キティの告白3

 その来訪者は男だった。キティたちの中で、大人はマザーとシスターしかいない、この男は誰だろう。昼間のバスの運転手だろうか。


 キティたちを驚かすために来たのだろうか。男はゴム製のニワトリのマスクをかぶっていた。手には木を切るためのチェーンソーが握られている。


 キティはある臭いに顔をしかめた。鉄くさい臭い。血の臭いだ。キティが転んで膝をすりむいた時に嗅いだ臭い。


 その臭いが部屋内に充満した。原因は男の衣服からだ。暗くてよくわからないが、男の衣服はじっとりと濡れていた。


 手に持ったチェーンソーからぼたぼたと何かがしたたっていた。きっと血なのだろう。キティがそう考えた直後、子供の一人が大声で騒いだ。それを皮切りに子供たちはかなぎり声をあげて泣きわめく。


 窓から逃げよう。子供の誰かが叫んだ。キティたちは部屋の窓に向かって走った。部屋の窓は、古風なスクリュウ式のカギになっていて、いちばん背の高いマギーがやっきになって窓を開けようとしていた。


 だが恐怖のためかうまくカギを開けられないようだ。子供たちはわんわん泣きながらマギーをせかした。


 キティは恐怖でガタガタ震えながら、背後を振り返った。その時、背中をポンと押された。キティの身体が前につんのめった。キティの側にいたのはメグだった。


 キティはメグに押されたのだ。そう気づいた瞬間、目の前に大男が立っていた。チェーンソーを振り上げて。


 それきりキティの意識は途絶えた。


「あたしね、目を覚ましたら、はだかんぼだったの。恥ずかしかったから、ベッドからシーツをはがして身体にまいたの。それでね、後ろを振り返ったら、皆寝てた。誰も動かないの。変なのよ、メグが背中を向けて寝てるのに、顔はこっちを向いているの。とてもびっくりした顔をしていたわ」


 キティは顔をくもらせて話していた。殺人鬼に襲われた記憶は、とても辛いものだろう。にわかには信じがたいが、キティは殺人鬼にチェーンソーで真っ二つにされてから復活したのだ。レイチェルはキティを痛ましそうに見つめていた。


「あたし怖くって、ベッドの下のすきまに入って震えていたの。またニワトリ男が戻ってきたらどうしようって思って。ずっと震えてたけど眠っちゃったみたい。昼になったら警察の人たちが来たの」

「警察の人たちは、どうして保養所で事件が起きた事がわかつたのかしら?」


 レイチェルの疑問に、キティは事もなげに答えた。


「ベティが通報したから」

「ベティって誰?」

「シスターベティ。あたしたちの世話をしてくれるシスターの一人。ベティは素行が悪くて教会に放り込まれたんだって。だけどその日、あたしたちが寝てから保養所を抜け出して、迎えに来たボーイフレンドと遊びに行っちゃったの」 


 ベティはマザーに抜け出した事がバレないように朝早く保養所に戻って来たらしい。だが保養所で待っていたのは。


 ベティは慌てて携帯電話でボーイフレンドを呼び戻し、ボーイフレンドと共に警察に駆け込んだ。駆けつけた警察によって保養所の惨劇が発見され、キティは保護された。


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