ドラフト7位で入団して(第三部 アメリカ球界挑戦編)

青海啓輔

第701話B ポスティング

「僕は来季、メジャーに挑戦したいです。

 ポスティングの手続き、よろしくお願いします」

 僕ははっきりと言った。


 北野本部長とジャック監督は顔を見合わせた。

 そして2人ともしばらく黙っていた。

 恐らくそれは一分にも満たない時間だったと思うが、僕にはとてつもなく長い時間に思えた。

 

「わかりました。あなたの人生です。

 悩みに悩み抜いた末の結論であれば、私たちはそれを支持し、そして応援します」

 北野球団本部長は言った。


『あなたがいなくなるのは、正直、戦力的には厳しい。

 でも札幌ホワイトベアーズに来てくれてから、あなたは頑張ってくれた。

 ありがとう。

 僕個人としても、あなたの決断を尊重し、そして応援します』

 ジャック監督の言葉を通訳が訳した。


「僕のわがままを受け入れてくれて、ありがとうございます。

 厳しい道のりが待っているのは、重々分かっていますが、精一杯頑張ります」


「君がいなくなるのは寂しいし、チームとしては戦力的にも人気面でも痛手だ。

 でも一人のプロ野球ファンとしては、高橋選手がアメリカ球界でどれだけやれるか、楽しみでもある。 頑張ってください」


 北野球団本部長、そしてジャック監督は立ち上がり、そして僕も立ち上がり、強く握手をした。


「すぐにポスティング申請の手続きを進めます。今回のシーズンオフは、高橋選手に取ってこれまでになく、慌ただしいものになりそうですね」

 確かに。


「今後の流れについては、山本と美園から説明しますので、そのままお待ちください」

 そう言った上で、北野本部長とジャック監督は退室した。

 僕は応接室に残され、トロフィーとか賞状を眺めていると、球団職員のミスター神経質こと眼鏡の山本さん(失礼です。作者より)と、美園さんが分厚いファイルを持って入室してきた。


「お待たせしました。それではポスティングの流れについてご説明しますね。

 どうぞ、おかけください」

 僕は勧められるままソファーに座り、その向かいに山本さんと美園さんが座った。

「それでは簡単にご説明します」

 山本さんが口を開いた。


「まず当球団がメジャーリーグ機構に、ポスティングの申請をします。

 そして万が一、獲得を希望する球団があれば、高橋選手に連絡がきます」

「連絡が来なかったら、どうなるんですか?」

「その場合は来年も日本で頑張ってください。

 そして万が一、獲得を希望する球団があれば、その球団と高橋選手が交渉を始めることになります」

「なるほど」

「そして球団と、高橋選手が万が一契約に合意したら、当チームには既定の微々たる譲渡金が支払われます」

「その契約交渉の期間はどのくらいですか?」

「申請から45日間です。この間に契約できなかったら、恐らくそうなるでしょうが、高橋選手は日本に残ることになります」


「あのー、一つ聞いても良いですか?」

「なんでしょうか」

「山本さんは僕のポスティングの申請に反対なんですか?」

「はい?」

「いや、先ほどから何となくそんな感じを受けるのですが…」

「そんなことはありません。むしろ応援しています。

 高橋選手ほどの選手が、ポスティングでメジャー挑戦したらどんなことになるのか。私個人としても、非常に興味があります」

 何となくバカにされているように感じるのは気のせいだろうか。


「私も心から応援しています」

 もう一人同席していた美園さんが言った。

 美園さんは僕が札幌ホワイトベアーズに入団した時から、ずっとお世話になった方だ。

「例え高橋選手が、一度もメジャーに上がれなくて、マイナーリーグを転々として、ボロボロになって、泣きながら帰ってくるとしても…、僕はずっと応援し続けます」

「そいつはどうも」

 僕は丁寧に礼を言った。


 この二人の性格はそれなりに知っているつもりだ。

 それなりに僕のことを気遣って言ってくれている…、とはあまり思えないが、まあ彼らなりの激励と受け止めよう。


 そして今後の流れを細かく聞いて、僕は退室した。

 記者が待ち構えており、このあと記者会見があるそうだ。

 うまく話せるかな…。

 


 


 

 








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2024年12月3日 06:00

ドラフト7位で入団して(第三部 アメリカ球界挑戦編) 青海啓輔 @aomik-suke

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