第19・5話 輝く顔
隣に、大ぶりな口でサンドイッチにかぶりつく、好きな人が見える。一口ごとに、何度もの満足を感じているような、輝いた顔をしている。
”可愛い”。
ゆうちゃんは私のことを好みだとか、可愛いだとか、たくさん褒めてくれる。
けど、私もゆうちゃんのことを可愛いって思っていることを、ちゃんとわかってくれているのだろうか。
じっと見ていると、ハムサンドを頬張ったままのゆうちゃんがこっちを見て来る。
眉をあげて、目を見開くだけで”なに?”といった感情を示す、その仕草が好きだったりする。
残念ながら、ゆうちゃんの口の端にはマヨネーズがついている。私の前で少し抜けたようすを見せてくれるのが嬉しい。
「ゆうちゃん、可愛いね」
「急に何の話?」
飲み込んで、本当に良く分からないといった表情を浮かべながら私に寄りかかってくる。
「行儀悪いよ」
「いいじゃん、2人きりなんだし」
「マナー悪いのはダメ。かっこ悪いよ」
そう言うと、すぐに背筋を伸ばして何度かサンドイッチをついばんで、また私の方を見てくる。
褒めてほしいと思っているのがバレバレだ。こういうところも、凄くかわいい。にへらと、自分でも変に口角が上がっているのが分かる。
そんな私を見て、少し不満に思ったゆうちゃんが、また寄りかかってきた。欲しい反応を貰えなくて拗ねてしまったようだ。
こんなふうに私の前だけでみせる、大型犬のような”甘えた”なところが好き。
「褒めてほしかったんだ」
「別に。注意されたから、やってみただけ」
「そうなの?さっきまでちゃんと食べてたのに、急に行儀悪くなるのはどうして?」
「……別に。2人だけならいいでしょ」
理由が思いつかずに、有耶無耶にしてしまおうとしている。
「やっぱり褒めてほしかったんだ」
ずるずると、ソファに沈んて行くゆうちゃん。前ボタンを留めていない私のブラウスが、一緒に連れられていってしまう。
「ゆうちゃん、脱げちゃうから」
「仕返し」
「たまたまでしょ?」
何も言わず頭の置き所を探して、私の膝に落ち着いたゆうちゃんが、下から私のことを見上げる。
「真冬の顔見えない」
「……」
「何か言ってよ」
無言の圧力に耐えきれず、早めに起きたゆうちゃん。
「へんたい」
「えー、触らせてた方も変態じゃない?」
ニヤニヤしている綺麗な顔がちょっとだけ憎い。こんなに調子に乗るとは思わなかった。少し、手厳しめに叱った方がよかったかもしれない。
「触ってもじもじしてたのはゆうちゃんでしょ。もうダメだから。反省して」
「それはナシ。約束したじゃん」
「調子乗りすぎ。そもそも、お泊りが明日次第だし。だから、素敵なところ見せれるように頑張って」
ん”~と、良く分からない声をあげて、私の膝に倒れこむから、引きはがして適当なサンドイッチとご対面させる。
不満そうな顔をしていても食は進むゆうちゃんを見て、今日のサンドイッチはうまくいったと納得する。そのタイミングでゆうちゃんが喋った。
「今日のサンドイッチ、凄い美味しい」
びっくりして見つめる。私の顔を見て、バツが悪そうにしたゆうちゃんが、目をそらして付け加えた。
「さっきの話は関係ない。下心とかないから」
分かってる。私の欲しい言葉をいつもくれる素敵な人だから。今、そう言いたかったんだろうなぁ、と信頼できてしまう。
食事中にキスはしない。あとで、ご機嫌取りとご褒美もかねて、”耳が真っ赤なお隣さん”にしてあげよう。
――――――――――――――――
ご飯が終わって、その後はだらだら映画を見ることになった。結局、見る映画を決めるまでには、長い時間を要することになったけど。
「この映画はね、デカい金庫を車で引っ張って盗むんだよ」
「それ、ネタバレじゃないの?」
「……」
こんな塩梅で、あーでもないこーでもないと話しながら、頭を寄せ合ってみる映画を決めるのが楽しかった。
最近は私の行動もあって、こんな感じでまったりした時間を過ごすことはなかった。周りから見れば普通の時間かもしれないけど、私にとっては大切な、幸せな時間だ。
「ねぇ、おーい。真冬、何見るの」
「もう見なくていいかも」
「何言ってんの?」
「もう10本くらい映画のネタバレ聞いてお腹いっぱいになっちゃった」
「説明しただけ。内容知ってても面白いよ」
今度甘えるのは私のほうだ。ゆうちゃんの膝に頭を乗せる。お腹側に顔を寄せてうずめると、体温の温かさを感じる。
何も言われないのが気になって上を見ると、苦悶というか、羞恥というか。色々なものが混ざっていそうでいて、きれいな顔が見えた。
眉間にしわの寄った、赤い顔を見るのは初めてかもしれない。
「狙ってる?」
「なんのこと?」
本当に良く分からないけど、ゆうちゃんは凄く恥ずかしかったのか、”向くならこっち”と私を転がした。
適当にゆうちゃんがつけて茶を濁した映画は、超大作のSF映画の第1部で、今日だけでは全部見切れなそうだ。
だから、余計に2人の世界の方に集中してしまう。
いつの間にか降りて、私を撫でるゆうちゃんの手が気持ちいい。片手を少し伸ばして催促すると、もう一つの手のひらがやってきて、私の指と絡まる。
恋人繋ぎにはならない歪な形。でも、もつれるような指の絡まりに、触れあっていることの確証を得て満足したから、口元まで引っ張って唇をつけてみる。
「真冬」
「なに?」
「膝枕したままだと、キスできないんだけど」
熱い視線が来る。けど、もう少しこの居心地の良いところで、まどろむような時間を過ごしたいと思う。
「帰りに、すればいいと思うよ」
「じゃあ、そうする。どうなっても知らない」
「分かった。許してあげる」
ゆうちゃんの唾をのんだ顔が見られてうれしい。今日の私は、してやれただろうか。
映画の内容があまり入ってこない数時間を、お菓子と炭酸を片手に過ごして、恋人同然の甘え方もして。そのあと帰る頃には、比べられないほど忘れられない数分を過ごした。
色んな感情を持っていた私も悪いけど、最後のゆうちゃんは好き勝手していたから。
”明日のバイトは素敵なところ見せて”とか、”見張ってるから”なんて、少しふざけた言葉を、駅まで送ってくれた帰り道で伝えてみた。
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