記憶喪失の魔法たち
霧雨 碧
一章
1、身近な存在、リアルな幻想
こちらの街の名は、エルデン。
西洋と東洋の文化が入り交じっているような街並みだ。レンガ造りの小さな家々、木造のやや大きい家が点在している。古びた石畳を歩けば心地よいそよ風が吹き抜けていく。東洋が交じっているとは言っても、人々の暮らしは西洋寄りであるといえる。
●
わたしには親友がおります。名はカエデ。昔からの友達で、親友です。胸のあたりまで伸びているふわっとした抹茶色の髪、茶色の目をしています。いつも元気で優しくて。肝心な時には誰よりも頼りになる、大事な存在です。
そんな彼女、今日は伝えたいことがあると言って、あの場所で会いたいらしいです。そこは、そよ風が吹く、古い石造りの小道で、周りが植物たちに囲まれてる秘密の場所です。
「どんな事なのでしょう。ここに呼ぶくらいだから余程のことを…?」
わたしが秘密の場所に着いてから数分も経たずに、カエデがやって来ました。髪が少し乱れておりましたので、急いで来たのかもしれません。これはこれで可愛いです。
「ごめん!待った?」
「少しも待っていないわ。わたくしもさっき来たばかりよ」
「良かった〜あ、クッキー持ってきたよ。食べる?」
「もちろん」
カエデが作るクッキーは全て美味しいです。そのため姉上と取り合いの喧嘩をすることもしばしば。まあ、そのくらい美味なので仕方がありませんね。ちなみに本日は、四枚のクッキーがありましたので二枚、大切に食しました。
「あ!髪に葉っぱついてるよ!取ってあげる」
「あら、気付かなかったわ。ありがとう」
「あ……」
小声でしたが、わたしには聞こえました。
「この葉っぱ、結構似合うのね。ずっと付けていようかしら?」
「ゔっ………え、き、聞こえてたの?」
「完璧にね」
そもそも、こんなに静かで互いの声が筒抜けな空間で秘密を隠し切るのは無理だと思いますよ。
「ちなみに、わたくしに伝えたいことがあるのよね。それがすっごく気になるわ」
「あーそれね」
随分と軽い反応……この秘密の場所で待ち合わせるくらいだから重大なことかと思いましたが、そうでも無いかもしれません。
「実は、、、」
かと思えばいきなり神妙な顔つきになりました。一体全体、どんな事なのでしょう。
「私の家系?いや私自身?……ま、ともかく。魔法使いなんだよね」
魔法……使い?
「え?…………ウソは良くないわよ、カエデ」
わたしは動揺しました。いきなりそんな事実を伝えられても信じられませんし。カエデが慌て始めました。
「いや……ウソじゃないよ」
「だって魔法って、あくまで童話でしょう?そりゃあ現実にあったらわたくしも嬉しいわよ」
「ウソじゃない………あ!証拠!証拠を見せれば信じてくれる??」
カエデが必死に言いますので、肯定しておきます。幼い頃からの親友ですし、信用していますので。
「もちろんよ。楽しみね」
「良かったぁ……よし!じゃあ見せるよ!」
そう言うとカエデは、懐から杖を取り出し、目をつぶって集中し始めました。するとわたくし達の周りが光り、謎の球体や火、水が出現しました。いつも幻想だと思っていた光景が今は、いきなり現実に広がっています。
「どう?これで信じてくれた?」
目を開けてカエデはそう語ってくれました。そして、その光景は、わたしにとって一生忘れることの無い、とても心に残る出来事でした。
「……マジ、なのね。そっか…」
魔法が、存在してます。目の前にです。正直、このどう表現していいか分からない喜びを抑えるだけで手一杯です。気を抜いたら、過去一の笑みが零れそうになりますし。なんなら、謎のガッツポーズをしそうになりますし。
「ふふん!今はこのぐらいしか使えないけど、練習してもっと凄い魔法を見せてあげる!」
嬉しそうに声のトーンを上げ、胸を張るカエデ。可愛いですね。
「期待してるわ」
わたしは、そう冷静に対処しましたが、内心とても歓喜で溢れています。
「あ、今日はもう解散でいい?明日、私の家に来てくれれば面白いこと話せるかもだし!」
「分かったわ。また明日ね」
「うん!また明日〜!」
こんなやりとりをした後、わたくし達は解散し、各々自分の家へ帰りました。
わたしの家は、一言でいえば豪邸です。わたしと姉上は廊下が長すぎて不便と感じているのだけれど、あの
しばらく廊下を歩いてようやく姉上の部屋へ着きました。扉の前でノックを四回して入りました。
「姉上。今、用事とかないかしら?」
部屋から出てきたのは、わたしと違い、明るいブラウン色の髪、可愛らしいミディアムボブ、母と父の瞳の色が混じったライトグレーの目をした姉上です。名前は、マイラ。マイラ・クロウディアです。
