第9話

仕事の出先で知り合った幼子と遊んでいたのだが、どうやら彼は僕の容姿に興味を持ったようだった。



「なにこれ、おおきい」


彼はそう言いながら、僕のくちびるを指さした。


僕は手を使わずに下くちびるだけをブリンとめくり、さらなる賞賛を得ることに成功した。



次に、彼の興味は喉仏へと移った。


「なにこれ、はじめてみた」と言いながら、恐る恐る僕の喉仏に手を伸ばした。


「これ、かたい!」


指で突き刺すように喉仏を押しながら、不思議そうに見つめるので、「そのうち、君も出てくるよ」と真実を伝えた。


すると、彼は「え〜」と少し悲しそうにして、顔を歪めていた。



彼の探求心は、とどまることを知らない。


もちろん、喉仏の横にある大きな黒子ほくろも見逃さなかった。


最近まで僕自身も気づかなかった黒子だが、どうやらここ数年で大きく急成長を遂げたらしい。


病的なものではないと医者には聞いている。



彼は何かを確認するように、大きな黒子をぐりぐりとつまんだり引っ張ったりと、研究に余念がない。


そして、「ダンゴムシみたいでかっこいいね!」と声を弾ませた。



コンプレックスばかりの容姿だが、悪いことばかりでもないらしい。


また会いに行きたいな、会えるかな。


また遊んでくれるかな。

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