第6話:社交場は何歳になっても存在はする

そこには何もない野原が広がっていた。


見たこともない七色の小鳥が鳴き、木々には小動物が駆け巡っている。


緑の香りに懐かしさを覚えながらも、嗅いだことのない花の甘い香りに好奇心が刺激される。


なんだこれ、きれいだ。


原っぱの先には草のない地面が広がっており、その中央に人だかりができていた。


「領主様!その子が噂のお子さんで?」


「領主様!冬明けの大鍋祭りが始まりますよ!シチューをどうぞ!」


「領主様!ご覧ください。村人皆、無事冬を越せました!」


口々に話しかける村人達、そのテンションと内容で家の父がいかに慕われているかが伝わってくる。


そこに、小さな幼子が駆け寄ってきた。


「りょうしゅさま!おはつにおめにかかります!サリバンけのちょうし、リボルともうします!」


音に聞くサリバン家の息子さんのようだ。


お初にお目にかかります、ということはこの年になるまでは子供は外に出さないようにしていたのだろう。


まぁ、妥当か。


少し遅れてもう一人、リボルより一回り小さな子供がおずおずと寄ってきてぺこり、と一礼する。


「おはつにおめにかかります。ヴァイス・リーベンともうします。」


ご丁寧な挨拶をどうも。


この子が天才のヴァイス君らしい。


2歳と聞いていたが体はかなり小さい。


いや?リボルが大きいのか?


中くらいの私もご挨拶を、と思い母の腕をてしてしと叩く。


我ながらかわいらしい擬音である。


状況を察したのか、下におろしてもらえたので少し胸を張って、彼らにならい村人達の前で挨拶をする。


「おはつにおめにかかります。カノイ・マークガーフ、1さいになります。ほんじつはおいそがしいなか、わたしのせいたんさいにおあつまりいただきありがとうございます。」




瞬間、静寂が訪れた。


なんだ、もしかして失敗したか?カテーシーとかしたほうがよかったか!?


無いに等しい貴族の礼儀マナーの知識を絞り出して心の中で反省会を開きそうになっていると、途端にざわざわと民衆が騒ぎ出す。


「こりゃ驚いた!まだ1歳だろう?」


「こりゃあ将来は安泰じゃなぁ」


「転生じゃ!転生者に違いない!」


あぁ、なるほど、1歳にしてはできた子だと驚いた、と、いや待て、今お爺さんなんて言った!?


「てんせいしゃ?」


「あ、あぁ、そうだな。後でお勉強しような。」


「本日はこの子、カノイの誕生日です。これを機に名前の決まっていなかった大鍋祭りをカノイの生誕祭に改名しようと思うのだけれど、どうかしら?」


気を取り直して、母がそういう。


村人たちは反論せず、何なら喜んでお祭りの改名を受け入れてくれた。


この数年後、子供が生まれてくるたびにお祭りが増えるのは別のお話。


カノイ・マークガーフ、1歳、村の一員として受け入れられた春の出来事である。

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