第21話

「最近、あたしの心臓が変なんです。」





突然おかしな事を言い出したあたしに、小さく首をかしげる津崎先生。





「津崎先生といると、心臓が速くなって、苦しくて苦しくて仕方がないんです。」



「それで?」






気が付けば、津崎先生は意地悪く笑っている。


まるで、何かに気付いたみたいに。



それでも、いいやと思う。



きっと、津崎先生が今考えている事と、あたしが言いたい事は、同じだと思ったから。






「これは、とても重大な病気だと思うんです。」



「うん。」






背の高い津崎先生を必死に見上げていると、ふわりと優しく頭を撫でられた。


そんな事されたら、どんどんこの病気が悪化してしまう。



だから、






「先生、あたしの恋の病を治してください!」



「何だよそれ!」





ぶはっと吹き出すように笑い出した津崎先生に、思わずむっとする。



あたしは結構真面目に言ったつもりなんだけど!!!





「ちょっと、笑うなんてひどい!」



「いや、お前、もうすぐ三十路なのに、よくそんなセリフ言えるな!」





津崎先生は、ケラケラとお腹まで抱えて笑っている。


なんであたしの年齢を知っているのかはさておき、なんだか急に恥ずかしくなって、俯く。





「・・・だって先生。あたしが病気になったら治してやるって言ってたじゃないですか。」





小さくそう呟く。


ねぇ、津崎先生なら治せるでしょ?



だって、先生なんだから。






「美穂。」





ふいに名前を呼ばれて顔を上げると、津崎先生の顔が目の前にあって、あっと思った時にはとても温かいものが、唇に触れた。




「っん!」





思わず声が漏れる。


息をする間もないほどのキスが、襲いかかる。






「バーカ。そんな病気、治せる訳ねーだろ。」





唇が離れたと思ったら、そんな事を言われて驚く。



コツンと津崎先生のおでこがあたしのおでこと触れ合う。




お互いの吐息が混ざり合うくらいの近さに、更にドキドキしてしまう。






「お前は一生、俺にドキドキしてれば良いんだよ。」



「なっ!!!ってちょっと!!」






グラリと景色が揺れたと思った瞬間、津崎先生はあたしを軽々しくお姫様だっこをして、当直室に置かれているベッドにそっと下ろす。



え?


ちょっと待って。





「ガキすぎるんだよ、お前。」



「は?何言って、」



「俺が教えてやるよ、大人の恋ってやつを。」






ふっと笑う津崎先生に、思わずドキッとしてしまう。



ああ、ときめいている場合ではない!!!



咄嗟に時計を見ると、あと十分で休憩が終わることが分かって、あからさまに焦り出すあたし。






「ちょちょちょ!!!あたし、あと十分で病棟戻らなきゃだから!!」



「十分あれば、充分だろ。」



「え?」





いやーーー!!!


充分って何がー!!!




それでも、あたしの胸のドキドキは止むことはなく、きっと一生この男には敵わないんだと思った。









恋の病を治してください!【おわり】

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