第28話
「続き、一緒に弾こうよ。」
そう言って瀬戸くんは、鍵盤に手を添えた。
私の音を待つように、優しく微笑む。
しぶしぶ、私も鍵盤に手を添えてみるけれど、続きって、どこからだっけ?
覚えてなくて戸惑っていると、ここからだよと言うように、瀬戸くんがピアノを弾いた。
その音に、思わず聞き入ってしまう。
やっぱり、瀬戸くんの奏でる音は、素敵。
音楽室に響いて、私の耳に届いて、温かい気持ちになる。
もう一度、気持ちを伝えようかな。
そう、思いながら、おそるおそる鍵盤に触れる。
私の音と、瀬戸くんの音が再び重なった時、感情が、想いが溢れる。
「好き。」
「好き。」
綺麗に重なった言葉。
ピアノの音と共に、私の耳に届く。
さっきは聞こえなかったけれど、今回ははっきりと聞こえた。
「せ、瀬戸くん、今、」
「ピアノ、止めちゃダメだよ。」
「え、あ、はい・・・。」
重なったあの言葉の意味を聞きたいのに、意地悪く笑った瀬戸くんの顔を見ていると、何も聞けなくなる。
けれど、二人で奏でるワルツの音色を聴いていると、まあいいやと思ってくる。
こうして瀬戸くんと一緒にいられるのなら、私は幸せだから。
ひらひらと羽のように、音が舞う。
“音羽”という私の名前みたいだなんて思って、少し笑う。
音は目には見えないはずなのにね。
最後の音が鳴る。
その瞬間、ふわりと重なった感触。
一瞬の出来事で、ただ驚くことしかできない。
「何その顔。」
ふふっと笑う瀬戸くん。
え?
ええ!?
「せせせせ瀬戸くん、今、キ、キス、」
「ん?」
目の前には、何事もなかったように笑う瀬戸くんがいて。
「音羽、好きだよ。」
私の耳元でそんなことを言う瀬戸くんは、やっぱり不思議な男の子だ。
それでも、
「私も、瀬戸くんが好きです。」
音が、声が、唇が、重なる。
それは、優しく温かい、二人だけの二重奏。
《君と奏でる二重奏》
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