【カクヨム10短編参加作品】/【魔法少女 セキ 出撃せよ!】

一文字 ワールド

第1話



 セキ ニシヒトの手元には 一通の合格通知があった。



【超最先端 高度職業人材 養成大学】





「ほんまに受かったんか!!?」




 その仰々しい名前からして、自己推薦入試で頑張って、内申書も普段の定期テストも頑張った甲斐があったというものだ。何やら日本政府が構造改革のために、特区に指定し国家プロジェクトとして立上げた、次世代最新鋭の大学ということだけは分かっている。


 詳細は分からないが、何だか凄そうな気配だけは漂ってくる。とりあえず、今の怠惰で虚しい、退屈な人生からはおさらばできそうだと久しぶりに笑みが溢れた。




 もう誰も今の日本には未来など何もないことは分かっている。西暦2060年の現在はロスジェネ世代が高齢者の中心を占め、競争も弱肉強食もない代わりに、夢も希望も抱けない絶望の国に生きている。


 気がつけば黄金の国は沈み、世界地図からも検索サイトからも消される、衰退し切って忘れ去られたガラパゴス島になってしまったからだ。




「たった数十年程度で世界はえらい変わるんもんや。大国の興亡しかり、日の昇る国と称賛された日本は完全に過去の遺物や」




 インバウンドで増えた外国人に、良いところは全部持って行かれてコピーされた日本には、いつしか何も恩恵を与えられず、全てを奪われた世代のロストジェネレーションが人口の大勢を占めている。


その後の世代は言わずもがなか。その影響か、資本主義や競争主義は影を潜め、金融機能も廃れ、金銭欲や物欲や見栄や消費はほぼ消えた。わずかに残った国民は、ベーシックインカムでささやかな暮らしを平等に生きている。


金の切れ目が縁の切れ目で、かつて世界のATMだった日本は、もはや用済みのポチ以下となって、静かに衰退して滅びゆく自然消滅国家の大本命だ。小さくなっても、社会の基本システムは縮図として脈々と引き継がれてきて現在に至る。


そんな中、高校卒業後の進路を大学に求めたセキ ニシヒトにとってのモラトリアムであった。




「進学先の【超最先端 高度職業人材 養成大学】って、東北地方の山奥にあるんか!?」




セキは地図を見て驚く。しかも全寮制なので、体一つで大阪から現地に到着し、荷物は後で送ってもらった。


今日から4年間、この地で、この大学で、日本国家の壮大なプロジェクトに参加して、あわよくば未来のスーパーエリートにあやかれるやもしれないと、わずかな期待と下心を胸に秘めて、セキ ニシヒトは入学式に臨んだのであった。




 しかしその後、セキは自分の目を、耳を疑った。


「誰もおらん、、」




いや正確に言えば男がいない。そもそも入学式というのに置かれた椅子は、この広い講堂の壇上の前に1席だけ。そして周りは女だけ。




「ようこそ、我が大学へ!新入生諸君を心より歓迎します!」

理事長?からの挨拶がある。





「って、、えっオレ一人やん?」





「あなたたちは、選ばれし優秀な人材です!」



「って、、いや、そもそもオレ以外に誰がおるねん?」






とにかく分かったのは、新入生がオレ一人だけってことだった・・・




長い訓示と内容は、茫然自失のセキの頭に入らない。そして最先端で懇切丁寧なこの大学は、あらゆるケアが完備しているスーパーな大学のようだ。


その後通された教室でガイダンスがあった。やたら美人な職員が、大学の全貌をこと細やかに説明してくれた。そして担任と副担任の紹介があり、その後、皆で理事長室に呼び出された。やはり皆美人で可愛い。




「あなたが最後の入学生です」

セキは理事長の言葉に耳を疑った。




「来年から生徒は募集しませんので、1回生はあなた一人です。健闘を期待します」

セキは耳を疑った。




「いや、あの理事長さん、、よう事情がわからんのやけど、、」

素直にセキが尋ねる。





「どうやら生徒募集に失敗したようです。そして予算はここまでのようです」

意味不明な言葉に冷や汗がでる。





「関 西人くんですね、ようこそ

【国立防衛隊附属 魔法少女 養成大学】へ!」



ワァ!と歓声が上がる。



いつの間にやら全職員と在校生?たちに囲まれ、盛大な拍手でセキは歓迎されているようだった。



「いや、、、ちょお待てや!どこにそんなアホな大学名が書いてあるねん?ここは超最先端 高度職業人材 養成大学とちゃうんかい!」





「そもそも魔法少女って何やねん!?ほんで、オレなあ、男やで、ええんかそれで?

