予知能力者

 レイチェルたちがねぐらにしているアパートに帰り着いたのは、日が高くのぼった頃だった。キティはいまだに起きる気配がなかった。レイチェルとアレックスは爆睡しているキティを風呂に入れ、身体中にこびりついた血を洗ってやってからベッドに寝かせた。


 レイチェルも先にシャワーを浴びさせてもらった。髪にこびりついた血のかたまりは中々落ちず、ハサミでアレックスに切ってもらわなければならなかった。


 レイチェルもアレックスもくたくただったので、シャワーを浴びた後にベッドに倒れ込んでしまった。


 レイチェルが目を覚ましたのは夕方になってからだった。リビングに行くと、もうアレックスとキティが起きていて、デリバリーのピザを食べていた。


 アレックスが席を立って、レイチェルに紅茶を淹れてくれる。キティはレイチェルが食べられる分のピザを電子レンジで温めてくれた。


 レイチェルがピザを腹におさめて、落ち着いた頃アレックスがレイチェルとキティを見て口を開いた。


「二人ともお疲れ様。私たちは猿男を倒す事に成功した」


 レイチェルとキティは顔を見合わせて黙り込んだ。猿男を倒す事はできたが、被害者は一人も救えなかった。それに、アレックスのライオン男、キティのニワトリ男、レイチェルの羊男に続き、さらなる猿男まで現れてしまったのだ。


 猿男は羊男とはまったく違う体つきをしていた。レイチェルが疑っていた、一人の人間がライオンのマスクやニワトリのマスク、羊のマスクに変えて人を襲っていたわけではない事がはっきりしたのだ。哀れな若者たちを襲う殺人鬼は他にもたくさんいるのかもしれない。


 レイチェルたちが沈黙していると、アレックスが重い口を開いた。


「私なりに考えたんだけど、もっと仲間が必要だと思うわ」

「仲間?」


 レイチェルの疑問に、アレックスはうなずいて答えた。


「ええ。レイチェルが加わってくれた事により、私たちの戦力は格段に向上した。私たちに足りないもの、それは情報だわ。殺人鬼がいつどこで誰を襲うか。それがわからなければ、私たちは人を救えない」

「情報?たとえばインターネットに強いとか?」

「ううん。ネットに渦巻いている膨大な情報も大事よ?だけどそれよりも、私たちと同じような能力を持つ適性者、つまり予知能力者が必要だと考えてるの」

「予知、能力者」


 レイチェルはぼんやり考えた。まるでドラマかコミックみたいだわ、と。レイチェルは自分の念動力は棚に上げて、予知能力というのは荒唐無稽な感じがした。


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