第14話 狼の魔獣

 空から眺めていたアリシアが何かを伝えてきた。


「二人とも!! あそこの方に他の個体よりも大きくて鮮やかな毛をした逞しいペコべロスがいますわ!! きっとあれがこの群れの長だと思われますわ!!」


 アリシアはオランチア達に向かって、そう言い放った。

 だが、既に二人は手下の群れに囲まれており、長と思える魔獣に近づける状況ではなかった。


「アリシア先輩!! 私たち、ペコベロスの群れに囲まれてて、そっちに行けないです!!」


 恐らくアリシアが指さす方向に狼の魔獣のアルファオスと呼べる存在がいるのは分かった。

 しかし、この状況ではそこに行けないどころかこの魔獣の群れに殺されてしまう。


「まずはこいつらやっけつけよう!!」


 マスカリーナはそう言うと、手のひらを前に向けて何かを唱え始めた。

 

「マスカリーナちゃんそれは魔動技……!?」


三竦みの冷菓トリプル・シャーベット


 彼女がそう唱えると、一番魔獣が多そうな位置に目掛けて三角形の赤い氷を三っつ同時に飛ばした。

 赤い氷は木の片隅にぶつかるとガリッと音を立て、欠けた。

 欠けた破片は周辺に鋭く飛び散っていき、その近くにいた魔獣に思いっきり刺さっていった。


 私もそれに負けじとシャトリエーゼから猛特訓を受けたウインドアスプラッシュを放った。


「キャンキャンキャンキャン!!」


 魔獣たちにはどうやら、効果があったようだ!!

 残った魔獣たちは一旦、身を引いて近くの木の後ろに隠れていった。


「やったね!! 結構やっつけた!!」


 オランチアは魔獣が和を崩すと同時に一気にアリシアが指をさした方向に突き進んでいった。


「くっ……!! あまりにも周りが暗くてよく見えない!!」


 アリシアの指をさす道に進んでみたが、木の影が多く、しかも暗すぎて遠くが見えない。

 しかし、何か大きな足音がこちらに近づいてくるのを感じた。


「ど、どうすれば!!」


 オランチアは必死に自分の使えそうな魔法を脳内に巡らせてみた。


「何か暗闇を照らせそうな魔法があれば!!」


 その時、オランチアは稽古初日にシャトリエーゼから光の弾を作るやり方を教わっていたことを思い出した。


「光の弾ってこう作ったっけ!!」


 オランチアはすぐさま、力を人差し指に溜めて光の弾を発射した。

 しかし、普段練習して使ってこなかった魔法を急いで発射したために意図しない方向に飛んでいってしまった。


「しまった! 思ったよりも上の方に飛んで行ってしまった!!」


 オランチアはすぐさま、もう一度自身の人差し指に力を込め、二発目を撃とうとした。

 しかし、一発目の弾は上にいた何かにぶつかってしまったようだ。


「えっ 何かに当たった!?」


 光の弾が何かにぶつかるとキラキラと眩い光を周辺に放った。

 オランチアは眩しくて一瞬、目を閉じてしまった。


「眩しい!!」


 すぐに光に慣れて目をゆっくりと開けると、オランチアのすぐ近くに他の個体よりも数倍大きく、毛の色も違うペコべロスがいた。


「うわぁ!! でか!!」


「グウゥガオォォォォォオオオオオ!!」


 大きいペコべロスはすぐにオランチアに思いっきり、飛び掛かってきた!!