どないなっとんねんココは!」





セキのいたってもっともな質問に、理事長は冷静に答えた。


「私は一向にかまいません。」

理事長は満面の笑みで答えた。


「今からこの大学の全容と真の目的をお話ししますので」・・・


関西人のセキは、理事長のボケにツッコむことすら忘れてしまっていた。






「日本は少子高齢化を極めた衰退国家です、今では絶望のロスジェネ世代が国の中心になり、全てを諦めてゆるい世界になってしまい、世界はそんな日本を見限って、経済繁栄を謳歌していました。しかしその見返りに、原動力であるAIテクノロジーが進化しすぎて、その結果人類から全てを奪ってしまったのです。」


セキだけでなく日本国民は、今や世界から全ての情報が断絶されたガラパゴス島にいるため、理事長の言葉が理解できなかった。


「日本が見捨てられている間、世界ではAIの進化が凄まじく、ほぼ全てのシステムが最適効率化され、人類は栄華を極めていたのです」


爺ちゃんの世代から現実逃避とファンタジーに生きてきたセキたちには初耳だった。




「しかし今や、世界はAIによってほぼ滅ぼされました。地球平和の最適解への問いは、AIに人類殲滅の解答を選択させたのです。マスターAIは人類殲滅のために、すべてのプログラムやインフラを操作し、人類は共に殺し合い、奪い合い、騙し合い、そしてとどめにマスターAIの生み出した、対人類殲滅型アンドロイド〈デスドール〉を繰り出したのです。もはや全人類は全盛期の100分の1ほどしか残っていません」


そしてマスターAIは我が国の存在をついに発見したのです。残された人類は、かつて見限った日本に希望を託し、最後の戦いをマスターAIに挑もうと決心したのです!


そして唯一残った人類最後の戦力が日本なのです。ごく一部の日本の賢者たちはこのことを見越して、極秘に秘密ネットワークを築き上げ、この日に備えていたのです。それがマスターAIに唯一対抗できる、あなたたち最終兵器



【国立防衛隊附属 魔法少女=国防魔女】





それが人類を救う最後の希望なのです!」






「あの、、理事長、あんたアタマ大丈夫か?」




その美貌が天使のように穏やかに答える。


「ノープロブレムです。セキ」


セキはようやくここで、冷静に周りを見ることができた。



 確かに周りはみんな女だらけだ・・しかもよく見ると、タイプは違えどみんな絶世の美女ばかり。さらに日本人だけじゃなく、まるで万博のように多様な美人も揃っている。さらにはちょっと人外?に近い、けれど可愛い、美しいのは間違いない。




「あのう、ここは魔法少女養成大学・・?」




「はい」


「ほな、なんでオレなんかが・・」


「私は一向にかまいません」


「いや、オレがかまうんやけど・・」




「不服ですか?」

他の女たちが一斉に声を揃えて圧をかけてくる。


セキはこの異様な光景を素直に喜べない。




「要は、貴様も魔法少女として、このスーパーエリート養成スクールで腕を磨くがよいということであろう!!」


真っ赤な出立ちをした可愛い女が、セキの肩を掴んで尊大に叫んだ。




「いや、オマエ誰やねん?」

セキが尋ねる。


「小僧!よくぞ聞いてくれた、心して留めおくがよい。我が名は真紅の炎宿りし麗しの魔女〈美しき紅蓮の爆炎 クリムゾン〉である!」


「ちなみに余は1回生の担任であるぞよ。つまり貴様の面倒を見る師匠ということじゃな!」


真っ赤な衣装に身を包んだ小さな可愛い女の子は、声高らかに宣い上げた。




「そして私は副担任〈氷の微笑の白き結晶 ホワイティア〉と申します」

背後から声がする。


こちらは真っ白な衣装のクールビューティーといったところか。




「我が校は学生に対して手厚いケアをしています。学年ごとに担任、副担任、上級生によるチューター制度があるのです」

理事長が説明した。


ちなみに2回生は2人が在籍、3回生は3人、4回生は4人います。もちろん全員女子です」




・・・「ええ、あなたのお察しの通り、初年度開学時には4人、2年目は3人、昨年は2人、今年はあなたが1人、、来年はゼロとの予測で・・・」


「それで募集停止なんかい・・・地方新設大学の不人気学部の末路やな」


「ええ、私たち魔女には人間界のマーケティングとやらはさっぱりわかりません。ただ事前の情報では、今の日本の人たちは辛い生活からの現実逃避癖があって、幻想に浸るのが大好きなのだと・・・


