第10話 肉祭り

タタタッと小走りでライトは納屋に突入していく。


「父さん、リータと2人でデカブツの獲物を仕留めたんだけど、運ぶのを手伝って欲しいんだ」


ライトは父親の所在も確認しないまま納屋の中に向かって叫ぶ。


「落ち着けライト」


農具の手入れをしていた手を止めて父親がこちらに顔を向ける。


フーッとライトは一息ついている。


「どんな獲物だ?」

と父親が尋ねてくる。


「大きな猪だよ、二人じゃ運べなくて、手伝って欲しいんだ」

「・・・わかった、ちょっと待ってろ」


何かを察したように父親が応え、森に行く準備を始めた。


ライトは父親を急かすように荷車を押して村の入り口で待っている。


「行くか」

「うん、こっち」


ライトが父親を案内するように空の荷車を牽きながら前を歩く。


日は少し傾きかけていたが暮れ始めるまでにはまだ時間がある。


「どこで見つけたんだそんなデカブツを」

「ブラックベリーを取ってたら急に出てきたんだ」

「遭遇戦かよく無事だったな」

「うん、僕は最初、動けなかったんだけどリータが引き付けて木の上から倒したんだ」

「そいつは凄いな、怪我は無かったのか?」

「リータが木から落ちた時に少しお尻を打った程度だけど地面もそんなに固くなかったみたいだから」

「それならよかった」

「ウリ坊がいたからそのせいでいつもより狂暴だったのかもってリータが」

「・・・そうか」


父親は視線を合わせず先を見たままそう答えた。


ガタゴトと荷車を牽いていたが森の奥に入るにつれて引く手が重くなってきた。


それを見ていた父親が黙って片側の棒をガシっと握って牽くのを手伝ってくれる。


「ありがと、父さん」

「ああ」


それだけ言うとなにもなかったかのように歩いていく。


父親のがっしりとした力強い大きな手が荷車を牽くとライトは牽く力が必要なくなった。


「父さん、あとは道なりに行けばいいだけだから、荷車任せていい?僕はリータの様子を見てくるよ」


「ああ」


シュタタタ、それだけ聞くとライトが駆け出す。





「リータ!」

猪を倒した場所に少女は居た。


「あらライト、早かったわね」

素っ気なく言う彼女は手や服は血まみれで下半身は泥だらけだった


「リータ、血が凄いよ」

「あんな大物さばいたの初めてだから返り血を浴びちゃった」


事もなげにリータは言いながら後ろを指さす。


ライトがそっちに顔を向けると木にロープで後ろ脚を引っ掛けられている猪がいた。


「私の力じゃこれ以上上がらなかったから宙ずりにできなかったわ」


猪の身体半分は地面に付いたままだったが、首からは大量の血が流れだしている。


そこにガタゴトと音を鳴らして荷車とライトの父親が到着した。


「父さんこっちだよ」


「こいつは確かに大物だな、リータ、よく倒せたな」


「運が良かっただけよ、木に登ったら折れた枝がこいつの頭に刺さってゴン」


猪を指さしながらリータが言うと父親がその指のさしている猪の頭を見る。


猪は確かに頭から木をはやしている。


「なるほど、怪我はなかったのか?」

「うん、落ちた時にお尻と背中を少し打ったけど大したことはないわ」

「・・・そうか、神に感謝を」


そう言って父親は指を組んで目を閉じて祈りを捧げる。


「リータ、獲物はどうする?」

「村のみんなで食べましょう」

「じゃあ今日は肉祭りだな、そして明日は腸詰作りだ」

「「肉祭り!」」


二人の声が揃う。


「よし、ライト手伝え、はらわたを出して首を落としてしまおう」

「はいよ、父さん」


返事にもついつい力が入る。


父親は手際よく猪を捌いていき、はらわた、皮、頭、骨と肉を鉈とナイフで切り分けていく。


ライトとリータは切り分けられた部位を荷車に乗せていくがそれはもう食材にしか見れない。


「美味そう」


ライトが辛抱たまらずそう零すと。


「串焼き、シチュー、ジンジャ焼き、塩茹でも上手いぞ」


煽るように父親が言う。


「ふぁーお腹すいた」


リータが恍惚とした表情で自分のお腹を押さえながらいう。


「父さん早く帰ろう」


ライトももう待ちきれないとばかりに父親を急かす。


「よし、これで終わりだ」


父親はそう言いながら使った道具を布で拭き全ての部位と一緒に荷車に乗せる。


荷車は相当な重量になり、車輪が少し沈む。


「せーの」


ライトが調子を取って声を上げると3人の腕に力が入る。


荷車がギシっと軋む音を立てながらガタゴトと動き出し加速していく。




村に到着するころにはすっかりと夕日が景色を赤く染め上げていた。


「おにいちゃん!」


村の入り口の方からライトを呼ぶ声がすると同時にタッタッタっとティファが駆け寄ってくる。


「ご馳走?」


ライトの顔を覗き込むようにティファが尋ねる、期待の顔だ。


ライトは満面の笑みで荷車を指さし応える。


「肉祭り!」

「すっごぉぉぉい!」

「リータが仕留めた獲物だよ」

「やったー!リタねえ、大好き!」


ティファはリータに抱き着こうとするがリータはヒョイっと軽くかわしてライトがティファを押さえる。


「いまは血と泥でドチャドチャだから抱き着いちゃダメ、あとでねティファ」


リータが手にバツを作りながら優しく言う。


「うん、わかったぁ~」


ティファの視線はもう荷車の獲物にくの方に向いている。


騒ぎを聞きつけ村の人たちが集まってくる。


「リータの申し出でこの獲物は村のみんなで食べようとのことだ!」


ライトの父親がみんなに聞こえるように言う。


「ありがとうねリータちゃん」「頂きますねー」「神に感謝を」


皆、思い思いのお礼の言葉をリータにかけ切り分けられた肉を持って帰る。




アカマット村は100人にみたない小さい村。

この獲物は大きな牛くらい肉が取れそうなので、

みんながお腹一杯食べても食べきれない。


「おにいちゃん、お肉いっぱいだね!」


ティファは肉の塊を見て満面の笑みだ。


ライトはそんなティファの頭を撫でながら思いにふける。


誰も居なくならずに良かった。


頑張ってくれたリータ


魔法をくれたムー


そして神様に感謝を。



切り分けられていくデカブツの肉は次々と村の人たちを笑顔にしていくのだった。




*********

祭のあと。


ティファによりウリ坊たちに命名。


ローストとシオユデに決定。

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