第44話:いつかは思い出になるって思いださなくていいこともある

「さてー、やるか」


本日は収穫祭。


そう、あの阿鼻叫喚の収穫祭である。


トラウマ払拭を目指す私達は久しぶりにお祭りに参加していた。


「きゃああぁぁぁぁぁっ!」


「なれんなー。」


正直この悲鳴地獄になれる気がしない。


すまし汁になると美味しいんだけどな~。


「これ、一生この悲鳴と付き合っていかなきゃならないのかな?」


「いっそのこと口でもふさぐか?」


「トラウマからか発想が物騒になってる。」


犯罪の現場みたいになっちゃうよ。


いやでもふさぐか……いっそのこと耳栓でも作るか。


「あるぞ~耳栓。」


「あるんかい。パパちょうだーい!」


そんなこんなで耳栓をゲット!


これで安心して収穫できるな!


「      」


いや顔怖いな。




「ふぅ、大方収穫終わったな。」


「カノイ様ぁ……そろそろ帰りましょうよぉ。」


「うん?そうだな、いったん帰るか。」


と、振り返った瞬間あの日を思い出した。


あの時も振り返った瞬間にリボルが切り裂かれたんだっけ。


そんなことを思っていると血の臭いがした。


血に飢えた眼、赤黒く光る牙、今にも飛び掛かりそうな姿勢。


あの日見た野獣の姿に似たそれは群れを成していた。


「ウェアウルフ……。」


即座に彼らを見た。


しかし、想定していた姿と違い、リボルもヴァイスも臨戦態勢に入っていた。


「え。」


「前みたいにはいかないぜ!」


「カノイ様は後方に下がっていてください!」


「え、えぇ……。」


その後は見事なものだった。


華麗な剣捌きで敵の攻撃をいなしていくいなしていく。


まだ切りかかるほどの度胸はないのか、攻撃には転じないものの実力差は明らかだった。


「え、まって、何それすごい!私もやる!」


黙ってはいられず私も護身用の剣を抜き、戦闘に参加するのだった。




「ふぅ、何とかなったな!」


「カノイ様!下がっていて下さいと言ったではないですか!」


「いや、なんか、楽しそうでつい。」


そう、楽しそうだったのだ、彼ら。だからつい参加しちゃった。


ウェアウルフ達はその余裕そうな姿を見てすごすごと去っていった。


そりゃあ殺そうとしている相手が楽しそうに自分の攻撃をいなしていたら恐怖だよな。


「楽しいっちゃ楽しかったな!」


「自分の実力がどれほどなのか感じることもできましたしね!」


「そっか、よかった。もうトラウマも払拭だな!」


よかったよかった!


「そういえばさ、あの時カノイなにしたんだ?俺死んでたよな?」


「そうです!カノイ様のあの神にも近しきあのお力はいったい何ですか!?」


「え、あ。」


そういえばトラウマでうやむやになっていたがあの時能力デバッグルームを使ったんだっけ。


バレてたのか。


「………………秘密。」


「「えー!」」


その後もしばらく彼らには質問攻めにあったが、村が見えてくるころには二人とも静かになった。


秘密は守ってくれる、いいやつらだ。


カノイ・マークガーフ、10歳、危うくぼろを出しかけた秋の出来事である。

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