第5話

彼女が来てから半年が過ぎた。

サイが言うように最初は皆警戒していたものの、彼女の動きに怪しい点がなく、まるで最初から居たかのように、誰しもが彼女を家族のように扱った。


「大丈夫!?シロ!」

寝ている僕をレイが無理やり起こした。

服や寝床が汗でぐっしょり濡れている。

「大丈夫?最近よくうなされている気がするけど」

「うん、大丈夫。なんか最近同じ夢を見るんだ」

「よかったら話してくれない?話すと気が楽になるかもよ?」

「うん。…実はね、最近ずっと同じ夢を見るんだ。ここの施設が襲われる。断片的にしか見えないんだけどね、周りのみんな死んでこの街が火の海になるんだ。まあそんな事起こるはずもないんだろうけどね」

するとレイはしばらく黙っていた。そして

「うん、きっと大丈夫だよ」

それだけ言ってまた眠りについたので僕ももう一度目を瞑った。


そこから10日ほど経った日、レイが夕方みんなを集めた。

「みんなに大事な話があります。」

「どうしたんだよ、そんなかしこまってよ」

最初は皆笑っていたが、レイの表情を見て本気だと感じたのか静かに見つめた。

「私はエニス王国の間者です。そして3日後、この街は壊滅します」

「おいおい、冗談はよしてくれよ」

ソルが大笑いし、ルナが笑いを必死に堪えていた。だがリキとサイだけは黙って真剣に聞いていた。

「僕たちはどうなるんだい?」

「もしこの戦いに参加するのであれば必ず死にます」

「私たちに勝ち目はないの?」

「今回攻撃を仕掛けるのはエニス王国だけではありません。3つの国が協力して潰しにきます。勝つことはまず不可能です」

「何でこの国が潰されなきゃなんないんだよ。おかしいじゃん」


「...問題はこの施設です」

そう言われ、ハッとした。

忘れていた、と言うより気にしないようにしてきていた。

この施設で多くの子どもが殺され人体実験が行われてきたことを。

「この施設での実験はすごく恐ろしいことなのです。あなたたちという成功例がある以上このまま自由にさせるわけには行かず、今回の3カ国連合軍が発足しました」


暗い空気が漂い、絶望していた。

するとずっと無言を貫いてきたリキが涙を流し手と頭を床につけた。

「頼む、こいつらだけでも助けてやってはもらえないだろうか」


「リキ、顔をあげてください。皆さんが助かる方法が1つだけあります」


「5人には3カ国に亡命してもらいます。すでに話は私が通してあります」

「じゃあ私たち5人で...」

「いえ、皆さんはバラバラになります。」

「どうして?」

「あなた方はそれぞれがまだ子供にも関わらず常軌を逸した能力を持っています。1つの国に偏ればやがて全土の地図が大きく変わることでしょう。そのため5人は違う国にいってもらうことになります」

「そうか...」

「ですが皆さん次第ではもう1度家族として食卓を囲むことができる」

「どうやるんだよ、みんな違う国になったらもう...」

ソルの言葉に皆が俯いた。


「私が考えている理想はその3ヶ国での平和条約です。それさえあれば自由に行き来し、今のように、いや、それ以上に楽しく暮らせるはずです。そのためにやって欲しいことを言います」



「まずリキ。あなたはレギオン王国へ行くことになっています。レギオンでは弱肉強食、強いものが上に立ち弱いものは去る、そういう国です。なのでリキには最強の騎士になり王になってもらいます」

「わかった」


「そしてサイ、シロそして私はエニス王国へ行きます。エニスは発明の国です。サイあなたの頭脳はきっと役に立つでしょう。また手柄を立てれば貴族にもなることができ、発言権を持つことができます。シロはそのサポートを。私も任務の合間にお手伝いをします」

「大丈夫だよ。僕たちならやれるよ」

「うん、そうだね」


「ソルとルナはヴァルト王国へ行きます。ヴァルトは海と森に囲まれた自然豊かな国です。あまり詳しい情報がありません。外との情報も完全に遮断されています。だから2人は必ず生き延びてその情報を触れる立場になってください。」

「俺はやるよ、任せて」

「うん」


皆覚悟の決まった顔をしていた。


そしてついにその日が来た。


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