「まったく無いわ!何したい?」
「……パンを食べたいわ。いつものお店で」
「おっけー………んー?」
急にすんすんと鼻を鳴らす姉上。やけにわたしの周りを嗅ぎ回します。
「なんか、ミナからクッキーみたいな香ばしい匂いするね」
ドキリ、としました。姉上が嗅ぎつけたのは、恐らくカエデに貰って食べたクッキーの匂いでしょう。まだその匂いが残ってたのは驚きましたが、バレたら面倒かもしれません。
「いえ、気のせいじゃないかしら」
焦りを心の底から消し、いつもの表情で姉上に接します。
「……そっかなぁ。まあいいや。ほら行こ!」
完全に疑いは晴れていないのでしょうけど、深堀するのは逆効果です。忘れてしまいましょう。
いつものパン屋というのは、街角にひっそりと存在しています。知る人ぞ知る、絶品のお店です。しかし、わたし達の家から遠くにありますので気軽には行けません。徒歩で二十五分の場所にありますから。
「最近は寒いね〜。そろそろ雪も降りそう」
「………」
姉上の隣を歩きながら、広場の噴水を通り抜けます。
「冬靴とか小さくなってるかもなぁ…」
「………」
人通りの少ない、小さな道へ抜けます。姉上は会話をやめません。
「それより、お腹減ったなぁ〜…クッキーとか食べたいなぁ〜」
「………」
一度、小さな道から出ます。そして今度は騒がしい道へ行きます。
「そうだ!ミナに奢ってもらおう!もちろん、お高めのやつね!」
「………あの。それなら、わたくしの財布を返して…ほしいわ。姉上…」
わたし達がやって来たのは、お菓子屋でした。しかも、高級なお店です。
「え〜だめ!だってミナ、カエデちゃんが作ったクッキー食べたんでしょ〜?」
「うぅ……」
項垂れるわたしを気にもせず、お菓子屋のドアを開く姉上。……ああ、頑張って貯めたお金が…
「わぁ!すごい量のお菓子!」
お店に入るとすぐにはしゃぐ姉上。まあこのお店には、大きなマカロン、見るからに高そうなケーキ、正体不明のお菓子など色々あります。見渡す限りお菓子がズラリと並んでいますので、わたしのテンションも上がってしまいました。
「…っあ。イチゴケーキ…」
今まで食べたイチゴケーキよりも遥かに美味しそうなやつを見つけました。何かしらのオーラを感じます。ちなみに姉上はと言いますと、
「これとコレと…あ、これもいいなぁ!」
次々と注文していました。待って、わたしの注文が……それより、わたしの財布を……
「あの…イチゴケーキを一つ」
「これで注文は以上ですか?」
「はい!」
姉上……わたしはもう、散財しそうです。
「えー………マカロンが三つ、シュークリームカスタードが三つ、アップルパイが二つ、イチゴケーキがお一つですね。合計で金貨三枚と銀貨六枚になります」
「……これでお願いします!あ、ミナこれ返すね」
とんでもない額のお会計です。ぼったくられたんですか?…まあそれはともかく、返された財布の中身を即座に確認します。姉上に盗られる前は、金貨五枚、銀貨十一枚、銅貨七枚でしたのに……まあ、スッカラカンにならないだけマシですね。
「ありがとうございました」
「あ〜楽しみだなぁ!…あ、パンも買っちゃうよ。隣の隣にあるし!クロワッサンでいい?」
「バゲットも追加してほしいわ」
「おっけー!」
といった会話を繰り広げ、わたくし達はパンを買い、家へ帰りました。
家に帰ったあと、マカロン、シュークリーム、アップルパイを貰いました。どうやらカエデの分も買っていたみたいです。そのカエデの分は、明日届けてあげてほしいとのことでした。消費期限が心配になりましたが、「だいじょぶ!店主さんに確認したから!」と言われました。……やはり不安ですが、信じておきます。
夜、わたし疲れきってしまいましたので、夜ご飯を食べ、お風呂に入り、すぐに自室へ向かいました。さらに、ばふっとベッドに倒れ込みます。
「〜〜〜……」
しばらくゆったりした後、体を起こし久しぶりに日記を書きます。何となくです。そしてそれを書き終えますと、ようやく眠りにつきます。おやすみなさい
コラム:日記
今日はカエデに誘われて秘密の場所に行ったわ。そこでは、カエデが魔法使いである事が明かされたわ。きっと、わたしのことを信用してくれているのでしょう。魅せられた魔法はとても美しかったのを覚えています。
その後、姉上と買い物に行ったわ。高級お菓子屋さんといつものパン屋。わたしは散財しかけました。疲れたので、もう寝ます。
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