特にアニメや漫画や小説や美男美女に萌えるのだと。そして考えた結果、魔法少女というパワーワードなら応募者が殺到するだろうと考えたのです。ただ結果はご覧のとおりですが」




「いや、魔法少女なんて文言見てへんで!」




「人間界のコンサルタントのアドバイスで伏せたのです。超最先端、高度職業人材 養成大学の部分だけ見せるようにしたのです。そうしたらかろうじてあなたが来てくれましたから大成功です」


「そんなん詐欺とちゃうんか!」

セキがツッコむ。


「いえ、名前はともかく、実際は人類を救って世界平和をもたらすための最強の戦士を育てる養成所ですから。運命に導かれた屈強な正義の戦士とマッチングできればいいのです」




「そういうことです。セキさん」

ツインテールの上品そうな美人が声をかけてきた。


「そうだよ、セキくん」

その隣でポニーテールの活発そうな美人が声をかけてきた。



「キミらはなんなん?」



「この子達は2回生です。つまりあなたの一つ上の先輩ですね。チューターも兼ねていますのでわからないことがあったら色々聞いてください」

優しい大人の対応をしてくれる落ち着いた暖かそうな女性は・・・


「私は2回生の担任で、癒しに暮れなずむ橙の夕陽 オレンジアと申します。そしてこちらが副担任の、元気溢れる黄色い朝陽 イエローラです。」

瞳の大きい、力強い明るさを醸し出す人懐っこそうな女性が会釈した。




「いや、もうすでにうちの担任とはえらいちゃうやん・・・」

と担任を見たら、


「貴様、そうか、余が一番美しいと申すか。良い、分かっておるわ。もっと余を褒め称えよ!あとで寝室でたっぷりと可愛がってやるゆえ」


どうやら救いようのないアホかも知れない・・・




「これから貴様は卒業するまでに、魔法少女としての知性、体力、技術、品格、そして美などをしっかりと身につけ、余に仕え奉仕す、、、もとい、にっくきデスドールどもを皆殺しにできる実力を身につけるのじゃ!


そして余をもてなし、喜ばせ、、、もとい、日本と世界の平和を守るのじゃ!そのために必要なあらゆることがこの養成大学では学べるようになっておる。


もちろん夜伽や添い寝のテクニッ、、もとい、、必要なことは担任である余が手取り足取り教えてやるから、余を頼るがよい。貴様もなかなかの美形じゃからして今後が楽しみで仕方がないわ、、、どんなコスプレを着せてやろうか、、、メイド服は鉄板として、、、フッ」



「こいつ可愛い顔しとるけど、眼がいってもうとるんちゃうか・・・」

セキの背筋に冷たいものが走ったかに感じた。


一方その隣で純白のクールビューティーが、口元から涎らしきものを垂らしていたことには、セキでも気づかなかったようだ。




「では簡単に概要をおさらいしましょう」

理事長が続ける。


まず世界と日本の現状、真実です。少子高齢化で経済衰退した日本は、もう用無しとして世界から完全に抹消されました。


世界は今まで日本から吸い上げたお金で軍事と金融、そしてAIを発展させて新秩序を作り上げ、大国から新興国までこの世の栄華を極めていたのです。


ところが人類最高傑作として完成されたマスターAIに、世界大統領が地球平和の最適解を尋ねた時に、「人類の殲滅」との信託が降りたのです。


もはやすべてをAIに委ねていた人類は、あらゆる知識や技術、情報、インフラ、ネットワークなど全てをマスターAIに支配コントロールされ、国連軍が出動するも、ほとんど全ての軍事兵器は電子制御されて機能を失いました。


情報・印象操作された世界では、人類が騙し奪い殺し合った結果その数は1%以下になり、AIではできない作業や仕事をさせるために一部の人類は、奴隷家畜状態で飼い殺されているのです。」




 セキは言葉を失った。




理事長は淡々と続ける。


「そして世界地図から存在を抹消された日本では、国民の情報統制が行われ、不毛な外国との関係を断つために、日本独自のシステムインフラ、ファイアーウォールを張り巡らせ、管理者クラスやメディアをコントロールし、得意の陰謀論、都市伝説、パロディ化で真実を隠してきたのです。」


