ヒトデナシ達の庭

千猫菜

エピローグ

 ガキの頃の思い出だ。


 俺たちはいつも近所にある空き地で遊んでいた。


 そこには古い祠があるだけで、他はガランとした空き地だったので、俺たちの格好の遊び場になっていた。

 

 「なあシュウちゃん、あの裏手にでっかいカブトムシいたぜ!」


 「マジ!?ケンちゃんカブトムシ見つけるの得意だからなぁ。あ、タマちゃんも来た、おーい!」


 「ごめん遅くなっちゃった。親父が遊びに行くの中々許してくれなくてさ」


 「もうー、タマちゃんち厳しいからなあ。なあ、それよりケンちゃんがカブトムシ見つけたって。探しに行こうよ!」


 「え!マジで!でっかかった?」


 「ああ、今までで一番かも」


 「うおー凄いじゃん!早く行こうよ!」


 ジリリリリリリ

 蝉の合唱が耳を刺激する。


 草むらをかけまわったり、小石で遊んだりしていると。

 

 リン…

 

 突然どこからか鈴の音が聞こえた。


 「なんだ、この音?」


 シュウちゃんが音のする方を見た。三人が振り返ると、祠の横に色白の女が立っていた。年齢はわからないが、凄く上にも見えるし、少女のようにも見える。どこか優しげでありながら、冷たさも感じる和服姿の女だった。


 女は一歩、祠の前に進み出て、静かに口を開いた。


 「あなた達、いつもここで遊んでるわね。仲が良くって羨ましい」


 「あ……え、、はい」


 「そうそう、一つだけお話してもいいかしら。あなた達、お互いを決して疑わないこと、裏切らないこと。今の関係でいる努力をしなさい」


 「え……?」


 「そうすればあなた達はいつまでも不幸を避けられるから」


 女の声は優しく響いたが、不思議な力を持っているように感じられた。僕たちは声も出せず、ただ頷くしかなかった。


 そのとき、背後から赤ん坊の鳴き声が聞こえた。


 「赤ちゃん?」


 タマちゃんがつぶやき、三人は振り向いた。そこには誰もいなかった。ただ、薄暗い草むらから微かに風が吹き、草が揺れる音だけが聞こえる。三人が再び女の方を振り返ると、そこにはもう誰もいなかった。


 「あれ…どこいっちゃったんだろ今の人」

 「なんか変わった人だったな」

 「きっと祠の神様だよ!」


 タマちゃんは冗談ぽく言った。


 「でも変なこと言うよね。僕らずっと友達なのにね!」

 「当たり前だよな!」

 「それより次は缶蹴りしようよ!」


 三人は笑いながらまた遊びを続けた。


 タカギは薄く目を開ける。


 ああ、夢か。懐かしいな。


 なんでこんなことになっちまったんだか。


 重い身体を無理やり起こし、タカギは玄関に向かった。

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