第41話 本部の目の前で

 負傷者総70人。 死傷者48人。


 仲間側に物凄い被害を及ぼした魔獣は全滅できたものの、こちらの戦力は大きく削がれる。

 

 私達は覚えている治療魔法で負傷者達の治療に専念する。

 既に意識の無い人もいたが、それでも呼吸はしていたので生きている。


「おい!! こっちの方にも怪我人が沢山いるぞい!!」


「あ……ぅあぁ……ああぁっ……!」


 負傷の苦しみに嘆く喘ぎ声がまるで宴のように街中をこだまする。

 私はその声を耳にしながらも治療を施す。別の班にいるキリカは無事であろうか。

 負傷者の傷を癒しながら、 彼女の行方を探す。


「確か、キリカさんの班も割と近くにいたと思う……。」


 しかし、キリカの姿は見当たらない。 あのトカゲの魔獣に殺されてしまったのだろうか……。 いや、彼女は決して弱くはない……。 きっと無事だ!! 


「今は他のチームの人たちの治療に集中しなくては……!」


 私は魔法少女――

 

 正義のヒロイン――


 誰かの為に戦い、誰かの為に守る――

 それが私が与えられた魔法少女の宿命……。


「おい!! そっちの方はどうだ!!」


「大丈夫です!」


 ドコニは私が治療をしている魔法で回復がちゃんとできているかを確認する。

 私がしっかりと治療をできていることを確認すると、ドコニは私に対して治療がある程度終わったら、次に進もうと言い出した。


「まだ、回復できてない奴らもいるけど、このままだと討伐に行けないし、状況も既に通信機で伝えたからな。 どの道、治療魔法を使える魔法少女も他にいるだろうし。」


 彼女はあくまでも最低限の治療だけをして、そのまま本部を目指そうということだ。 少し不安な部分もあるけど、彼女の言葉を信じてある程度、周辺の戦士の傷を癒したら次に進むことにする。



