第12話:本質を見抜く目

ある日のこと。拠点作りを終えた僕は、次の計画を考えながら川辺で休んでいた。


「便利な拠点もできたし、魔法の練習も順調だけど……なんか物足りないな」


僕は水面をぼんやりと眺めながら呟く。ルミは足元で丸まり、尻尾を揺らしている。


その時、ふと水中を泳ぐ小魚が目に入った。水の揺らぎの中でも、その形や動きが鮮明に見える。


「……もっと細かく見えたら、いろんなことが分かるんだろうな」


そう呟きながら、僕は小魚をじっと見つめた。何かを感じ取ろうとするように、意識を集中させる。その瞬間、頭の中でひらめきが生まれる。



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「そうだ、観察するための魔法を作れないだろうか?」


僕は立ち上がり、興奮を隠せないまま拠点に戻った。エルシアが焚き火のそばで休んでいるのを見つけ、すぐに話しかける。


「エルシア!ちょっと聞いて!」


「何?また何か作る気なの?」


「いや、今回は魔法だよ。物事をもっと詳しく観察できる魔法を作りたいんだよ」


「観察する魔法?どうしてまたそんなものを?」


僕は水中の小魚を見た時の話を伝えながら、自分の考えを熱弁した。


「例えば、木の年輪を正確に読み取ったり、魔物の弱点を一瞬で見抜いたり……そんなことができたら、すごく便利だと思わない?」


エルシアは少し驚いたような顔をしながら、呟くように答えた。


「……確かに、そんな魔法があれば役に立つ場面は多いかもね。でも、それってかなり高度な魔力制御が必要になるんじゃない?」


「分かってる。でも、試してみないと始まらないよ?」


僕は目を輝かせながら答え、さっそく魔法の開発に取り掛かった。



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まずは、観察対象に意識を集中させる練習から始めた。木の葉の模様や、石の表面の細かな凹凸をじっと見つめ、自分の両目に魔力を注ぎ込む。


「もっと……もっと細かく見えるはず」


何度も試行錯誤を繰り返すうちに、魔力を通じて物の内部構造が少しずつ見えるようになった。


「よし、この調子だ!」


ルミも僕のそばで静かに見守り、時折その力を貸してくれた。彼の光る毛並みが魔力の流れを安定させ、僕の集中力を高めてくれる。



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かなり良いところまでは出来てるし、構造や性質も見えるようにはなってきたが、もう一歩踏み込みたいところだ。


そういえば以前、エルシアが僕に星の光のようなものを感じるといったことがあった。その力を併用してみるとどうだろうか。


自分の体の中に流れる、魔力ではない力を探ってみる。


すると、冷ややかな雰囲気の魔力とは別に、暖かな異なるエネルギーの流れを感じることができた。その力にはどこか煌めく星々に似た雰囲気がある。


本当に星にまつわる力なのかは分からないし、本にも記述されてなかったためどう扱えばいいか迷いそうに思えたが、意外なことに魔力以上に自分の体の一部と思えるくらいスムーズに制御でき、力の使い方も分かる。


この星の力…星力と呼ぼう。この力を通じて星々の記憶をたどるように知識や歴史を見ることが出来た。


これを魔力と一緒に目に纏わせることで対象の詳細な情報を見ることが出来るのではないだろうか。


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「これならいける……完成したぞ!」


数日後、僕はついに魔力と星力を同時に扱う星魔法(僕命名)を形にすることに成功した。


星ノ眼レーヴェ


その言葉と共に、僕の視界が一変した。


木々の葉の一枚一枚が鮮明に映り、その裏側まで見通せる。石の中に含まれる鉱物の違いも、まるで専門の本を読むかのように理解できた。


この浜辺の近くに多く存在している木はヤーシの木という名前だそうだ。


「……これが、星ノ眼レーヴェか」


僕は感動しながら周囲を見渡した。エルシアが驚いた顔で僕を見ている。


「本当に完成させたのね……あの一瞬で物の本質を見抜けるなんて、普通の魔法使いには到底真似できないわ」


「でしょ?これで観察も洞察も簡単にできるようになったよ」



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ルミが僕の足元で小さく鳴き、尻尾を振った。その光る毛並みが僕の視界に映り、また新たな発見をもたらしてくれるような気がした。


「さて、この星ノ眼レーヴェを使って、次は何をしようか……楽しみがまた増えたね!」


魔法の練習も、ものづくりもこれでより捗るはずだ。

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「これで完成!」


僕は次元収納の星魔法を試しながら、手元の道具を黒い渦に次々と放り込んだ。スムーズに物が消えていくのを見て、満足げに頷く。


物の運搬や保持を簡単にするにはどうしようと言う考えから生まれた魔法だが、基本属性から離れた空間や次元に関わる属性を流用しているため、空間や次元、時間といった概念を根本的な部分から考察し、理解する必要があった。


