第17話:それはそれとしては無敵の言葉

あの事件……事故があってから数か月。


私達の村はいつも通りの冬籠り中だ。


あれから、あのウェアウルフの姿がトラウマになったのかリボルもヴォイスも多少の森恐怖症を残し、一切あの日には触れることはなかった。


正直言い訳を考えている余裕もなかったので助かった。


特にヴァイスには残酷な情景を2回も見せてしまったこともあり、心配していたのだが、なんと翌日には笑顔で挨拶をしてきたのだ。


肝が据わっているというかなんというか、ただ心なしかこちらを見る目はいつも以上に輝いて見えた。


いや、心理的に子供の純真無垢な目が綺麗なものとして私の目に移っただけかもしれない。


それくらいあの時は緊迫していたのだ。神経が張り詰めていた。


なんせウェアウルフ……狼男を殺してしまったのだから。


理解している。これはれっきとした殺人だ。


あの後見つかった男の死体は酷く食い荒らされていたらしく、森のモンスターの仕業、ということになった。


だが、だからと言って罪が消えるわけではない。


あちらが先に手を出してきたとはいえ殺人は殺人だ。


現代に生きていた故に感じる罪悪感。


この気持ちは消えることはないのだろう。


今後も、私は多くの人の命を奪うことになるのだろうか?


その覚悟を、持っておいたほうがいいのかもしれない。




それはそれとして今日はフロージの誕生日である!


かねてより準備していた大量の根菜に隠しておいた特別脂ののったお肉!


貴重品である米をベースにお兄ちゃん特製のおかゆを作る!


ハッピーバースデーを歌いながらキッチンから飛び出せば、お怒りのお父様。


はい、ごめんなさい。


勝手に使ってすみませんでした。


危ないからと言って止めてくれていたエミリーを何とか説得して勝手にキッチンに入りました。


涙目で作りたてのおかゆを見せればふぅ、と息をつき思いっきり抱き寄せられる。


「カノイ!お前は本当にやさしい子!最高のお兄ちゃんだ!」


そういって高い高いをされれば子供らしくキャッキャッと反応せねばなるまい。


正直おかゆがこぼれそうだからやめてほしいが。


そのまま抱っこの姿勢で連れていかれるのは食卓。


かわいいかわいい弟であるフロージは私を見てきゃっきゃっと良い反応をくれる。


降ろされるままおかゆをフロージの前においてやると、お母様がスプーンに一杯掬い口元に持って行ってくれる。


ドキドキしながら反応を待つ。


「まー!もー!」


今のは「ママ!もっと!」の意である。


私は誰に隠すことなくガッツポーズを決める。


父はちょっと噴き出して、母は「あらあら、ふふふ」と小さく笑っている。


幸せな食卓、幸せな誕生日会だ。


そうだ、この幸せを長く続けるためなら、村の皆を守るためなら、私は鬼にでも悪魔にでもなってやろう。


カノイ・マークガーフ、3歳、心の奥底で誓いを立てた冬の出来事である。

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