星に願いを
ゆずリンゴ
プロローグ
大きなピアノを前で、1人の母親が少女を膝に乗せていた。
「きーらきーらひーかる、おーそらのほぉーしぃよー」
ピアノの伴奏と共に、少女の甲高い声で1つの曲が歌われる。それが終わるとピアノから離した手をパチパチパチ、と少女の母親が鳴らす。
「おかあさん!れなのうた、きれいだったでしょ?」
そうして少女が褒められるのを待つようにし、母親が少女の頭へ手を持っていくと優しく撫でる。
「そうだねぇ、玲奈ちゃんは本当にお歌が好きだねぇ」
「うん!おうたすき!お母さんがキレイな音をだしてくれるから!」
「そっか。ねぇ玲奈ちゃん。玲奈ちゃんにも、同じようにキレイな音出せるんだよ?」
母親はそう言うと少女の手を鍵盤の元へ伸ばし、音を鳴らす。
「わ!」
音がなった事に少女は喜ぶと、デタラメにピアノの鍵盤を押す。しかし、その音は母親が出していたような美しいものでないことに首を傾げる。
「おかあさん、れなのおと…きれいじゃない」
「玲奈ちゃん、ピアノはね、繊細な楽器なんだよ。こうやって、1つ1つの音を繋げてみるとね……ほらさっきお母さんがやったみたいにキレイな曲ができるの」
母親は優しく教えを説くと、再び少女の指を鍵盤へと連れ、先程弾いていた曲の簡易的なものを一緒に弾いた。
「わー!できたぁ」
「できたねぇ。じゃあ次は―――」
この1件をキッカケとし、玲奈は母親と連弾を行うようになった。
玲奈の家は音楽1家だ。
父親は名のあるギタリストで、母親は一時期ピアノ教室で講師を行っていた。
父親のギターに合わせて母親がピアノを弾いて、玲奈が歌う。そんな家族。
「おかーさん、ピアノたのしいね!」
母親との連弾によってピアノに興味を持った玲奈は、その魅力につかりこんでいった。
だが、まだ幼い玲奈はどこにどんな音があるのか覚えるのに苦労していた。
そんな玲奈のため、母親が可愛い星型シールを鍵盤に貼り、そこに丁寧に音符の音を記した。
そうして、玲奈はみるみるうちにその実力を成長させて行った。4歳になると、ピアノを正式に習うようになり、5歳になると1つ下の弟に自分がピアノを教えて連弾をするようにまでなった。
恵まれた環境で家族と共に過ごし、父がギターを弾いて弟と共に連弾、母親は美しい声で歌う。そんな日々が玲奈にとっての日常になり、それがとても幸せだった。
小さなピアノのコンクールでも、何度か賞をとることに成功し、8歳の冬、今度は少し大きな舞台でピアノを弾くことになった。
その日は寒く、かじかんだ手を母親がぎゅっと握りしめて温めて貰ってから挑んだ。
いつもより広いそこではとても緊張した。
だが、母親の温もりを思い出すことで落ち着いた演奏をすることができた。より多くの拍手が玲奈を祝い、それが嬉しかった。
そうして帰りの車で、家族が自分の演奏に対し感想を告げているなか、けたたましいブレーキ音と共に強い衝撃が家族を襲った―――
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