第21話 256号室

 ――いかにも怪しい雰囲気を漂わすチーム募集

 

 チーム名は一二人

 魔法少女になれるおじさんを探している。

 私が夢で聞いたことと同じである。 


 私はこの謎の募集に勇気を出して電話をする。

 恐らく、夢の中で出てくる少女と何か関係しているのだろう。


 ――――


「もしもし、このチームに興味を持ったものですが、今から交流願いできますでしょうか?」


「あっ、大丈夫ですよ。 ボク達のメンバーがいる部屋の番号教えますね。 256合室です。」


 十代の少年か少女のような高い声だった。

 その声の主はすんなりと部屋の番号を教えてくれる。

 私はその怪しさに警戒しながら、質問をする。


「すみません。 聞いときたいことがあるのですが、このチームはどういうった活動をされているのでしょうか?」


「う~ん。 みんなで集まって世間話したり、ゲームしたりする活動かなぁ~」


 一見聞くと、普通のチームのようには感じる。

 私は更にいくつか質問をする。


「あの、私はまだ魔法少女になってから二ヶ月程度しか経っておらず、難しい討伐依頼は一人だと足手纏いになるかもですが、大丈夫でしょうか?」


「うんうん! 大丈夫ですよ、早くこっち来て!」


「あっ……。 分かりました。 検討してみます……。」



 私はあまりにも積極的に勧誘しようとする対応に少し動揺してしまった。

 これから256号室に行くべきだろうか。

 私は連絡をやめ、職員に話してみた。


「こういうギルドって怪しい人がいないように管理されてますか?」


「そうですね。 しっかりと管理してる筈ですよ。 一応、公共の機関でやってるものなので。」


 決心して行ってみるか。

 万が一、私の身に危険が及んだらすぐに通報して逃げよう。

 私は警戒しながら256号室に行くことにした。



◇   ◇   ◇



 256号室に行き、その部屋のチャイムを私は鳴らす。

 部屋の向こう側から、「はーい」という声が聞こえた。



「こんにちは。 ボクのチームに電話してくれた子ですか。」


 銀髪の結んだカチューシャ編みの可愛らしい女の子が姿を現した。

 髪の後ろには可愛らしい白いリボンが結ばれている。

 服装的に既に魔法少女として変身しているかのようなロマンティックなパーカーと触り心地の良さそうなお尻を包んでいるホットパンツ。

 青と白のマリンボーダーのニーハイ、そして羽の着いた魔法の靴を履いていて、その姿はアニメに出てくる美少女キャラのような姿。


「ちょ……可愛い♡」


 可愛らしい見た目に見惚れて、涎を垂らしているオランチアに対してその子は自己紹介を初めた。


「ボクはミノ。 どうもご機嫌麗しゅう。」


 私もミノちゃんに自己紹介をする。

 思った以上にヤバい奴という訳ではないようだ。


「僕はオランチア。 今日はよろしくね!」


 私はミノの紹介により、256号室の中にそのまま案内をされた。

 部屋の奥はどこにでもありそうなホテルの部屋と言う感じだ。

 しかし、タブレットの紹介にも書いてあったように部屋にいる人はミノだけのようだ。


「このチーム、君だけなの?」


「うん。 今回はボクだけがチームメンバーなの。」


「結構部屋のスペースあるね。 やっぱり、いつものメンバーはもっといるんだ。」


「そうだね。 それじゃあ十二人のことを話すよ。」


 ミノは部屋のソファーの上に座る。

 とても和やかなオーラを出して。


「まず、最初にあなたに尋ねる。 あなたわぁ一二人の子?」


…。


……。


「どっちだと思う?」


 私は咄嗟に質問を質問で返してしまった。

 やはり、自分の正体を何処の馬の骨かも分からない相手に言いたくない。


「ん? 答えたくないの?」


「……。」


 私はすぐに返事ができなかった。

 勇気を振り絞って、来たが何故かここで自分のことを言ってしまったら、何か恐ろしい目に会うのではという嫌な予感がしたのだ。


「確かにあなたどこにでもいそうな魔法使いさんみたいだし、ボクから見たら人違いかな?」


「ごめんなさい……。 変わったメンバー募集があったので、つい気になって来てしまいました。」


 私はとりあえず、十二人が一体何者なのかを探り終えてそのままここを後にしようと考えた。

 会話もそう言った流れに持っていこう。


「十二人の子とは一体何でしょう?」


「あっ、まずそっから知らないと……。」


「大いなる存在から力を貰った人達の中でも特別な一二人という訳さ。」


「大いなる存在?」


「そうだ。 我々の使命はその方によって動かされている。 その方が導く道に沿うなら誰も彼もが真の平安を手の中にあるだろう。」


「……?」


「その選ばれし道がどれだけ苦難であるか、如何に茨の道だったとしても太陽の明かりが母上と父上の寵愛のように世界を照らすならボクはこの道を喜んで進み給う。」

 

 ミノは目の瞳孔を大きくさせながら語り始める。

 さっきまでのほんわかとした女の子らしい表情から急変した目つきと薄気味悪い笑顔でこちらの顔見る。

 しかし、熱心に語る姿とは裏腹に彼女の瞳孔が開いた目は左右に動いており、まるで泳いでいるような目つき。

 オランチアは怖気づいてしまい、全身が震えてしまった。


「人に似せて造られても、その心は人類への渇望を忘れさせない。 いづれ、来る日が来た時に我々は実行だ。 そう、我々の意思とはあのお方の意向というレールの上にいるに過ぎない。 この世界にいる人間もそこに気づき、快く委ねるべきだ。」


 ミノは何度も私に訴えかけてきた。

 すぐに逃げようと思えば、逃げられたが体の震えですぐに逃げ出す準備が出来なかった。


 しばらくミノの一方通行で意味不明な宗教の勧誘のような会話を聞き続けたが、彼女も語りつくしたのか、話が終わると近くにある冷蔵庫を開けてオレンジジュースを持ってきて、飲み始めた。


「ふぅ、やっぱり語りまくりの後に飲むジュースは美味いなア。」


 徐々にミノは落ち着きを取り戻し、玄関で最初に目を合わせた時の可愛らしい女の子の表情に戻っていった。

 

 そう言えばいたな、こんな感じで宗教の勧誘してきた奴。

 俺がまだ大学に入って上京したころの時。

 趣味が合うからと言って友達になって近づいてきた奴が信者で別れたな。


 オランチアは過去の出来事を思い出しながら、さっさと256号室から出るタイミングを見計らう。


「あの、ちょっとさ。 魔獣の討伐の依頼とか他のメンバー募集も見たいから今日はこの辺にしない?」


 ミノは私の発言に首を傾げて不思議そうにこっちを見つめる。

 

「あれれれ? もう帰っちゃう?」


「うん。」


 当たり前だ、宗教の勧誘なんてお断り!!

 そう心の中で思っていると、彼女は携帯を取り出して私に何かを見せてくる。


「これなら、今の君でも勝てるよ。」


 ここから割と近い浜辺にいる魔獣を倒せという依頼だった。

 Lv1の魔獣で複数いるがそのうちの一体を倒せば依頼達成とのことだ。


「それを倒せってこと?」


「ちゃんと倒してきてね。 時間があったらまた後で話の続きおしよう。」


 私はとりあえず、今すぐここから離れたい一心で256号室を後にした。

 部屋を出る時、後ろから何か嫌な気配を感じたので部屋を出た後はすぐに走って、逃げるように受付カウンターに戻った。


 

  

 

 




 





 

 















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