バーガーショップのオーナー

 レイチェルが一人で度胸試しをしてしばらくが経った頃、ケィティがアルバイトをしているバーガーショップへ顔を出そうと考えた。かつてレイチェルと、親友のエイミーが一緒に働いていた店。


 アレックスはレイチェルが一人の時に羊男に襲撃されては危険だから、一人での夜の外出を許可しなかった。


 だがレイチェルは、一人での外出の許可が出た後でも、バーガーショップへ立ち寄る事をしなかった。


 まだ気持ちの整理ができていなかったのだ。エイミーとの記憶がたくさんある場所に行く事への。


 レイチェルは学校が終わった後、アルバイトに行くケィティを見送ってから、バーガーショップへの差し入れを買いに行った。


 バーガーショップのオーナーは、甘いものに目がなくて、ドーナツが大好きなのだ。


 レイチェルたちがバーガーショップでアルバイトをしている頃、レイチェルとエイミーとケィティで、オーナーの誕生日に、彼のお気に入りのドーナツ屋でたくさんのドーナツを買ってプレゼントした。


 オーナーは大喜びした後に、奥さんに怒られるといって、真っ青な顔になっていた。その顔が面白くて、レイチェルたちは笑った。


 バーガーショップでの出来事を思い出すたびに、レイチェルの目頭は熱くなった。エイミーとの楽しかった記憶が多すぎるのだ。


 レイチェルはズズッと鼻をすすってから、深呼吸してバーガーショップのドアを開けた。


 いらっしゃい、とオーナーの元気な声が響く。厨房からオーナーの丸顔がのぞいてレイチェルを確認すると、オーナーは泣き笑いの表情を浮かべて厨房から飛び出して来た。


「レイチェル!」

「オーナー、お久しぶりです。ごあいさつが遅くなって申し訳ありません」

「いいんだ、いいんだ。話しはケィティから聞いていたからな」


 厨房からケィティのオーナーを呼ぶどなり声がする。早く来ないとパティが黒コゲになる、と。


 レイチェルは笑ってオーナーを厨房に押しやった。お客がひと段落してから、オーナーとケィティがレイチェルの側に来て、会えた事を喜んでくれた。


 二人ともレイチェルの事を気づかって、エイミーの事は一言も話さなかった。レイチェルはその気づかいを、嬉しく思うとともに、さびしくも感じた。


 レイチェルが差し入れのドーナツを渡して帰ろうとすると、オーナーがお土産にたくさんのハンバーガーを持たせてくれた。きっとキティが喜ぶだろう。


 オーナーはまたお客として来るようにと念を押してから、ためらいがちに、またアルバイトとして働いてほしいと言ってくれた。


 レイチェルはオーナーの心づかいに心から感謝した。だがレイチェルがふたたびバーガーショップで働くには羊男たちのせん滅が不可欠なのだ。


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