第3話:転生特典ってもっと簡単に見つかるものにしてほしい

状況がさらに悪くなっている気がする。


私もれっきとした転生者、何らかの能力があるのではないかと思い試行錯誤してみた。


が、できたことといえば文字を読むことと言語を理解することくらいだ。


いや、生きていく上ではそれで充分なのかもしれないが、異世界ファンタジーものの世界観でそれだけはないだろう……。


例えば、とんでもない魔力を秘めているとか、例えば、とんでもない身体能力を有しているだとか、そういった兆しもなければ診断もない。


診断といえば、定期的に医者らしき人が私の体を調べに来るが、彼曰く、


「いたって健康体ですな。魔力量も平均値を上回っておるが、溢れるほどでもない。順調な経過じゃ。」


とのこと。


そうか……魔力量がちょっと多いのか……ちょっとか……。


ま、まぁそんな事実を早めに知れたのだからまだ良しとしよう。


もしかしたら今後とんでもない力が目覚めたりするかもしれない。


剣聖と呼ばれるような技や賢者と呼ばれるようなすごい魔法技術に目覚めたりもするかもしれない。


そういった妄想が私の最近唯一の楽しみである。


なぜ唯一なのかって、親の話がことごとくつまらない。


大切にされているのは伝わるのだが、例えば母の家系の話、例えば父の近況報告、例えば使用人達のちょっとした愚痴、いや、最後のはちょっと楽しみだな。


そういった話は正直聞き飽きたし、今後の人生に役立つものなのはわかるのだがお貴族様のお仕事が自分に出来るとは思えない。


なんてったってサラリーマン、使われる側の人間である。


もちろん転生したからには別の人生を歩んでみたいが、それにしたって貴族なんて言う中間管理職は正直ごめんだ。


どうせ上を目指すなら社長がいい。


次世代に後を託して引退する役員が理想だ。


高望みしすぎか?どうせ転生なんて言う非現実的な現実に直面しているのだから夢見がちになったっていいじゃないか。


だが、夢ばかり見ている場合でもない。


書類仕事や政治のあれこれは、そういうのが得意な兄弟が生まれるのを待つとして、自分の立場というものをはっきりさせなければならない。


そのためにも、何か能力が欲しかったのに、現実は非常である。


吉井一人、0歳、自分自身に絶望した秋の出来事である。

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