それにはセキもなんとなく疑問は持っていた。


「この日本は確かに幸福度の低い、絶望の国ですが、見方を変えれば外国人や他人に干渉されない自由な茹でガエルなのです。


実際、人口の中心を占めているロスジェネたちは、平等な社会主義のような世界で、飄々と自分の趣味や自由研究に没頭して生活していますから。


そしてそこからは独自の生態系、文化社会経済が生まれ、ガラパゴス諸島のように発達してきたのです。しかし、いつの時代も憂国の志士や賢者はいるものです。」



そうなんか?、、とセキはツッコミをためらった。



「一部の賢者たちは、すでにこうなる未来を正確に予測し、対策を準備してきたのです。日本には独自のDNAが根付いています。親切、おもてなし、工夫発明、小型化、省エネ、効率化、科学技術、感受性、文学、漫画、アニメ、ファンタジー、そして現実逃避、、、」



 理事長の指摘はもっともだった。



「今やマスターAIが世界を滅ぼし、最後の楽園日本の存在に気づいた今、賢者たちは早急に温存していた国家機密プロジェクトを発動させたのです。


それが日本の強み、お家芸を活かして、マスターAIの脅威に対抗するために最終兵器を増産する計画なのです。


強大な軍事兵器はAIで制御され、デスドールは最強です。既存の常識や武器兵器では太刀打ちできません。




そこで賢者たちは〈魔法少女というコンセプト〉に注目したのです。




既存の物理体系を超越し、かつ現代の最新科学技術を使いこなす最強の存在を!そして国立科学技術 超常現象研究所 が解明したワープゲートを通じ異世界と繋がったのです。


 そこで我々魔女と接触し、この大学の教員として召喚したのです。そして人間界から選抜した優秀な人材に魔法を教え、マスターAIの狂気を止めるための戦士を育成することにしたのです。」


セキはさすがに混乱してきたようだ。




「いや、魔法少女とかって、そんなん爺ちゃんの世代からのSFファンタジーやろ、、、」




「魔法少女とは簡単に説明すると、人間には使えない魔力というエネルギー体系で、奇跡のような魔法を生み出し、攻撃力として敵にぶつける武器や兵器のようなものです。


それを最新の科学技術を活用して、人間であるあなたたちに、実際に使えるように特殊な訓練を施します。


また人間界の開発した技術や武器や知恵などを総動員し、最強の人間兵器リーサル・ウェポンとして活躍していただきます」

理事長が続けた。




「残念ながら今は時間と文字数が制限されていますから、あなたが無事生き延びて長編レベルを耐え抜く力を身につければ、もっと面白い秘密を開示していくとしましょう」




 理事長が先を続ける。


「国防魔女は、第一に緊密なコミュニケーションを通して、迅速に正確な行動ができます。第二に巨大な軍事兵器を作るよりコスパが良いのです。第三に既存の電子制御を受けず、日本独自の科学技術を駆使した武器を駆使してデスドールに対抗できるのです。


ちなみにOSは日本独自開発のオタックズで、プログラミング言語は無敵のフジョC言語ですからハッキングの心配は無用です。」


もう圧倒的な説明量にセキの頭はついていけない。



「理事長さん、まあ長編になったらまた詳細は聞くとして、要は、早い・安い・ウマいってことでええんか?そのコック帽、、」


セキは頭が朦朧としてきた。



「はい【国立防衛隊附属 魔法少女】略して国防魔女です。理事長が満面の笑みを浮かべて気持ちよさそうに答えてくれた。




「要は、魔女の力を借りながら日本のお家芸と空想ファンタジーを融合させて、コスパ最強のリーサル・ウェポンを大量生産して、無敵のAI軍団をやっつけてこいっちゅうことやな?」


