方だ。
道化でもなんでも楽しませてればマシなのだろうと自分に言い聞かせる、
少し小高い坂を上るとそこには白い箱の様な校舎が連なっていて朝から大渋滞だ、みんな正面の大きな白い鷲のついた正門から校舎の中へと足早に入って行く、
そんな中 正門を通り過ぎて校舎の裏手に繋がる小道へと進む、こちらの道はほとんど人が居ない、というか入ることができない。
なぜなら裏手に入れるのは獣師と呼ばれる適性をもっている者だけで、この先には獣舎とよばれる建物がある。そこには様々な「獣」と呼ばれる生き物がいる、偵察などに長けた鳥や移動に適した馬、中には戦闘に適した生き物など様々だ。「獣」とは主人の召喚により発現した生物、または自然界やダンジョンなどにいる生物と意思をかわすか従属させられたモノであり、その従属された獣は体の一部に同じ紋様が発現する。
獣師よっては経験や育成により強力な力をもった獣を配下として戦闘や獣の力を借りて魔法を行使する者、一人で数十体の獣を操り活躍する者もいる。
「おはよ!今日もうちのギリフォンは朝から手入れが大変でよ~なにせ大喰らいだからよ」
そういって牛舎のような建物から顔を出して話しかけてきたのは同級生だった、横には馬と鷲を合わせたような獣が肉の塊にかぶりついている。
「おはよう、朝から忙しくて大変だね」
「そうなんだよな、お前の楽で良いよな」
そう言って指さした箱に居るのは僕の希望だったモノと今の癒しだ…
なんの取り柄も無い僕に唯一あったのは獣師の適正……嬉しかった、
僕にも誇れるモノが出来たと……
だが最初の授業でその希望さえ砕かれた、
自分の獣を召喚する時にみんなが鳥、馬、強そうな獣の幼生を召喚していくなか、
俺が召喚出来たのはケセラという埃の様なモンスター、一応モンスターにカテゴライズされているが、意思があるのだか無いのだかわからない空中をフヨフヨ浮遊して、屋根裏などに住みつき埃と一緒に箒で掃除されてしまうような生き物、 このような最弱の獣を召喚したのは前代未聞であり、連れているモンスターがステータスの獣師にとっては致命的な出来事であり今でも伝説となっている。
この時わかったことは僕の低い適正値と最後の希望が打ち砕かれたことだった、
「おはよう、プクボン」
「……」
何を考えているかわからないがこっちを見てフユフユしながら俺に寄ってくる、
最初の頃は希望を壊され見るのも嫌だったけど、こいつには何の罪もないし、喋りはしないけど僕を頼りにしてくれるそんなそぶりをみせてくれる、それが何故か嬉しくて愛着が出て今では唯一の癒しだ。
「ほら、ご飯だよ」
近寄ってきたプクボンに微力な魔力を灯した指先を近づけてやると、
フユフユ近づいてきて魔力を吸っている。
「こっち手伝ってくれないか?」
「あ、いいよ」
ケセラは基本魔力の補充だけで問題ないが、他の獣は毛繕い、爪切りなど種類によって多様であり、その手入れを怠ると還ってしまうものもいるのでケアは大変なのでよく手伝わされるが嫌いではない、むしろちゃんとケアしてくれると嬉しそうに反応してくれる姿をみるのは好きな方だ、なので将来的には馬車を運転する御者か獣の管理人になれればと思っている。
「獣師達そろそろ上がれよ」
先生の声が聞こえた、そろそろ教室に戻らないと…
教室に行くといつものようにからかう学友の期待に応えながら受け流し、
時間が過ぎるのを待っていると担任のローバート先生が自慢の髭を撫でながら教室に入ってきた。
起立!
礼!
着席!
