アンチヒーロー
魔石収集家
第1話 小悪党の目覚め
都市の夜、雨粒がネオンに反射し、路地裏を妖しく彩っていた。
その薄暗い路地で、一人の若い男が手にした偽造IDを光にかざしていた。
大和(やまと)――詐欺師として生きる青年だ。
大和「ほら、これが最新の認証突破用IDだ。このクオリティ、滅多にお目にかかれないぜ」
目の前の取引相手は、訝しげな表情でそのIDを見ていた。だが、大和は余裕の笑みを浮かべている。
詐欺師としての経験から、相手を信じ込ませる術は心得ていた。
大和「信じられないかもしれないけど、これを使えばヒーローの監視なんて一瞬でかいくぐれるんだぜ。興味があるなら今がチャンスだ」
相手は迷いながらも財布を取り出しかけた。取引成立を確信した大和が手を伸ばしたその瞬間――。
「動くな!」
鋭い声と共に、金属の響きが路地裏に響き渡った。
大和が振り返ると、そこには全身を銀色の装甲で覆った男が立っていた。
槍のような武器を手に持ち、鋭い目で睨みつけている。
それは「銀のヒーロー」――ジャポネ特別警護隊の一員だった。
銀のヒーロー「犯罪者を見逃すわけにはいかない。おとなしく投降しろ」
その威圧的な声に、大和の心臓は凍りついた。
大和「…やばい、逃げるしかない!」
彼は取引相手を突き飛ばし、雨に濡れた路地を全力で駆け出した。
銀のヒーローの金属製の足音が背後から迫る。
彼の槍が路地の壁を突き破り、コンクリートの破片が飛び散るたびに、大和の焦りは増していった。
狭い路地を右へ左へと駆け抜ける中、大和は息が上がり始めていた。
大和「くそっ…こんなのどうやって逃げろってんだ!」
だが、銀のヒーローのスピードは予想以上だった。追いつかれるのも時間の問題だ。
ついに袋小路に追い詰められた大和。
銀のヒーローはゆっくりと槍を構え、彼に止めを刺そうとしていた。
銀のヒーロー「終わりだ。お前のような小悪党が、正義に逆らうことは許されない」
絶望に囚われた大和が目を閉じかけたその時、壁が轟音と共に崩れた。
粉塵の中から現れたのは、黒いコートを翻す一人の男だった。
「まだ死ぬには早いな」
その男――玲司(れいじ)は、冷たい目で銀のヒーローを見据えた。
玲司「正義の名の下に、力を振りかざすだけの暴力とはな。笑わせる」
銀のヒーロー「貴様は…何者だ!」
玲司は答えず、静かに間合いを詰めると、鋭い動きで槍の攻撃をかわし、反撃に転じた。
その動きはヒーローの反応を上回り、銀のヒーローの膝に正確な一撃を叩き込む。
銀のヒーロー「ぐっ…!」
装甲が砕け、巨体が地面に倒れ込んだ。玲司は一瞥するように銀のヒーローを見た後、大和に目を向けた。
玲司「ここは危険だ。行くぞ」
玲司に肩を掴まれ、強引にその場を連れ出された大和は、暗い地下道でようやく息を整えた。
大和「おい…あんた、何者なんだ? あの銀のヒーローを倒すなんて、普通じゃないだろ」
玲司「俺か? ただの悪党さ。正義の名を借りた連中に反旗を翻す者だ」
その言葉に、大和は耳を疑った。
大和「ヒーローに逆らう…? そんなこと、本気でできると思ってんのか?」
玲司は冷静な目で大和を見つめ、静かに言葉を続けた。
玲司「お前もよく分かっているはずだ。この社会は、正義の名の下に弱者を切り捨てている。
ヒーローが絶対的な存在である限り、俺たちのような者に未来はない」
玲司に案内され、大和がたどり着いたのは、廃工場だった。
その中には、既に数人の人物が集まっていた。
玲司「ここが俺たちの拠点だ」
大和の前に立つ3人――爆弾を弄る軽薄そうな女性、壁にもたれる無口な男、そしてノートPCを叩く短髪の女性。
千夏「これが新入り? 見た目からして、あんまり期待できそうにないけどね」
真希「まあまあ、役に立つかどうかは試してみないと分からないでしょ」
蓮「役に立たなければ切り捨てる。それだけだ」
3人の冷たい態度に、大和は圧倒され、口をつぐんだ。玲司はそんな彼の肩に手を置いた。
玲司「ここで自分の価値を証明するか、それとも逃げるか。選ぶのはお前だ」
こうして、大和は半ば強引にヴィラン連合の一員として迎えられることになった。
だが、その先に待ち受ける運命は、彼が想像する以上に過酷なものだった――。
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