僕たちは罪に堕ちていく

@asyuh

第一の罪「浮気と脅迫」

1)


 ★


 僕は義理の妹に脅されている。

 その妹に、妻とは別の女と逢っていることがバレたらしい。

 天架は勝ち誇った表情で僕にスマホの画面を見せてくる。天架というのがその妹の名前だ。

 確かにその写真には、僕の浮気現場が収められていた。正確に言えば、浮気に及ぶ前の姿であるが。



 ★


 「チョコレートパフェ、二つ」


 天架は僕に確認を取ることなく、ウエイトレスに勝手に注文する。

 僕よりも優位な立場にいる気分だから、こういうことも出来るのだろう。

 まあ、いい。チョコレートパフェは嫌いではない。

 これがクリームソーダ二つという注文ならば、おい、ちょっと待てよ、と言いたいところであるが。僕は炭酸が嫌いだから。


 そんなことよりも、注文を取りに来たウエイトレスを見上げ、僕は思わず点数をつける。

 顔は80点、身体は70点、声は90点ってところだろうか。

 名札を見て、名前を確認。河合さんか。極上の美女だ。この店にまた来てやってもいい。

 このウエイトレスも僕に好印象を感じている気がする。河合さんの笑顔に、異性に対する媚びのようなものが漂っている。

 僕はそれを真正面から受け止めてやる。


 「お姉ちゃんがかわいそう。お兄ちゃんみたいな人と結婚して」


 天架が言ってくる。



 ★


 浮気のことを言っているのだろうか、それとも可愛い女性を見つけると、点数をつける癖を言っているのだろうか。

 両方かもしれないが。

 そんなことを言うなら、天架にも点数をつけてやるか。

 顔は、そうだな・・・、99、いや、天架の容姿の良さを素直に認めるのは癪だ。何せ彼女は今、僕の弱みを握ったつもりになって、金をせしめようとしているのだ。

 性格は0かマイナス。

 とはいえ、結婚した相手の妹なのである。そもそも好きなカテゴリーの顔立ちだ。何ならば、我が妻よりそのルックスの完成度は高い可能性がある。


 しかし若い、というか、まだまだあどけない。これからどのように成長するのか不明である。

 だいたい、こいつは妹だ。妻の妹だから血は繋がってないが、戸籍的には身内。

 二重の意味において、異性として見てはいけない存在なわけである。

 そのような相手を査定するのはさすがに気がひける。僕の計算機も上手く働かない。

 何せ、これは抱くに値する女かどうかを計る計算機なのだ。義理の妹を相手に、そのマシーンを働かせている場合ではないだろう。



 ★


 ちなみに我が妻は簡単に数値と化す。出会ったときは90点だった。しかし今は60点くらいの女になり下がった。

 年を取って、容貌が衰えたのではない。底意地の悪さが、顔に滲み始めたのだ。

 何て意地悪な性格をしているんだ、こいつは! 

 そう思ったのは一度や二度ではない。むしろ、一日に何度もそう思わせられている。

 我が妻はあまりにケチで、心が狭く、自己中心的な女。



 ★


 更に言えば浮気相手の点数は平均81点くらいだろうか。遊ぶに気楽な女なのである。

 ああ、我ながら酷いことを言っている。



 ★


 「で、このスマホの写真を見ての感想は?」


 天架が言ってくる。


 「割れているね」


 スマホの画面が割れていたのだ。そのヒビの入り方は何か不吉な未来を予言しているような気がする。

 古代中国の占いに、わざと亀の甲羅か何かを割って、そのヒビの入り方で吉兆を占うということを聞いたことがある。古代からその占い師を呼んで、占って欲しいものだ。


 「え、何? はあ? 割れてるって?」


 「アンドロイドのほうが丈夫だよ。僕のスマホは今まで割れたことがない」


 「スマホの画面が割れている? そんなことどうでもいいんだけど。まあね、お兄ちゃんがさ、この現実から逃げたいのは理解出来るけど。でもほら、これ、決定的瞬間の写真。お姉ちゃん以外の女と会ってる証拠」


 「不鮮明だ」


 「でも誰が見てもわかる。お兄ちゃんが、私の姉ちゃんとは違う女性と腕を組んで歩いている写真です」


 「なるほど、で、それがどうしたのかな? というのが、僕の第一声だね」


 「はいはい、強がりね」


 「強がってなんかいないよ」


 「じゃあ、この写真をお姉ちゃんに見せようかなあ」


 「やめておけよ。彼女が不機嫌になる。家庭内の空気も悪くなる。嫌だろ? 君も」


 「まあね。だったら三万円。口止め料として、貰おうかなあ」


 彼女が手の平をこっちに向けてくる。

 この手の平に万札を三枚載せろというポーズのようだ。

 それにしても、小さな手である。僕はその手の平を不思議な気分で見つめる。

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