元神童は人と関わりたくない

クー

第1話グッバイ引きこもり生活


突然だが、俺という人間を紹介しよう。

俺の名前は鷹取 翔真たかとり しょうま。今年で16になる。

好きな事は家に引きこもりダラダラ過ごすことだ

嫌いな事は人と関わることだ


なぜ俺がこんな人間になったのかと言うと、主に両親のせいだ。

こう言うと他のヤツらは、俺の両親がどんな酷いヤツなのかと想像するけど、まあ普通にクズなだけだ。

俺の両親は母親が元アイドル、父親が元俳優とありがちな関係で、物心がついた時には両親の仲は冷えきっており、2人が揃って家にいた時はほとんど無かった。


そんな2人の間に生まれた俺は控え目に言っても天才だったと思う。

周りのやつらも天才って言ってたから多分そうだろう。


両親はそんな俺を金儲けに利用できると思ったのか、あらゆる知識、経験を叩き込んで、さらに芸能人のコネまで使い誕生したのが天才子役朝霧 春馬あさぎり はるまだ。


朝霧春馬は瞬く間にブレイクし、テレビで見ない日が無いと言われるぐらいまで売れた。


ある日、俺が稼いだお金をあのクズどもは勝手に持ち去り、不倫相手と駆け落ちして、そんな俺を親戚が拾ってくれた。


親戚の家で1年ぐらい過ごしていると、元両親が不倫相手と別れたのか、それとも金が無くなったのか、また俺と一緒に暮らしたいとか抜かしやがった。

俺が断ると、お前のせいで人生が滅茶苦茶になったとか、今までの恩を返せとか、産むんじゃなかったとか抜かしてやがった。


当時の俺はまだ8才という事もあり、まあ傷付いたんだろうな、元両親から言われたことに対して反論してしまったんだ。

すると、元両親は怒り狂って暴れまわり、

俺がお世話になってた家主を傷付けやがった。


すぐに警察を呼んだので、大事には至らなかったが、

俺は俺なんかと関わったせいで、関係の無い家主が傷付いてしまったと思い、居たたまれなくなりその家を飛び出したんだ。


そこからは各地を転々としたんだが、まあ色んなやつがいてな……

やたら持ち上げてくるくせに、旗色が悪くなると急に掌返すヤツや、

俺が金になると踏んで、やたら親切にしてくるヤツ、

極めつけは暴力で言うこと聞かせてくるヤツ。

まあソイツは逆にボコボコにしたけどな。

まあ、行き過ぎた才能は周りを歪めてしまうってことだ……


そんなこともあり、12才になった時には、生まれた持った才能と最悪な経験が合わさって、見ただけで大体ソイツの考えや性格、本質すらも分かるようになってしまい、完全に人に対して興味が失せた。

だって、口ではペラペラと良いことを言ってヤツが、内心憎悪に満ち溢れているんだぜ、こんな人間に期待しても無駄な労力でしかない。


長くなってしまったが、俺が人と関わるのが嫌な理由としては十分だろ?










ドン、ドン、ドン……

そんな俺だが、今が人生の中で一番のピンチかもしれん……

ドン、ドン、ドン……

元神童の勘が言っている、この扉を叩く音は俺の平穏を脅かすものに違いないと……

天才の頭脳よ、この場面を切り抜ける方法を思い付くのだ!!

ドン、ドン……




ドン!!!!……


ヒェッ………


「翔真さん、いるんでしょ?」

「何で出てくれないのですか?」


「人違いです……翔真?なんて人は知りません……」


「……翔真さん嘘はいけませんよ。」

「10秒以内に扉を開けて頂かないとら強制的に開けさせて頂きますね」

「10~、9~、8~」


ハッ、何を言ってるんだか、スチール製のドアがそう簡単に破られるワケないだろ。

ハハハ、諦めて帰るが良いさ!


「3~、2~、1~、0」

「では、実力行使させて頂きますね。」


すると、扉の前の声が止み、諦めて帰ったか?と願望をかなり込めて思っていると、

ドゥルルゥ チュィィィーン

と轟音が扉の前で鳴り響いた……


慌てて扉の方を見るとそこには大量の火花があがり、

ドアを貫通してチェーンソーが見えてきた所だった……


「ちょっお前、チェーンソーは洒落にならんって!」


慌てて制止しても、チェーンソーは止まらず


「マジでゴメン! 俺が悪かったからやめてくれ!」


全力で訴えかけるも、まだ止まらないチェーンソー


「ヒィィィ…… 何でも言うこと聞くからやめてくれ~!!!!」


土下座する勢いで頼み込むと、やっと止まるチェーンソー


「では、翔真さん開けてくれますね?」


これで断ることが出来るヤツがいれば連れてきて欲しい……俺の全てを渡すからその術を教えて下さい!