「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ殺されるぅぅぅううううううう!!」


 さっきも不意を突かれて嚙まれたが、回復魔法でなんとかなった。

 しかし、今度の場合はそうは行かない。

 この大きさの奴に嚙まれたら恐らく、即死で終わるだろう。


 オランチアはすぐに防衛本能で構えたが、人生の終わりを実感した。

 その時――


「グゥォウウウウウ!!」


 何か上から大きなものが落ちてくる音が聞こえ、その音はすぐに大きな爆発音にすり替わった。

 爆発音と共に大きなペコべロスは悲鳴を上げ、横に吹き飛んでいった。


「い、一体何がっ!!」


 私はすぐに上を振り向いた。

 上には大きなライフルのような魔動具を浮かせているアリシアの姿を私は見た。


「ごめんね。 すぐに撃てなくて……。 ちょっとこの魔動具、起動するのに時間がかかるんですわ。」


 どうやら、あれはアリシアの技らしい。

 私はすぐにマスカリーナの近くまで戻った。


「オランチア大丈夫ですぅ?」


 アリシアは私のことを気遣ってくれてるようだ。

 

「ありがとう……。 アリシアがいなかったら、普通に死んでたわぁ。」


「てか、あれ見て!! あいつまだ生きてるよ!!」


 オランチアが大きなペコべロスの方を振り向くとまた立ち上がろうとしていた。

 ペコべロスはどうやら、それなりに耐久性が高いようだ。


「あらぁ~ それなりに魔法を溜めて撃ったはずですのに~ やはり魔獣は硬いですわね。」


 立ち上がった大きなペコべロスは首を上に向けて吠える。

 吠えた鳴き声に反応するかのように大勢の手下のペコべロスがオランチアたちの回りを囲むように集まってきた。


「うっ!! また集まってきた……!!」


 私はすぐに光の弾を作る姿勢を取り、近くを明るく照らした。

 ペコべロスの群れは木や草むらに隠れている可能性があるため、周りを明るくしても油断はできない。


「こんなに集まってきたら、私たちでも対処できないよ!!」


 マスカリーナはそう言って、少し汗を流していた。

 やはりあまりの数に焦っているのだろうか。


「うふふ。 私が援護してあげますわ!!」


 アリシアはスカートの辺りに装着しているバッグの中から何かを下に投げてきた!

 

「うわぁ!! めっちゃ燃えてるじゃん!!」


 中身は大きめの火炎瓶で、木や草が特に生い茂ってる場所に狙って落とした。

 火炎瓶の威力は大きめのペコべロスに向かって砲撃したアリシアの銃弾に引けを取らない火力であり、森の辺り一帯を火の海に変えることができた。


「ちょっ!! めっちゃ燃える!! このままじゃ、私たちまで死ぬ!!」


 オランチアとマスカリーナは徐々に迫りくる炎に焼かれないように距離を開けながら、炎を浴びてのたまうペコべロスの群れを順番に倒していった。


「結構大胆ですね先輩!!」


 マスカリーナはそう言うと、魔動技を使う準備をした。

 今度は両手を横に広げて、さっきのとは違う技を使った。


力水の七陣パワフルウォーターセブンス


 マスカリーナは水の弾を上空に飛ばして、ある程度の高さのところで水の弾を破裂させた。

 大量の水が雨のように降り注ぎ、森林に燃え盛る炎は次第に収まっていった。


「流石にこれ以上森林を燃やしちゃうと森の中の建造物にまで被害が出ちゃうかもだから消しとくよ!!」


 この森には一応、人が通れる道が作られており、その道の途中では人が休憩するための建物がある。

 今も使われることがある場所なので、そこを燃やすわけにはいかなかった。


「グオォアヴァ!!」


「マスカリーナとオランチア!! 私はこの大きいのを倒しますので、あなた達は残りの残党を倒しておきますのよ!!」


「それ私の手柄……。」


「今回は後輩のためを思って手柄はあなたに差し上げますの!」


「ありがとうございます!!」


 オランチアはアリシアの親切さに触れて、感謝して残りのペコべロスも倒すことにした。

 

「さあ、一気に片付けるよ!!」


 私は木や草むらが焼けて視界が良くなった森の中で残るペコべロスの群れに一気に走って飛び込んだ。

 すぐに殴りにかかろうとしたことを感づかれたため、避けて反撃の機会に出たペコべロスの群れだが、そこが狙い目だ!


