悪役令嬢育成計画! ~悪役令嬢のメイドとして転生したのでゲーム通りの展開を見るために暗躍します! って、なぜかわたしの周りに百合ハーレムが形成されてません⁉~
第2話 【実績解除】乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢の専属メイドに転生してしまった……
第2話 【実績解除】乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢の専属メイドに転生してしまった……
※プロローグから少し遡り、また今回から主人公のコユキ視点になります。
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「ううん……」
目を覚ますとそこには見慣れないはずの、でもどこか見覚えのある景色が広がっていた。
湖の澄み切った水の匂いと、耳を撫でるせせらぎの音。伸びをしながら辺りを見回すと、わたしは大きな湖の辺に大の字になって寝ていたみたい。どこか既視感のある、でも初めて来た場所のような、不思議な感覚。
わたし、平日の昼間になんでこんなところにいるんだっけ。というか会社に行かなきゃ遅刻しちゃう。
そう思って慌てて立ち上がった時だった。ちらりと湖面に映る自分の姿が目に入ってわたしは息を呑む。そこに映ったのは位置的に自分のはずなのに、でも明らかに自分でない女の子が映っていたから。
けれど、わたしは、彼女の顔に見覚えがあった。そう、艶やかな黒羽色の髪を背まで伸ばした、童顔であどけなさの残るこの17歳のこの少女は……。
「乙女ゲーム『ムラサキノイト』に出てくる悪役令嬢・レム=デ=トワイライト……の専属メイドの小雪じゃん。ってことはわたし――ラノベとか漫画によくある乙女ゲームの世界に転生しちゃったってこと⁉︎」
そこで転生する直前の記憶がだんだんと蘇ってくる。
乙女ゲーム好きのOL であるわたし、村上小雪は今朝、いつも通りに会社に出勤するところだった。けれどいつもと違って信号を無視したトラックが横断歩道につっこんできて……私の前を歩いていた女子高生を突き飛ばして助けた代わりに、わたしは死んじゃったんだっけ。そして嘘みたいな話だけど、わたしは本当に転生しちゃったんだ。
転生直前のことを思い出した瞬間。生前の世界でちゃんと別れを告げて来れなかった人々の顔がスライドショーのように頭の中を流れてくる。
――両親がすでに他界していて家族がいないのは、ある意味不幸中の幸いだったね。親に先立ったりなんてして母さん達を悲しませることがなかったから。会社の人は……みんな仲間というよりライバル意識が強くてギスギスしてたから、わたしが死んでもあんまり傷つく人は居なそうだな。趣味で知り合った友達は悲しませちゃって申し訳ないけど……みんなならきっと、折り合いをつけてくれるはず。少なくとも推しが出てくるゲームをプレイし終えた時ほどは悲しんでくれないだろうな。
「……って、大概残念だな、生前のわたしの交友関係!」
思わずわたしはセルフツッコミをしてしまう。なんだか感傷的な気持ちになるのがバカらしくなってきた。
「ああもう! なんだかむかついたから、せっかく転生して2度目の人生、思いっきり楽しんでやる! ほんとにゲームの世界に入り込んじゃうなんて、なかなかないからね」
自暴自棄になっていうわたし。職場の上司にどんな状況でもポジティブに考えられるのがわたしの長所であり、短所である、って、生前はよく渋い顔で言われてたのをなぜか思い出した。
まあそんなことは今はどうでもいい。転生人生を楽しむにはまずは状況把握、だよね。
「えっと、ムラサキノイトってどんなゲームだったっけ……」
適宜口に出しつつ、わたしはゲーム知識を整理する。
ムラサキノイトはわたしが生前、最後にプレイしていた乙女ゲーム。今年プレイした作品の中では一番じゃないか、ってくらい面白かった。
舞台は数千年にわたって人間と魔族が大戦争を繰り返していた世界。6つある大陸のうち、2つを人間が、4つを魔族が支配し、50年前の魔族と人間の大戦争で人類側が大敗して休戦協定を結ばれて以降、世界にはかりそめの平和が訪れながらも、世界から魔族の脅威が去ったわけではなかった。
そして世界では魔法は基本的に貴族にしか使えなくて、王都にある魔法学園は、来るべき魔族との戦争再開に備えて、貴族の子息令嬢が魔法の技能を磨いていた。
物語はそんな魔法学園に、元没落貴族で、今は平民として街のパン屋を営むヒロイン・ルナ=カスタネールは平民ながらも入学するところから始まる。彼女は平民に身を奴しながらもどんな貴族よりも恵まれた魔法の才能を見出され、魔法学園に特別入学を許されたんだ。
そしてルナは貴族顔負けの卓越した魔法技能も去ることながら、大変な境遇でありながらもその健気でいつも明るい彼女の性格も相まって、攻略対象である魔法学園の男子生徒や第一王子、更には王国最強と謳われる王国副騎士団長らや、ゲームのプレイヤーまで魅了していく。
他ならないわたしも、もともと女の子しか恋愛対象として見られないこともあって、色んな意味で叶うはずもないにルナにガチ恋してしまった一人。
そんな彼女は悪役令嬢の邪魔などに遭いながらも数々の苦難を乗り越え、最終的にはこの国の第一王子と結ばれる。そしてわたし・小雪のご主人様はプライドが高くて、ヒロインの登場によって第一王子の婚約者という自らの地位が脅かされたがために、ねちねちとヒロインに絡んでは最後に破滅することが約束された悪役令嬢。
つまりは言ってしまえばわたしは、推しであるヒロインの敵側。けれどわたしはそれが不幸だとは思わなかった。なぜならわたしは、特にルナがレムにいじめられながらも挫けずに立ち上がっていく姿が特に好きだったから。
――レムという壁が引き立て役になって、その壁を健気にも乗り越えていたからこそ、ルナのことをより愛おしいと思えた。そんな壁を乗り越えて王子様と結ばれるドラマチックなルナの物語を特等席で見守れるとか――最高じゃん。
そう考えるとだんだんとテンションが上がってきた。
「それじゃあまずはトワイライト家に押しかけて押しかけメイドになるところからかな。ゲームの中の小雪は脇役だったからどんな経緯でレムの専属メイドになったかはゲームで描かれていなくてよくわからないんだけど……この格好ってことは、まだレムのメイドになってなさそうだよね」
そう呟きながらわたしは自分の体を湖に映す。
現在の
「って、あれ? 小雪の瞳の色って赤だったっけ?」
改めて湖に映った自分の姿にわたしは違和感を抱く。小雪のキャラデザも細かいところはよく覚えてないんだよね……。
ま、気のせいかな。そう自分を納得させると、わたしは森の中を歩きはじめた。
そのときのわたしはすっかり忘れていた。——自分が極度の方向音痴だということを。
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