「分かった。開けるから、ちょっと待ってくれ!」


「えっ? まだ待たせるおつもりですか?」

「こじ開けた方が早いのでしたら、こじ開けますが……」


「ち、違うねん、俺まだパンイチやからズボンだけ履かせてくれ!」


「私はパンツ一丁でも構いませんが……」


「俺が構うんや!!」


俺は人生の中で一番早くズボンを履いて、ダッシュでドアを開ける。

するとそこには艶のある黒髪を靡かせ、

大きな瞳は黒く、見る者が吸い込まれそうな魅力に溢れ、唇は未成熟な色気を醸し出し、

体型も恐らく同年代の女性と比べても膨らみがあり、それでいて、腰と脚は細く女性の理想を詰め込んだスタイルをした女性が立っていた。


尋常ではないほど美しいこの女性は、俺が親戚の家で居候してた時にいた娘で、

名前は芦屋あしやひより。

今もっとも売れている女優としてテレビで見ない日はない人物だ。


「お久し振りです。翔真さん。少しお太りになられましたか?」


鈴の音を転がすかのような声で言われ、失礼な事を言われたよりも、声すらも可愛いのかと思う気持ちが強かったせいで、変な返事をしてしまった


「お、おう元気やで、そっちは?」


「……? 私も元気ですよ。2年ぶりに再会ですね。

2年前の私と比べ、どうでしょうか? 

自分では綺麗になったと思いますが……」


正直、2年前も十分可愛かったが、今はさらに美しさも兼ね備えていて、芸能界にそこそこいた俺ですらも、見たことのないレベル

しかも、テレビで見るよりも生の方が、何倍も綺麗と認めざるを得ない。

だが、俺のなけなしのプライドがそれを認めようとはせず、少し皮肉を交えてしまう。


「ま、まあ綺麗になったんじゃないか。

でも、そんなゴツイチェーンソーを側に置いて聞いてきたら、YES以外選択肢はないよな」


「ムッ……まあ、綺麗と言ってもらえたし及第点にしましょうか……」



ふぅー、何とかなったな……


しかし、一難去ってまた一難。ひよりがまたしても爆弾を落とす。


「では、翔真さん家の中にあがらせて頂いてもよろしいでしょうか?」


なっ……

ちょ、ちょっと待て。

何かヤバイもん置いてなかったよな…?

部屋も多分綺麗にしてるハズ……

じゃあ家にあげても問題ないか……


「あ、ああ……」


いやちょっと待て!!

今や国民的大女優のひよりを家の中に入れるってかなりマズくないか!?


「……いやー、俺は構わんけど、ひよりは一人で男の部屋にあがりこむのはマズイやろ?」


「大丈夫ですよ。

それとも、翔真さんは私を家にいれて何かするつもりなのでしょうか?」


「するわけないやろ! 社会的に死ぬわ!」


「そんな全力で否定しなくても……」


ひよりは何やら小さな声でぶつぶつ言ってるが、気にするとパンドラの箱を開けてしまいそうなので、

とりあえずスルーしとく。


すると、ひよりは何の躊躇いもなく、部屋の中に入っていった……

ちょい待ってくれ……





「思ったよりも綺麗にされているのですね」


ひよりは俺の部屋の中をざっと見渡すとポツリと漏らしたので、ちょっとした見栄を張りながら答える。


「まあ当然やろ!

流石に汚部屋で死体発見!とかになると洒落にならんしな」


「でも、キッチン周りは使った形跡がほとんどありませんね……

毎日、外食では体を壊してしまいますよ……」


「なめんな! 俺がそんな人間が多いところに行くわけないだろ」

「全部ネットで注文してるわ! 

しかも、人と関わらないように置き配指定までバッチリやで」



「自信満々に言うことがそれですか……」

「でも、その生活もそろそろお別れのようですよ」


「どうゆう事?」


「翔真さんには私と一緒に私立煌星こうせい教導学園へ通って頂くからです」


「はぁ!? 俺があの煌星に通うって!?」


「その通りです。

政治、経済、芸能、スポーツと幅広い分野の著名人を輩出している、あの煌星です。」


「ちょ、ちょっと待て! 煌星やぞ。

俺が通えるわけないだろ!」


「それについてはご心配なく。

私が特別推薦枠で翔真さんを選ばせて頂きました」


「特別推薦枠って何!? 聞いたことないぞ……」


「特別推薦枠は学園が特別措置として、

既に多くの実績を出している人材に与えたものですね」

「良く言いますよね、優秀な人の知り合いは優秀であると。

要は学園として、より優秀な方を誘致する為に出来た制度ですね」


「優秀って……俺が天才だったのは幼少期の頃の話やぞ。

今はブランクもあるし、人と関わって来なかったからコミュニケーションスキルもないぞ」


「翔真さんは優秀ですよ。だって今、私が考えている事が分かるはずです」


「……俺の首を絶対に縦に振らせようとする、鋼の意思を感じる……」


「正解です♪」


「でもひよりは女優やから、いくらでも演技出来るやろ?」


「翔真さんの前ではあまり演技はしてませんよ。

特に今回は本気です」


「断るとことは出来そうか……?」


「無理ですね。それに先程翔真さん仰ったではありませんか『何でも言うことを聞く』と……」


「……くそっ、あの時から布石は打ってたんか……」


「油断しましたね」


「あっー! もう! 分かった。男に二言はない。

煌星でも何でも行ったるわ!」


「流石翔真さん、男らしいですよ」


くそっ、こんなお世辞でも、言われて嬉しいと思う自分に腹が立つ……

これが暫く人と関わって来なかったツケか……

こうして、俺の幸せな引きこもり生活が崩壊していくのだった……




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