第2話 ヴァルキリー・フロント

超大人気FPSゲーム【ヴァルキリー・フロント】──その名は今やFPSの代名詞と言われるほど、世界中のゲーマーを熱狂させている。


 優里は高校2年生、16歳。1年前にパソコンを手に入れて以来、彼女はこのゲームにのめり込むようになった。学校以外の時間はほぼすべてヴァルキリーフロントに費やし、気づけばすっかり"ネトゲ中毒"と化していた。彼女をここまで惹きつけたのは、これまでにない革新的なゲームシステムだった。


 ヴァルキリーフロントの基本ルールは、二つのチームが5つのエリアを巡って戦うことだ。各エリアを占領するためには、敵の猛攻を防ぎ続けるか、敵を全滅させる必要がある。制限時間10分の中で、3エリア以上を確保したチームが勝利を収める。キャラクターにはアサルト、メディック、スナイパー、デモリッシャー、サポーターといった職種があり、それぞれ異なるスキルを活かして戦闘が展開される。また、武器も多彩で、個性的なものが多いのもこのゲームの魅力だ。


 しかし、ヴァルキリーフロントが他のゲームと一線を画しているのは「エインヘリヤル」という覚醒システムの存在にある。キャラごとにゲージが設定され、一定時間が経過すると「エインヘリヤル」が発動可能となる。覚醒したキャラは一時的にスキルが強化され、逆転のチャンスを掴めるようになる。しかも、劣勢側はゲージの溜まりが早いため、ゲームバランスが崩れにくいのだ。


 とはいえ、時には試合が硬直することもある。そんな時に発動されるのが「ラグナロクモード」だ。戦闘終了1分前になると、両チームが全員エインヘリヤル可能状態となり、試合が一気に加速する。この完成されたゲームバランスに魅了された優里は、日々キャラ「フレイヤ」を操作し、腕を磨き続けてきた。


 しかし、最近の彼女にはある悩みがあった。


「仲間がほしぃいい!」


 そう、彼女には協力して戦える"仲間"がいなかった。確かにエインヘリヤルで無双はできるが、1人での戦いには限界がある。敵が全員エインすると、一気に形勢が不利になるのだ。


「さっきの相手は雑魚だったからよかったけど、大会とかじゃ通用しないんだよね…」


 実際、優里はかつて有名配信番組のオンライン大会に出場したことがある。即席で組んだチームで挑んだが、いきなり作戦を立てるのは難しく、彼女は結局、単独行動で敵を一掃することに。緊張しすぎて作戦も聞けず、孤立してしまった彼女の戦いぶりが配信され、ついた異名は「戦火の姫」。その戦績で彼女は準決勝まで勝ち進んだが、連携が取れず、準決勝で大会常連のチームに敗れてしまった。


 試合後、チームメンバーから「お前のせいだ」と責められる優里。しかし彼女は一歩も引かず、冷静にテキストチャットで打ち込んだ。


『文句あるなら、てめえら全員かかってこい』


 そう、優里はコミュ障でありながら、ネット上では内弁慶で強気なのだ。結局、彼女のグレネードランチャーが敵を一掃し、試合は彼女の圧勝で幕を閉じた。この一件が再び配信され、「戦火の姫」から「戦火の皇女」へと彼女の異名が進化することとなる。孤高の存在として名を馳せるようになった優里だったが、彼女の目はさらに高みを見据えていた。

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