最後に選ばれたのは、妹ではなく私でした

大舟

第1話

「ミリア、君はどうしてセシーナのように可愛らしくできないんだ…。何度も何度も言っている事なのに、どうしてその事を理解してくれない…」

「ごめんなさい、ドリス伯爵様…」


部屋から聞こえてくる二人の会話は、とても雰囲気が良いと言えるものではない。

ドリス伯爵は非常に高圧的なオーラを発しながら、自分と向かい合うミリアの事を鋭い視線で見つめている。

ミリアはそんなドリスに対して申し訳なさそうな表情を浮かべながら、何度も何度も謝る…。


「君は伯爵であるこの僕の婚約相手なんだろ?セシーナの姉なのだろう?これでは全くの期待外れだと言わざるを得ないじゃないか…」

「ごめんなさい…ごめんなさい…」


…正直なところ、ミリアに謝るべきような理由などこれ一つも存在しない。

というのも、二人の婚約関係は互いの愛情の果てで行われたものではなく、ドリス伯爵の一方的な都合によって結ばれたものであるのだから。


「君にセシーナのような魅力を期待した僕が間違いだったのかもしれない…。彼女は明るく可愛らしい性格から、多くの男性陣からアプローチを受けている。そんな魅力あふれる彼女に姉がいるなどと聞いたら、男なら期待せずにはいられないだろう。だからこそ僕は君の事を婚約者として迎え入れることを決めたのだ。…しかし、いざこうして隣に立ってみれば、がっかりさせられる毎日…。こんなことになるなら最初から婚約などしなければよかった…」


ミリアがどう思うかなど関係ないと言わんばかりの雰囲気を浮かべ、ドリスは愚痴をこぼすかのような流れでそう言葉を発する。

結局ドリスにとって本命だったのはミリアの妹であるセシーナであり、最初からミリアの事など好きでも何でもなかった。

しかしそこに妹の姿を重ねたかったドリスは勝手にミリアのイメージ付けを自分の中で行い、その勢いのままに強引な形で婚約を結ぶに至ったのだ。

そして本当にミリアが自分のイメージと違っていた事を知るや否や、こうして一方的な言葉を毎日のように発し続けていた…。


「どうして妹のようになれない?かわいい所をまねれば良いだけじゃないか。姉妹なのだから無理な事ではないだろう?はぁ…」


これほどまでに言われのな言葉をかけられ続けているというのに、ミリアは全て自分のせいなのだと考えて罪を背負い込み、弱音を吐くこともなくただただ伯爵の怒りを受け止めていた。

自分は何も悪くないというのに、何度も何度も謝罪の言葉を口にしていた。


「ごめんなさい伯爵様…。私の力が至らないばかりに…。ごめんなさい…」

「謝るくらいならもっと自分の魅力というものを改善してほしいものだな…。ミリア、君は生まれて鏡を見たことがないのかい?もっときれいに容姿を整えなければ僕の隣に並び立つものとして恥ずかしいとは思わないのかい?」


はっきり言えば、ミリアの容姿は絶世の美女とまでは言わないまでも、比較的均整のとれた可愛らしい顔立ちをしていた。

そして最低限のメイクもきちんと行っており、その雰囲気は決して伯爵の隣に並び立つ伯爵夫人として恥ずかしいものなどではない。

それを裏付けるように、他の貴族家の男性たちは軒並みミリアの事を婚約者として迎え入れることに成功した伯爵の事をうらやんでおり、中には強引な手段を選んででもミリアの事を手に入れたいと思う男がいるほどだった。

…しかし、妹の幻影を追う事しかできないドリスにはそんなミリアの魅力に気付くことが出来ず、ただただ嫌味な言葉を連続的にかけることしかしなかった。


「やはりセシーナとの婚約にこだわるべきだったか…。姉と言う存在に夢を見てそこで妥協してしまった僕のなんたる見る目のなさよ…。本当ならここで婚約破棄を突き付けて関係を終わらせてしまいたいところだが、理由もなくそんなことをしてはかえって伯爵家のイメージを悪くしてしまうだけ…。これでは完全に八方塞がりではないか…」


自分が強引に選んだ結果のことであるというのに、どこか自分が被害者であるかのような立場を崩さないドリス。

ミリアはその心の中にいろいろな思いを抱えていたものの、この段階になってもドリスの事を悪く言う事はしなかった。


「伯爵様に恥ずかしい思いをさせないよう、もっともっと頑張りますので…。ですからどうか、そのご感情を穏やかにしていただきたいのです…。これでは伯爵様のお体にさわってしまいます…」

「そもそもお前のせいでこうなっているんじゃないのか…。お前が最初から僕に妙な期待を持たせなければ、全てはうまく行っていたはずだったんだ…。はぁ、セシーナが先に婚約を決めてなどいなければ…」

「え…?」


その時、ミリアはドリスの言葉に大きな違和感を感じた。

そして時間が少しずつ経過していく度、それこそが伯爵の抱いているおおきな勘違いにつながっていることに気づき、その点をすぐに伯爵に伝える。


「あ、あの…。伯爵様?」

「なんだ?」

「セシーナは誰とも婚約などしていませんよ?」

「…はあ???」

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