殺生蔵〜異界へ至る死の門〜
赤坂英二
第1話 死を葬る蔵と少年
ある町のはずれに、ひっそりと建つ一つの蔵があった。
殺生蔵——それは、身寄りのない者が亡くなった際に体を捨てる蔵である。
戦乱の世、死体は山のように積まれた。殺生蔵には、そんな名もなき屍たちが放り込まれてきた。
不思議なことに、そこに捨てられた死体は匂わず、虫もわかず、やがて無くなると言い伝えられている。
かつては供養のため人々が足を運んでいたが、近ごろでは不気味がられて誰も寄りつかない。
来るのは死体を捨てに来る身分の低い者だけになっていた。
そんな蔵に、ある夜、若い男が一人現れた。
深夜、およそ人が立ち入ることのない場所に立ち入ることのない時間に男の姿があった。
男は蔵の戸に手をかけた。
死人の懐に、金目の物が残っているのではないか。
彼の浅はかな考えは、「死人に口なし」という都合の良い理屈で正当化されていた。
男は蔵の戸を開けた、それを見届けたのは蝙蝠の群れのみ。
蔵を開けると何か頭にビリっと電機が流れたような感覚があった。自分の中で変わるきっかけのような何か。
片手に持ったろうそくの火が小刻みに揺れている。
蔵の中はまさに死体の山。骨になった死体、腐敗しかけの死体、息を引き取ったばかりのような死体……壁には血が滲んでいる。
男はその様子に顔をしかめた。想像はしていたがそれ以上の光景だった。
しかし不思議と匂いはしない。
手始めに手ごろな死体を引っ張った。
ゴトリと音と共に死体が男の方を向いた。
まずは一体目。簡素な鎧をまとった武士の死体を引きずり出す。半目を開けたその顔がこちらを見ているようで、思わず目を逸らした。
「何もないか……」
次は若い女の死体、粗末な着物に身を包んでいる。体に傷は見当たらない。まるで眠っているようだった。
血が流れていない死体だからかもしれないが、女の体とは実に白いと驚
いた。
少し体に触れすぎかと男の良心が痛んだが、着物の襟元から手を入れて体を調べていく。
「これは、金になるな」
女の髪についていたかんざし。高価なものではないが、売ればいくらか金にはなるだろう。
男はろうそくを高く上げた。先には扉がある。
「もう少し奥へ進んでみよう」
男は殺生蔵の奥の扉を開ける。
奥の部屋のさらに先にかすかな人影。
淡く赤い光がゆらゆらと怪しくきらめいている。
「おい」
男がそう声をかけると影は振り向いた。
老婆だった。
そして、この出会いが男の運命を大きく変えていくことになる。
*作者より
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