「ええ、本日は各自の進路について個別懇談がありますので呼ばれたら進路室に来るように」
今日は進路懇談の日だった、
希望と成績を元に進学及び就職先への斡旋があり、
翌週からその職場体験及び学校、体験入学をすることになる。
ちなみにこの斡旋については体験後に変更申請も出来るが、
それを行ってしまうと職場、学校での立場が非常に悪くなることから変更する者はほとんどいない、
例えば実力以上の学校、職業を選べば身の丈を知らない愚か者扱いされて、
下を選べば自信が無い志の低い者、弱い者のレッテルを貼られてしまう。
「ええ、それではアッシュ君から懇談室に行くように」
授業と並行して懇談は進んで行く、
みんな授業のことなど頭に入ってこない
懇談から帰ってきて笑みを漏らす者も居れば、
落胆の色を隠せない者もいる。
贅沢は言わない、ただ最低ランクの御者でも良いし馬の管理師でも良いから、
そっちの職業に就ければ……
「ルージュ、懇談室へ」
「はい」
あとは神に祈るだけだ……
懇談室までの廊下が異常に長く感じる、
そこに待っているのは絶望か安らぎか……
心臓の音で周りの音が聞こえなかった。
コンコン
「失礼します」
「やあ、いらっしゃい」
中肉中背の人の良さそうな学園長は、白髪交じりの髪を掻きながら正面の席を引き座る様に促す、
「え~とだな…単刀直入にいうと、君の志望には添えない答えとなった」
一瞬頭の中が真っ白になった、それは小さなロウソクの炎を消さないように歩いて来た道から光を奪い去ってしまうような喪失感が襲ってくる。
「すまない、君の進路だが 山小屋の管理人だ」
「え?」
それは呪いの職業とこの国では呼ばれていた
山小屋の管理人は他の国では普通の職業であり悲観するモノではない、
仕事自体は旅人の安全確保、商人の休憩所の維持と重要な役割がある為に給料は高めであるが……
この国は中央集権的な考えであり、力ある者、財、技術全てが中央に集約されている……
その国で郊外に置かれるという意味を誰もがわかっている。
「まあ、あれだ この職業は能力的に高いモノは要求されない、山小屋の維持運営が主な仕事だ、安全面も結界があるから問題ない…」
「はい……」
「そう落ち込まずに、ここに仕事の内容がある…………」
それから励ますようにいろいろと説明してくれるが、全然頭に入ってこない
しがみついてた希望を消されたのだから、それはまるで暗闇の崖に落ちて行く様な何とも言えない虚無感と考える気持ちさえも凍るそんな状態。
「まあ、とりあえず今日はこのパンフレットを持って帰って色々考えなさい」
「……」
半ば追い出されるように部屋を出ると、ほぼ無意識で教室へと戻った。
教室に入ると自分の席へと座り顔を伏せた、泣くわけでも無い只 暗闇に包まれていることでしか自分を保てなかった。
周りがヒソヒソ話をしている
「アイツどうだったのかな?」
「おい、言ってやるなよ…あの入って来た時の顔を見ただろ」
「だな、この世の終わりみたいな顔してたな」
「今日はそっとしてやろうぜ」
「だな」
変な優しさが自分に突き刺さる、いっそ笑ってくれた方がまだ怒りや悔しさで自分を保てるのに…
あれからどれくらい経ったのだろうか、
顔上げるとお昼になっていた、周りはみんなお昼を食べにいったのだろう
何も食べる気もしないし、誰にも会いたくないので第二図書館に行くことにした、
あそこは地図や古文書といったあまり読まれない本が多い為、人がほとんどこない場所だ。
陽が指す窓際の席を避けて、奥の倉庫の手前にある一人がけの机に座る、
今の僕には太陽の光すら邪魔に思えるから……
眠るでもなくただ時が流れていく、
無音…
感覚さえも邪魔な気がする…
机に項垂れて目を瞑る、
目を開けたら自分のベッドの上で実は夢だったらと何度か目を開けたが……
そろそろ午後の授業だ……
体も動かないし、もう今日はこのままで良いかな
どうせ勉強しても未来は変わらない、
沈黙と動かない体の世界で思うことは未来へのことと両親のこと
昔はこの低い能力のことを両親のせいにして当り散らした、
そんなとき両親はごめんねと言って僕を抱きしめるだけだった、
ある夜更けに物音がしてそっと両親部屋を覗くと喧嘩をしていた…
内容は僕の事だった、
なんであんなに低い能力の子になったのか、母が泣きながら父と言い合いになっていたが
やがて喧嘩は治まったが涙だけはずっと流していた、
それから両親を責めることは止めた、この能力は誰のせいでもない僕のせいだと
恨むなら自分であり、それを決めた者がいるとするならその存在であると…
悲劇の主役に待つのは自分とその周りの不幸である、
その受け入れがたい運命の中で生きる術を考えて生きて来たんだ…
そうだったな……それが僕だ
そう考えると少しだけ顔を上げることが出来た、
今までだってそうだった、
最悪の中でも生きる術があった
そう無理やり自分に言い聞かせた
そして、現実という山小屋の案内書を見てみた、
内容は良い事ばかり書かれていた
国の基盤である商流を確保する誇り高き仕事、
高給であること、
旅人との交流など……
綺麗事ばかりでいっそ本質を書いてもらった方が楽になれるのに……
しかし内容を読んで行くうちにあることに気づいた、
考えてみれば馬鹿にする人も居ない、お金にも困らない、
両親やいろんな人に常に気を遣わなくて良い、たまに来る商人や旅人の相手をするだけで良いんだ……そう考えれば今より良いんじゃないか?
強引な解釈だがそう考えれば前を向くことが出来る気がした、
もう小さな幸せを望み足掻くのではなく、楽になれるんだ……
そんな風に思えたのは絶望するのに疲れたからかもしれない
何か光り輝くモノを追うのではなく安らぎの闇に身を任せよう。
いつのまにか空は茜色に染まっていた、
そして同じように染まった、目を冷やして重い足に力を入れて家路へと歩いた、
家の扉の前まで来たが、その日の扉は何時もにも増して重かった……
「ただいま」
それはいつもと同じ声量だったが、それは今できる最大限の声だった、
「おかえり、結果はどうだったの?」
母の心配そうな声が聞こえた、
「山小屋の管理人だって」
「え!?そんな」
「大丈夫だよ、給料も良いし納得もしてる……っ母さん!?」
バタン!
言葉を言い終わる前に、まるで何かの魔法を掛けられたような感じで母は倒れてしまった、精一杯元気な感じで言ってみたのだが……
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