キティの覚悟

 キティは話し終えると、ふてくされたように顔をゆがめた。それまで黙って聞いていたアレックスはキティに両手を開いた。キティは無言のままアレックに抱きついた。アレックスは母親のようにキティを優しく抱きしめた。


 レイチェルはキティの話しを聞きながら、ずっと違和感を感じていた。その違和感がやっとわかった。キティは孤児院の友達もマザーとシスターたちも過去形では話していなかった。まるで彼らは今も元気で孤児院にいるような話し方だったのだ。


 キティはもう一年経ったから平気だといったが、ちっとも平気ではないのだ。キティはいまだに彼らの死を受け入れる事ができていないのだ。


 レイチェルはその事に思いいたると、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


「キティ、話してくれてありがとう。辛い話しをさせてごめんね?」

「ううん。アンナの言う通りなの」


 キティはアレックスの胸にうずめていた顔をあげ、レイチェルを見て言った。一体何がアンナの言う通りなのだろう。レイチェルが不思議に思ってキティの次の言葉を待っていると、キティは覚悟を決めた鋭い目で言った。


「自分のやった行いは自分に必ず返ってくる。奴らはあたしの居場所も友達も奪った。だから奴らにもあたしと同じ気持ちを味合わせてやる」


 キティはそれだけ言うと、アレックスの胸に顔をうずめてしまった。アレックスはキティの頭を優しく撫でた。まるでよくできましたとほめているようだ。


 アレックスはレイチェルに振り向いて微笑んでから口を開いた。


「次は私の番ね。私ね、両親とそりか合わなくてね、故郷を逃げ出してきたの。十七の時よ」


 十七歳。レイチェルと同じ年だ。アレックスは家出をしてそれ以来家には帰っていないのだという。


 アレックスは知り合いの一人もいない都会に出てきて、アルバイトをしながら何とか生活していたのだという。


「貧しい生活だったけど、仲間ができたの。私と同じように、今の状況から抜け出したくてもがいていた」


 アレックスは昔を懐かしむように、優しい笑顔を浮かべながら話した。アレックスはサラという同い年の女の子と意気投合し、サラの友人だったニックとジョンとも仲良くなった。


 彼らとは、まるでずっと以前からの親友だったような感覚だったそうだ。


 アレックスたちは一生懸命仕事をして、いつか自分たちの夢を叶えようと約束しあっていた。サラは女優になる夢を持って都会にやってきた。ニックは弁護士になるため、ジョンは企業するために。


 アレックスは自分の夢というものはなかったが、いつしかジョンの夢を応援したいと思うようになった。


 アレックスとジョンは引き寄せられるように恋に落ちていった。アレックスはジョンと結婚の約束をしたのだ。


 アレックスは貧しいながらも幸せに過ごしていた。そんな時に事件は起こった。

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