ドラフト7位で入団して(第三部 日本球界残留編)

青海啓輔

第701話A 来期にむけて

「僕はこのチームでもう1年、頑張ります」


「オオッ」

 北野球団本部長、そしてジャック監督は感嘆の声を上げた。


「でもアメリカ球界挑戦は、君の夢じゃないのかい?」

 北野本部長は言った。

「はい、でも日本でやり残していることがあることに気づきました。

 そして好きな野球をやるのは、どこででもできます。

 今は素直な気持ちとして、このチームで優勝したいです。

 ここ2年、個人的にはそれなりの成績を残せましたが、チームとしては4位と残念な結果に終わってしまいました」


「ホントウニソレデヨイノデスカ?、クイハノコシマセンカ?」

 ジャック監督は言った。

「はい、悩んで迷って決めたことです」

 僕は胸を張って答えた。自分で決めた事。もう迷いはない。


「ワカリマシタ。ライネンモ、イッショニタタカエル。ウレシイデス」

 僕は北野本部長、そしてジャックGMと握手をした。

「それでは来季の契約条件については、後日打合せしましょう」

「はい、よろしくお願いします」

 そして僕は礼を言って、退室した。


 これで自分自身、スッキリとした気持ちで来期に臨める。

 結果がどうなっても、自分で決めたことだ。

 そう思いながら、ぽるしぇ号に乗り込んだ。

 こいつとの付き合いもまだまだ続きそうだ。

 よろしくな。

 僕はハンドルを撫でた。


 日本球界残留を決めた理由の一つには、順調なら来期中に国内フリーエージェントの権利を得られるというのもある。

 だがまずは、札幌ホワイトベアーズで好成績を残し、チームの勝利に貢献したい。

 ここ2年は連続して、4位に終わっており、ポストシーズンにも進めていない。

 正直、フラストがたまっている。

 さあ進路も決まったし、 あとは頑張るだけだ。


 翌週、球場事務所に呼ばれた。

 残留が決まり、来季の条件提示を受けるためだ。

 もっとも昨年の交渉時に、残留の場合は今シーズンと同じ条件で契約を締結すると言われている。

 つまり1億5000万円プラス出来高ということだ。


 ぽるしぇ号を颯爽と駆って球団事務所に着くと、何人かの記者の方とカメラマンが待ち構えていた。

 どうもどうも。今年もお疲れさんです。

 顔なじみの方ばかりであり、僕は挨拶をしながら、事務所内に入っていった。


 そして球団職員の綺麗な女性に案内されて、応接室に通された。

 すでに北野本部長と査定担当の田中さんが着席していた。


「どうぞ、おかけください」

 北野本部長に言われて、僕は席に座った。

 僕と二人の間には机がある。


「札幌ホワイトベアーズへ残留して頂き、ありがとうございます。

 早速ですが今シーズンに達成した出来高、そして来シーズンの契約について、田中君の方からご説明します。田中君、よろしく」

「はい、わかりました」

 神経質そうな眼鏡の田中さんは、眼鏡のふちを触りながら答えた。

 そしてホチキス止めの書類を2つ僕の方で滑らせた。


「まず最初に今シーズン達成した出来高からご説明します。

 結論から言うと、今シーズンの高橋選手は盗塁以外のすべての出来高を達成しましたので、出来高は4,500万円です」

 4,500万円?、出来高だけで?


「と、という事は今シーズンの年俸は1億9,500万円だった…ということでしょうか」

「計算上はそうなりますね。それに第2出来高、つまりタイトル料も付きます。

 高橋選手は最多安打とベストナインを獲得したので、それぞれ100万円ずつ加算されます。

 つまり今シーズンの高橋選手は1億9,700万円稼いだことになりますね。

 税金はちゃんと払ってくださいね」

 昨シーズンの僕の年俸は7,777万7,777円+出来高1,600万円だった。

 これだって凄いと思ったのに、もはや想像もつかない金額だ。


「そして来季の契約ですが…」

 そう言って、田中さんはまた眼鏡のふちをつまんだ。

「2通りご用意しました」

「2通り…ですか?」

「はい、聞きたいですか?」

「はい、是非お聞かせください」

「話せば長くなるので、続きは次話で」

 またメタ発言かよ…。僕はそう思った。

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2024年12月3日 06:00

ドラフト7位で入団して(第三部 日本球界残留編) 青海啓輔 @aomik-suke

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