結果として出来上がったものは僕たちが存在している次元より上のベクトルが1つ以上増えた次元にアクセスし、物を収納することで実質無制限に物を収納することができるようになった。


空間系の属性を生かしたものとして、バッグ等の中の空間を拡張し容量を広げ、持ち歩きやすくしている様な物は稀に産出するアーティファクトとして見られることがあるらしい。


僕が作ったものは別次元を利用し、無制限にどこでも取り出したり、仕舞ったりできる代物である。


星力と魔力と星の眼レーヴェを合わせることで非常に幅広い分野に応用することが出来るようだ。

今まで見えにくかった物がはっきりと見えるようになった。


「これ、本当に便利だね。名前をつけるなら……そうだ、『ストレージ』がいいな」


「なんかもう私ですら理解できないような領域に足を突っ込み始めたわ。ストレージね……まあ、そのまんまだけど分かりやすいわ」


エルシアが呆れたように笑いながら言った。その横でルミが小さく鳴いて、渦の中を興味深そうに覗き込んでいる。


「シンプルでいいでしょ?ほら、次は空を飛んでみようかな」



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僕は森の中の広い場所に移動し、飛行魔法の調整を始めた。星ノ眼レーヴェによって、風や空気の流れがはっきりと見えている。僕たちを地面に引っ張っている力…重力と呼ばれるものの与えてくる力のベクトルをねじ曲げる。常にかかり続ける強い力の流れをねじ曲げているため、かなり強引な魔法の使い方をしている。


「ほら見てくれ!これなら空も飛べるぞ!」


数メートルの高さを滑るように移動しながら、僕は歓喜の声を上げた。エルシアが下から腕を組んで見上げる。


「名前は……そうだね、『フロート』がぴったりだな」


「またそのまんまね。でも確かに便利そう」


「便利でしょ?空を飛べれば探索も捗るし、何より楽しいよ!」


僕は楽しそうに空を滑って見せたが、エルシアはため息をついている。


「まあいいけど、調子に乗ってどこかにぶつからないでよね」


しばらく飛んでいると力の曲げ方にも慣れてきて、風が植物を揺らすように、自然にいなすことができるようになってきた。


その後、星力も合わせることげより消耗を抑え、軽やかに動くことが出来るようになった。


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次は拠点の掃除魔法だ。道具の開発で散らかった木屑や埃をどうにかしたいと思い、魔法で一掃する方法を考えた。


手のひらをかざしながら魔力を込めると、周囲の埃がすべて消え去る。床がピカピカになったのを見て、僕は満足げに笑った。


「これも完成!名前は『クリーン』だな。綺麗さを象徴する感じでいいだろ?」


「……本当にどんどん作るわね。まあ、綺麗になるのは助かるけど」


エルシアは苦笑いを浮かべながら、床を指でなぞって確認している。



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さらに僕は、調理を楽にする魔法にも手を出した。刃物で食材を切る必要すらない魔法を作り、火加減を絶妙に調整する機能も追加する。


「これで、料理がもっと楽しくなる!『クッキング』って名前にしよう」


「クッキング……なんだか高級料理みたいね」


エルシアが興味深そうに野菜を切り分ける様子を見つめている。その横でルミも尻尾を振りながら、僕たちが作った料理を楽しみにしていた。



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最後に、拠点内の温度を調整する魔法を作った。夏は涼しく、冬は暖かく保てる便利な魔法だ。


寒かろうが暑かろうが正直僕にはあまり影響がないんだけど、快適ってのは感じるから作ってみた。


「これで暑い日も寒い日も快適だな。名前は『テンペルス』にする!」


「……これ、普通に考えたら貴族の館でもなかなかお目にかかれない設備よね」


エルシアが呆れたように言うが、僕は気にせずランタンの明かりを調整して室内を整える。


「これで何でも快適に生活できる!」



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次々と便利な魔法を開発した僕は、拠点をまるでどこかの宮殿のように快適な空間へと変えていった。


「……リオ、あなた、本当におかしいわね。普通はここまでやろうなんて思わないわよ」


「でも、こうやって便利になると楽しいでしょ?それに新しく作るのが面白くて」


僕が笑顔で言うと、エルシアはため息をつきながら答えた。


「楽しいのは認めるけど、これまで作ってきたような変な魔法はあまり人前で見せたらいけないわよ。いい?絶対よ」


どうも人類達は欲深く、自分の力でも無いものを利用しようと暴力を振るってくる者がいるようだ。


「分かった分かった。……さて、次は何を作ろうかな」


僕は口元に笑みを浮かべながら、再び新しい魔法のアイデアを思い浮かべていた――。



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