第14話:解決の糸口

時折現れる暴走した魔物を正気に戻しながら、森の奥へ進むにつれて、異変の深刻さが肌に突き刺さるように伝わってくる。マナの流れは荒れ狂い、まるで地面そのものが生き物のように唸り声を上げているかのようだった。


周囲を見渡すと、木々の幹は黒ずんでひび割れ、枝葉は枯れ落ち、所々で不気味な紫色の光が揺らめいている。それは生命の終わりを告げる灯火のようで、見るだけで胸が締め付けられる感覚を覚える。


「……この辺り、まるで森自体が死んでいっているみたいだね」


僕が呟くと、エルシアも険しい表情で周囲を見回した。


「マナの乱れが森の生命そのものに影響を及ぼしているのね……。これほどひどいのは初めて見るわ」


足元には、今にも崩れそうな地面が広がっていた。草花は色を失い、代わりに細かい裂け目から黒い霧のようなものが立ち上っている。吐息すら重く感じられるようだ。


ルミが静かに低く唸り声を上げた。ルミの毛並みは通常の銀色の輝きから鈍い色に変わり始めている。


「……ルミもマナの影響を受けてるみたいだね」


「気をつけて。これ以上進めば、私たちも影響を受けるかもしれない」


エルシアの言葉は重かった。僕は剣を軽く握り直し、目を細めながら先を見据えた。


「それでも進むしかない。森全体を救うためには、中心まで行かないと」


目の前に広がるのは、まるで息絶えたような森の光景。木々が立ち尽くす中、先ほどまでのざわめきすら完全に消えている。ただし、それは不気味な静けさだった。耳を澄ますと、遠くから低く響くような音が聞こえる。それは地面の奥深くで何かが蠢いているような、不吉な音だった。


「ここから先……何が出てきてもおかしくないわね」


エルシアの声には緊張が滲んでいた。僕たちはお互いに頷き合い、再び一歩を踏み出した。


森の奥へ進むにつれて、異変の深刻さが増していった。マナの流れは荒れ狂い、重くのしかかるような空気が僕たちを包み込む。


「……これだけマナが乱れていると、森の魔物たちが正気を保てなくなるのも無理はないわ」


エルシアが低く呟く。僕も頷きながら、周囲を警戒する。


その時、ルミが急に立ち止まり、低く唸り声を上げた。


「どうした、ルミ?」


彼の視線の先、茂みの中から微かに鳴き声のような音が聞こえてきた。



僕たちが音のする方へ近づくと、そこには小さな鳥が倒れていた。黄金に輝く羽毛が薄汚れ、体は震えている。その姿を見た瞬間、思わず声が出た。。


「……君は!」


今日姿を見かけないと思っていたコウが傷まみれになっていた。太陽のような羽を輝かせ、鈴のような声を響かせた彼が、どうしてこんな姿に――。


「傷がひどいわね。すぐに治療しないと」


エルシアが鳥に近づき、傷口を慎重に調べる。


「僕も手伝う。……大丈夫だよ、怖くないから」


小さな体をそっと手に取り、傷を確認する。片方の翼が折れていて、足にも怪我を負っている。




「リオヴェルス、回復魔法はできる?」


「大丈夫だよ。すぐに治してみせる」


これでいい僕は火属性の回復魔法によって、コウの治療を試みる。傷はあっという間に塞がり綺麗な体になったが、かなり衰弱しているようだ。


「これでひとまず命の危険はないはず」


コウは弱々しくも目を開け、僕たちをじっと見つめている。


コウは僕の手の中で体を起こし、傷ついた翼を少しだけ広げる。それは、まるで「一緒に行く」と言っているようだった。


「君も来てくれるのか?危ないから僕から離れないでね」


ウルフ達は数が多く体も大きいため守れる自信は無かったが、コウなら普段から連れ歩いていたので大丈夫だろう。


コウは頷くように小さく鳴き、僕の肩に飛び乗ろうとした。しかし、まだ傷が癒えきっていないのか、すぐに力を失って僕の腕に戻ってくる。


「無理しなくていいさ。ゆっくりでいいから、僕たちと一緒に行こう」



ルミが静かに鳥のそばに寄り添い、彼を守るように軽く頭を寄せた。その姿に、僕は安心感を覚える。


「行こう。まだ奥に何があるか分からないけど、この鳥の力もきっと必要になるはずだ」


小さな鳴き声が鈴のように響く中、僕たちは新たな仲間と共に、森のさらに深い場所へと足を進めた――。




コウを連れ、僕たちはさらに森の奥へと歩き始めた。マナの乱れはますます激しくなり、空気が肌を刺すように重たく感じられる。


「このまま進んだら、僕たちの方が参っちゃいそうだな……」


僕が弱音を漏らすと、エルシアが肩をすくめた。


「まあ、普通の人間ならすでに倒れてるレベルよ。でも、あんたなら大丈夫でしょう?」


「それでも、何とかしてこの乱れを抑えられれば楽になるのに……」


そう言いかけた時、ルミが突然立ち止まり、小さく鳴いた。


「ルミ、どうした?」


その場にしゃがみ込んだルミは、静かに周囲のマナを感じ取るように目を閉じる。そのすぐ横で、コウが翼を広げて同じように静止した。


「……なんだ?」


僕とエルシアが目を見合わせていると、ルミの体から微かに虹色の光が広がり、鳥の体からも太陽のような輝きが漏れ始めた。




「これ……マナが少しだけ整ってる?」


エルシアが驚いた声を上げた。僕も周囲を見回すと、確かにさっきまで荒れ狂っていたマナの流れが少し穏やかになっている。


「ルミとコウが力を使うと、マナが乱れを戻していくみたいだな」


「コウもただの可愛いペットじゃなかったってことね」


エルシアが微笑みながら言う。僕はルミと鳥の姿を見つめ、彼らが再び鳴き声を上げるのを聞いた。その音は鈴のように心地よく、耳に響く。


僕にも同じようなことが出来るが、3人で力を合わせれば、より確実になるだろう。


「これ、大元の場所でやれば森全体のマナを整えられるかもしれないぞ」


僕はその可能性を直感的に理解した。この乱れたマナの中心――つまり森の主がいる場所で、彼らの力を使えば、この異常事態を元に戻せるかもしれない。



「……可能性はあるわね。でも、まだ分からないことだらけよ。本当にそんなことができるのか」


エルシアが慎重に言う。僕は剣を握り直し、彼女に向かって力強く頷いた。


「それでも試してみる価値はあるだろう。少しでも希望があるなら、僕たちはそれを掴むべきだ」


ルミと鳥も、小さく鳴き声を上げて応える。彼らもまた、僕たちの決意を感じ取っているようだった。


「分かったわ。じゃあ、とにかく森の主がいる場所に急ぎましょう」


エルシアの言葉を受け、僕たちはさらに奥へと足を進めた。マナの流れは相変わらず荒れているが、僕たちの中には新たな希望が生まれていた。



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