 私はすぐに防御の構えを取って真上にジャンプした。


「さあ、今だよ!! マスカリーナ!!」


「あぁ 分かってるよ!!」


 私を目掛けて、一気に襲い掛かってくるペコべロスの群れ。

 だが、嚙みつこうと反撃に出た後すぐ、マスカリーナの氷の餌食になった。


「ちょっと危なかったけど、魔法少女のジャンプ力すげえ……。 こんなに飛べるとは……。」


 最初、200匹近くいただろうペコべロスの数ももう20匹くらいになっていた。

 

「オランチアちゃん!! あとちょっとだよ!!」



◇ ◇ ◇



「さあ、私の力を思い知るのですわ!!」


 アリシアは人差し指を出して、下に向かって構えた。

 構えた後、指から強烈な光を発射し、下にいたペコべロスの肉体を貫通した。


「グギャオォォォォォォォォォォオ!!」


「ハアハア……。 ちょっと疲れてきましたわ……。」


 アリシアは魔力の消費が激しい技と空を飛行によって、体力が徐々に減っていた。


「そろそろ、決着をつけなければなりませんわね……。」


 ペコべロスの長は肉体を貫かれた激痛で暴れまわった。

 アリシアは拳銃の魔道具をバッグから取り出し、魔獣に向かって撃ちまくった。


「これなら、魔力を消費せずにいけますわ。」


 空からの遠距離攻撃によって、 一方的に追い詰めていくアリシア。

 暴れまわるペコべロスの長はそれに負けじと上空を見ながら助走をつけて、思いっきり飛び跳ねた。


「あらっ!! あの犬飛んできますわ!!」


 アリシアはすぐに違う方向に避けようとしたが、間に合わず下から飛んでくるペコべロスの長にぶつかってしまった。


「うぐっ!!」


 なんとか致命傷は免れたもののそのままアリシアは地面の近くまで落ちていった。

 地面にぶつかりそうになった段階でもう一度、魔法で滑空をしたため地面に叩きつけられることはなかった。


「ううぅ……。 な……なんとか、耐えられましたわ。 まさか、あんな風に飛んでくるとは私も考えていませんでしたわ。」


 下に落ちてきたペコべロスの長はすぐにアリシアを食い殺そうと襲い掛かる。

 

「肉体を貫通して、何発も撃たれているというのに……。 しぶといこと……。」


鎌破斬れんぱざん


 アリシアは魔道技を唱えた。

 それと同時に右手を思いっきり、振って大きな光の鋭い刃のエネルギー弾をペコべロスの長に放った。


「本当は魔動技をLv1の討伐依頼の魔獣に使いたくはなかったのですが……。」 


 鋭い光の刃はペコべロスの長のお腹を真っ二つに引き裂いて、今度こそ絶命させることに成功した。


「ハアハア……。 結構この魔獣の空中タックル聞きましたわよ……。」


 アリシアはペコべロスの長を討伐させた後すぐにぐったりと座り込んだ。



◇ ◇ ◇



「アリシアせんぱーい!!」


 座り込んでから少し経つとマスカリーナとオランチアが手を振ってアリシアの方に向かって走ってきた。


「あらら…… そちらも退治を終えたようですわね。」


「はい!! 無事に片付けてきました!!」


 アリシアの方も蹴りが付いていた。

 私にとって人生初めての討伐依頼だったが、思った以上に辛くて大変だなと私は感じた。


「オランチアちゃん!! 思った以上に討伐依頼って大変でしょ? でも、ここを乗り越えないとあなたが憧れた魔法少女にはなれないよ。 だから、私たちと一緒にこれからも頑張ろうね!!」


 しかし、私には共に戦ってくれる仲間がいる。

 そんな仲間と共に歩んでいく勇気に比べれば、このくらいの辛さや恐怖などへっちゃらだ。





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星降る夜の箱庭~魔女っ子オタクの変身物語~ 愛々草子 @aiaikayako

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