◇ ◇ ◇



 私達は他のメンバーよりも少し早く、街中を探索していくとスーツを着た如何にも怪しい人物が大きなビルのような場所を監視するかのように見張っている。

 地図の座標からの情報や明らかに他の建物よりも大きく、周りの防壁がしっかりとしていることから、恐らくあそこが本拠地。


「おい。 ここから物陰から隠れながらあの建物に近づいていけ。 足音も声の音量もグッと下げろよォ。」


 ドコニは私たちに対して心配をしてくれている。 一応、後輩という立場なので敬語でなるべく話すように注意をしながら私は小声で会話をする。


「あのぉ……。 ドコニちゃんはどの様に侵入するつもりですか……?」


「決まっている。 入り口にいる警備員の構成員に気づかれずに音や気配の出ないステルス技をぶち込んで、近くのカメラを破壊する。」


 なんか昔アニメでそんな展開があったような気がするなぁ……。

 でも、このやり方って実際上手く行くんかなぁ……。

 カメラ壊したら、組織の内部の監視モニターがエラーになって、どの道バレそうだけど……。


「ここよりも近づけそうな位置はないな。 こうなったら、あの技を使うか……。」


 ドコニの言うあの技とはどの様なものなのか、少し気になるが……。

 彼女の言う必殺技とは――


【土蜘蛛の巣】


 彼女は魔動技で生み出した蜘蛛を使って、蜘蛛を操るかのように構成員に向かって走って行く。 蜘蛛はとても小さく、そのままカサカサと動き始めていく姿は少し気味が悪い。 


「おい。 何かさっきから変な光る蜘蛛みたいなのがいないか?」

「確かに……。 なんだこの蜘蛛は……。」

「ボスが生み出した新しい魔獣ではないか?」


 入り口の付近にいた構成員はドコニが生み出した蜘蛛を見て動揺をしている。

 思った以上にすぐに感づかれてバレてるんですけど……。


「割と手馴れだな。 わての蜘蛛にすぐに気がつくとはな……。」


 ドコニは恐らく、気づかれずに蜘蛛を使って暗殺を仕掛けたので、すぐに気づかれてしまった時点でこの作戦は破綻してしまった。


「おい!! やはりこの蜘蛛から物凄い魔力のエネルギーを感じるぞ!! こいつは魔獣ではない!!」

「この辺に政府の手先がいる可能性がある!! 周りを探索せよ!!」


 構成員は蜘蛛が敵の刺客だと気づくとすぐに自分の持っている武器で蜘蛛を焼き殺そうとした。 蜘蛛も焼き殺そうと準備をした時に思いっ切り敵の体に飛びつき、攻撃を開始する。


「ぐわぁ……うっぐっ!! ここにいる蜘蛛を皆抹殺せよ!!」


 構成員の内の一人はすぐに施設に連絡するための通信機を取り出し、施設の中に敵が侵入しようとしていることを伝えだした。

 施設の中から飛び出してやってくる魔獣者の戦士達……。

 これじゃ、中に侵入することができない。


「あちゃちゃ……。 もう捜索を始めるつもりか……。 やはり、一筋縄では行かなそうだなぁ。」


 グランドストリートの本部はもう目の前だが、思った以上に敵の数が多く、魔道具で武装している連中。 これでは、近づくことはおろか、ここで隠れていることすら危ない。


「あらあら。 こんなにも敵に囲まれてしまいましたのに、あなたは焦っていませんのですね。」


 アリシアがドコニに対して疑問を投げかけると、ドコニはニチャリとまた笑い、余裕そうな表情を出す。


「そりゃあ、 わてとっては面白みのある敵であるからの~う。」


 徐々にこちらに向かってくる敵、私達が隠れている場所は近づかれたらバレる建物の瓦礫の間にいる。 構成員の所持している武器と足音が徐々に聞こえてくる。


「さあ、お前ら!! 今ここで思いっ切り魔力の弾を上に放出してみろ!!」


 ドコニは私たちに対してエネルギーを発射するように命令する。

 何を考えているんだ!? すぐにバレてしまうぞ!!

 私も含めて三人は少し戸惑うが、それでも彼女は思いっ切り上に目掛けて放つよう命じてくる。


「分かった。 ドコニちゃんに掛けて私達は上に魔動の弾を発射するよ……。」


「いっけえぇ――ぇええええええええ!!?」


 私達は力いっぱいに大量の弾を上空に飛ばした。 アリシアの飛ばした魔法の玉は上空に飛ぶと最終的に花火の弾のように炸裂して美しく、火が周りに飛び散った。


「熱いってっ!!」


 マスカリーナはすぐに水属性の技で周りを囲み、私たちに火の粉が落ちて来ないように事前にベールを作っていた。


 周りの足音と声が聞こえる。 それは組織の戦闘員のものである。

 一歩、一歩と近づいてくる……。


「おい! そこに誰かいるな! お前たちは今すぐにそこを囲え!! 我々の敵がいることを想定するんだ!」


 はぁ……。 もうバレた……。 このドコニという人は何を考えているのだろうか……。


「誰かここにいるぞ!! 奴らを無力化せよ!!」


 ついに戦闘員と目が合わせる。 私達四人は全員攻撃の構えを取った――



「ぐはぁ!!」

「おい!! しっかりしろ!! 敵はここにいる!!」

「なっ!! うごぉ……。」


  私たちの前に姿を出した周りの戦闘員がどんどんと倒れていく。

  いや、倒れるというより不意打ちによって殺されている……!?


「みんなここにいたか。」


 戦闘員の後ろに騎士がいる。 騎士は黒髪と下のインナーカラーはネイビーブルーで子供っぽい少年だ。


「あっ、ガクトっ!!」


 どうやら、あの上空に飛ばした魔法のおかげで仲間に居場所を察知されたようだ。

 仲間ってこんなに頼もしいんだね☆

 









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