第3話 サンダーボルト

なにもない平原で魔法使いと向き合うライト。


「先ずわたしが魔法を使ってみるからよく見てて」


魔法使いは左手の親指を立て人差し指と中指を伸ばし薬指と小指を握りこむと、

小高い丘の上にある岩に腕を伸ばし指を向けて唱える。


「サンダーボルト」


その瞬間指先から眩い光の帯が岩に向かって伸びそのまま岩の真ん中を突き抜けて空の彼方まで飛んで行った。


ズガガガァァー


数舜遅れて衝撃波と爆音が轟き、ライトは前髪が風圧でオールバックになっているがお構いなしに前景姿勢で目をカッと見開いてその光景をみていた。


「すっっっげーーーー!!!」


数少ない語彙力ながら全身で賞賛してくれる少年にちょっと照れながら魔法使いは言う。


「これがわたしのオリジナル魔法サンダーボルトだよ」

「僕にも使える?」


「ああ使えるよ、でも威力は今の1/1000にも満たないくらいかもね」

「せんぶんのいち?わからないや、でも威力は弱いってことだね」


「そういうこと、一回使ってみるかい?」

「うん!」


ライトは元気に応じる。


魔法使いは手のひらより一回り大きな石を壁に立て掛けてからライトを呼んだ。


「手の握りはわかるね、

あとはあの石に向けて腕を伸ばして指で狙いを定めてサンダーボルトって唱えてみて」


「うん!」


ライトはそう返事をして立て掛けられている石のほうを見た。


そして先ほど魔法使いがしていたのと同じように左手の親指を立て人差し指と中指を伸ばし薬指と小指を握りこむ。


そのまま腕を伸ばし石に向けて唱える。


「サンダーボルト」


瞬間、体の中心から何かが腕を通って手のひらに集まり、

手のひらの魔法陣が一瞬淡く光ったかと思うとその光がなにかになって指先から放たれる感じがした。


パンっと乾いた軽い音を立てて指先から糸のような光の筋が石のほうに向かって伸びていった。


石の少し上に何かが当たったがその壁は石ころが当たった程度の衝撃のように見えた。


「うわ!」


ライトはびっくりして後ろにのけぞって尻もちをついた。


パチパチパチ


ライトは尻もちの体制から音のほうに顔を向けると魔法使いが拍手をしていた。


「初めてでちゃんと魔法になってたよ、素質があるんだね。

魔法陣も問題なく作動したようだね」


そういいながらライトに向かって手を差し伸べる。


「え~でもおねえちゃんのと全然違うよ~」

差し出された手を支えにライトは立ち上がる。


「いきなり少年がわたしと同じ魔法を使えたらわたしは引退するよ」

魔法使いは笑いながらそう答え続ける。



「わたしはこれでも賢者を師と仰いで結構な修行を積んでいるからね。

いきなりわたしと同じことができないのは当然のことだよ。

逆に君がちゃんと魔法が発動したことのほうが余程重要だよ。

さてもう一回やってみようか、

今度は石にしっかり狙いを定めて、

指先から矢が飛び出すイメージでやってごらん」


それを聞いてライトは足を肩幅に開いて少し腰を落とし、


視線を人差し指と並行にしてその先に石ころの中心を捉えて貫くイメージをして叫ぶ。


「サンダーボルト!」


バンっとさっきよりも少し重い音とともに閃光が立て掛けられた石に向かって走る。


今回はちゃんと石の真ん中に命中し、

ガゴっと石が真っ二つに割れた。


「やった、当たった!」


ライトは諸手を挙げて喜んだが、

一瞬、目の前が暗くなり眩暈に襲われその場にしゃがみ込む。


「おっと大丈夫かい、軽い魔力酔いだね、これを飲んで」


そう言って魔法使いはポーションの蓋を開けてライトの口元にそっと近づける。


ライトは素直に口を開けその液体を飲み込む。


「にがぁ」


舌をだしながら苦虫を嚙み潰したような顔をした。


「ああ、ごめんね、今日はフルーツ味の回復ポーションを持ってなかった。

でもちゃんと目標を捉えて魔法を放てた。

偉いぞ少年!

眩暈が治ったら少しばかり魔法の説明をするからね」


休憩を挟んだあとに魔法使いは講義のようなものを丁寧にしてくれた。


要点だけを言うと、

魔法はイメージが大切。

サンダーボルトはサンダーを矢のボルトのようにして

体内の魔力を飛ばし標的を穿つ魔法だということ

魔力は使うほど魔力量が増えること

魔法は繰り返し使うほど熟練度が増し上達すること

冒険者になるまではサンダーボルトを人に向けて撃ってはいけないこと

冒険者になるまではサンダーボルトを内緒にすること

魔法の練習は頭が痛くなる前に止めること


そしてライトの頭を撫でるようにしながら何かしらの呪文を唱えた。


「魔法が上達しやすいようにリミッターを緩くしておいたよ

早くドラゴンを倒せるといいね」


よく意味はわからなかったがそんなようなことを言っていた。


最後に体内の魔力の動かし方と生活魔法のトーチの使い方を教えてくれた。


「魔力操作を上手くできると魔法効率が良くなるよ。

対価としてはまだ足りないかもしれないけどこれくらいかな」


魔法使いは帰り際にキノコの絨毯まで送ってくれてついでとばかりに、

魔力の回復に良いキノコと薬草を教えてくれた。



「それでは貴重なキノコをありがとう。

お師匠様も喜んでくれると思う。

最後になったけどわたしの名前はムー。

謎の魔法使いでも良かったんだけどライトとはまた会う予感がするからね」


魔法使いはおどけたような真剣なような顔でそう言った。


「ライトの冒険に光のご加護が多くありますように」


ムーは別れの言葉とともに飛び去って行った。

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