第19話:旅の始まり

夕暮れの海が赤く染まり、島中が柔らかな光に包まれる中、パーティーの準備が着々と進んでいた。ルミが木の実を集め、エルシアが海から新鮮な魚介を調達。コウは風の魔法で豪快に森から倒木を運び出し、火をつけて大きな焚き火の準備を整えた。


「さぁ、今日は盛大にやるわよ!どうせなら、この島全体を巻き込んでね!」


エルシアの号令のもと、前回の異変で助けた魔物たちも次々と集まってきた。大きな熊型の魔物が森の果実を背負い、鳥型の魔物たちは花を運び、空を彩っている。小さな魔物たちは地面を走り回りながら、楽しげに声を上げていた。


「まるでお祭りだな……ここまで派手になるとは思わなかったよ」


僕は焚き火の前で肩をすくめながら笑った。エルシアが腕を組んで満足そうに頷く。


「当然でしょ。だってリオヴェルス、あんたがこの島を救ったんだから。これくらいして当然よ」





焚き火が夜空に向かって高々と燃え上がり、宴が始まる。魔物たちはそれぞれの方法で楽しみを表現していた。鳥型の魔物たちは空中で華麗な飛行を披露し、地上では小さな魔物たちがリズムよく跳ね回る。アズヴァーンは堂々と座り込みながら、その巨体を揺らして笑うように唸り声を上げていた。



一応アズヴァーンも誘ってみたけど、かなり乗り気だったらしく、今も楽しんでいるのがひと目でわかる。

誘ってなくてもやって来たような気さえしてくる。


「さぁさぁ、みんな!食べて飲んで楽しむのよ!」


エルシアが配る果実や魚料理に、魔物たちが集まり、一斉に賑わいを見せる。僕もルミとコウと一緒に焚き火のそばに腰を下ろし、差し出された果実を口に運ぶ。


「うん、甘い……美味しいな」


ルミは静かに鳴きながら果実を頬張り、コウも翼で器用に持ち上げて味わっている。その姿に思わず笑みがこぼれた。




鳥型の魔物たちが不思議な音を奏で始めると、宴はさらに盛り上がった。リズムに合わせて、地上の魔物たちが踊り始める。その輪の中にルミとコウが飛び込み、華麗な動きを見せると、一層の歓声が上がった。


「リオ、あんたも踊りなさいよ!」


エルシアが楽しげに手招きしてくる。僕は苦笑しながらも、手拍子を合わせてその場に加わる。音楽と焚き火の明かりに包まれて、島中が一つになったようだった。




宴が最高潮に達した頃、アズヴァーンが静かに立ち上がり、その巨体が焚き火の光を遮った。彼は低い声で話し始める。


「リオヴェルス、貴殿はこの島に救いをもたらした。我が身を含め、多くの者がその恩を忘れぬだろう。だが、貴殿の旅路はここからが本番だ」


その重々しい言葉に、場が静まり返る。魔物たちが次々と僕に視線を向け、期待と感謝の眼差しを注いでいる。


「……ありがとう、アズヴァーン。君たちの助けがなければ、僕もここまで来られなかった。僕はもっと多くを知り、強くなる。そのために、この島を出るよ」


僕の言葉に、アズヴァーンは深く頷いた。





宴が終わり、夜が更けていく中で、僕はエルシアとアズヴァーン、ルミとコウと共に星空を見上げていた。魔物たちは疲れて眠りにつき、静けさが戻ってくる。


魔物達はとにかく僕たちの役に立ちたいらしく、アズヴァーンを含めた全参加者を召喚魔法で呼び出せる様にした。


数が数だったからさすがに少し疲れたね…





夜が明け、朝日がゆっくりと水平線の向こうから顔を出した。空が赤から黄金色に染まる中、島のすべてが新しい一日を迎える静けさに包まれていた。しかし、その中で今日という日は特別だった。島の主であるアズヴァーンやエルシア、ルミ、コウ、そして多くの魔物たちが、僕を見送るために島の広場に集まっている。


広場の中央には、昨日の宴の名残が残っていた。焚き火の跡から立ち上るほのかな煙の匂いが、少しだけ胸を締め付ける。


「準備はいいか?」


アズヴァーンの低く響く声が、空気を震わせた。その巨体は朝日に照らされて堂々と立っており、その目には優しさと誇りが混じっていた。


「うん、準備はできてる」


『ストレージ』を発動し、忘れ物が無いことを確認してから僕は力強く頷く。エトワールは指輪の形で僕の左手に収まり、ルミとコウも静かに僕の周囲を飛び回っている。



エルシアがゆっくりと歩み寄ってきた。その目には微かな寂しさが宿っているものの、どこか笑顔には安心感が漂っている。


「リオヴェルス、本当に行くのね」


「うん。でも、絶対にまた戻ってくる。約束したしね」


その言葉に彼女は小さく笑みを浮かべた。そして僕の手を取り、しっかりと握る。


「その約束、破ったら承知しないわよ。次に会う時はもっと立派な姿を見せなさい」


「わかってる。君こそ、どんな使命を抱えているのかは分からないけども。頑張ってね」


彼女は力強く頷き、その手を離した。


アズヴァーンもその巨体を低く下げ、僕と目線を合わせるようにする。


「貴殿の旅路に幸あれ。だが、無理はするな。我々はいつでもここで待っている」


「ありがとう、アズヴァーン。君たちにも色々教わったね。本当に感謝してる」


その一言に、彼は鼻を鳴らしながら笑った。




ルミとコウは、僕の肩や足元に寄り添ってくる。二匹の目には、これからの旅路への期待と、少しの不安が見える。


「大丈夫だよ。すぐに呼ぶから、少しの間だけ待っててくれ」


ルミは軽く鳴き、コウは翼を広げて答える。それぞれが満足したように姿を消していく。




島中の魔物たちが集まり、それぞれの方法で僕を見送る準備をしていた。鳥型の魔物たちは空に舞い上がり、美しい隊列を作る。地上の魔物たちは足元で跳ね回りながら声を上げ、森の奥からは大きな咆哮が響いてくる。


「ありがとう……みんな」


僕は一歩ずつ進みながら、周囲を見回した。これだけ多くの存在に支えられていたことが、胸に染みてくる。


エルシアが最後に大きく手を振る。


「気をつけて!あなたの旅が楽しいものでありますように!」


アズヴァーンも重々しい声で言葉を投げかける。


「貴殿が戻る日を心待ちにしている。それまで、我らはこの地を守り続ける」


僕は深く息を吸い込み、空を見上げた。



より効率的に改良した『フロート』を発動する。身体がふわりと浮き上がり、風が足元から吹き抜ける感覚が心地よい。


「行ってきます!」


一言叫びながら、力強く地面を蹴り、空に舞い上がる。広がる青い空と輝く海が視界いっぱいに広がり、島がどんどん小さくなっていく。


下を見ると、魔物たちが見守り、鳥型の魔物たちは僕に続くように飛び回っている。


「また会おう!みんな!」


その声が風に乗り、島中に響き渡った。振り返ると、エルシアとアズヴァーンの姿が見える。エルシアは両手を大きく振り、アズヴァーンはその巨体で静かに見送っている。




海を越え、次第に島が見えなくなっていく。胸の中には、今までにない高揚感と少しの寂しさが入り混じっている。


「ここからが本番だ。僕の旅はまだ始まったばかり」


僕は、次の目的地に向けて力強く飛び続けた。新しい世界が、今まさに目の前に広がり始めていく。





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