現代ギリシア神話青春譚Ⅱ

マサムネ

序章 コーリング 

(……誰かが、呼んでいる?)

 声がするわけではないのに、何故かそんな確信があった。


 周囲を見回すと、見たことのある景色だった。

 確か、中学校の近く……堤防のきわだ。


 少年は少し懐かしさを感じた。

 高校生活が始まり、今は九月。

 夏休みも終われば、中学生独特の未熟さも薄れ、自身も高校生であることに違和感はなくなる。


 ここは、湾の埋め立て地に建てられた中学校校舎の海側にある、堤防沿いの道だ。

 海面から堤防までは高く、上に登れば水平線が見えるが、周囲は夜の闇。雲に覆われた空は海との区別がつきにくかった。


(……やっぱり、ボクを呼んでいる)


 何かしらの電波が発せられているのかシグナルが送られているのか分からないが、確かに自分を呼んでいると感じる。少年は引き寄せられるように、堤防沿いの道に沿って歩いた。


 そのうちに、堤防の上に何かを発見した。

 それは二つの火の玉に見えた。

 少年がさらに目をらすと、二つの火の玉の火元とおぼしき場所に、輪っかのようなものが見えた。


 不思議な物体に、幻でも見ているのかと思わず目をこすった。

 いや、こすろうとしたところで、また別のことに気が付いた。


 自分の手が、人間の手ではなく、蟹のハサミになっていることに……


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