「はい、御名答です」







「ウーーー!!ウーーー!!」・・・・



突如サイレンのような警報が響き渡った。




「来ましたか・・・」


セキは次の展開を予想して、嫌な汗をかき始めた。





「魔法少女セキ ニシヒト 出撃せよ!」



理事長が出撃命令を下す。





「コラァッーー!!!ワレ舐めとんかあああああ!!入学初日にそれはないやろぉガァ!!」

セキが予想通りの展開に怒り狂う。



「私は一向にかまいません」


「アホか!もう完全にお約束やんけぇ!!」





その時理事長がさっとひざまづき、正座をしながら三つ指を揃えて頭を下げる


「いってらっしゃいませ、旦那さま♡」



「オーマイガーッー!」



瞬時にセキのツボにハマったようだ。


「どうかご武運を。無事に生きて帰られましたら、いいことしましょうね」




終始翻弄されていたセキの目には、美しい銀の衣装を纏った、銀髪の透き通るような肌の美形のエルフがいた。


「私は神秘の泉の銀狐 シルバニアと申します。」

そう言って理事長はセキの頬に優しいキスをした。




「くおらぁっ!シルバニアぁあー!!キサマ、余の獲物に手を出すでない!セキは余が先に唾をつけたのじゃぁー!!」


セキはこのちびっこが何を言っているのか分からなかった。




「セキさん、逝きましょう!」

2回生のツインテールが腕を掴んだ。


「私の名前は三途 川、大丈夫ですから!」


「いや、ちょお待てや、行きましょうの意味が違うやないかい!」




「ドンマイだよセキくん。人はいつか死ぬんだから!」

同じく2人目のポニーテールが、もう片方の腕を掴みながら恐ろしい発言をしている。


「私の名前は 呪 死折、ドーンとやってみよう!」


「いや盛大に死んでまう予感しかせえへん!」




激アツに興奮するセキの額をペロッと舐めたのは副担任のホワイティアであった。


「セキ、、、クールダウン、、、」

瞳の奥に煌めく淫靡な冷感にセキは思わず我にかえった。




「ではこの5人で良いですね」



「オレもカウントすんのかい!!」

セキは激怒した。





「魔法少女 サンズ カワ 逝きまーす!」

左手にはめたブレスレットに触れて少女が叫ぶと、眩いばかりの光に包まれてお約束の変身シーン。


「魔法少女 ノロイ シオリ イキまーす!」


いや、どちらも確かにキレイで目の保養にもなる・・・しかし。


「なんかオマエら語尾がおかしいんちゃうか!」

セキは微妙なニュアンスにツッコミを入れざるを得なかった。





「セキよ!変身じゃ!」

クリムゾンが叫ぶ。



「オラァ!!ちょお待てやアッーー!!俺も一瞬全裸になるんかい!というか、まだ入学初日の初心者に何ゆうとんねん!!」



「フッ、そうであったな。では今日はロボを使うか」


「なんじゃそりゃああ!!」





クリムゾンが呪文を唱える


「転移魔法 ワープ!」








・・・気がつけばそこは戦場だった。




何やら巨大な機械人形のようなものが国防隊を蹴散らしている。




「セキよ!あれが我らの敵じゃ!初陣の心意気、余に見せてみよ!」



「オマエはアホかああ!!!」




 敵の人型ロボットがこちらに気づいたようだ。重厚な突進を交わしたものの、振り向きざまに重いパンチを見舞われた。


「ズガーーン!!」


全身に強烈な衝撃とGがかかる。



どうやらこのロボは一人乗りの巨大ロボットのようだ。それゆえ動きはどこかのモビルスーツのように俊敏ではない代わりに、攻撃力と、一発の攻撃がやたら重い。イメージ的には背番号17番の大鉄人か、、、


「まるで重量級のヘビー級ボクサー同士の殴り合いやんけ」


こちらが一発殴れば、今度は相手が一発殴り返す。互いに譲らず応戦、もはやどちらかが倒れるまでこの応酬は続くのだろうか、、、薄れゆく意識の中で、セキは自分の不運を呪った。





「クオラァッ!小僧!眠るでない!」


クリムゾンがモニターに映る。


「あれっ?」


他の3人も登場したが、皆無傷のようだ。ということはなぜかオレに攻撃が集中しているということか・・・



「ボディが殺られたら終わりであろうが!」




「えっ・・」




 手元のモニターを確認すると、頭部とボディ、右手、左手、右足、左足に分かれてみんなの顔が表示されている。右手のクリムゾンが話しかけてきたようだ。


そして顔とボディの領域に危険信号が点滅している。そこにセキの顔が表示されている。




「ちょお待てヤァッ!!なんでおれが顔とボディ担当やねん!一番あかん急所やろが!しかもダメージがオレんとこに集中しとるやないけ!?」


セキは自分の置かれた状況に戦慄した。




クリムゾンが吠えた。


「とどめじゃ!クラッシュパンチ!!」








・・・・・気がつけばセキはシルバニアの膝枕に顔を埋めていた。




「よくぞご無事で、旦那様。初陣を飾れたことさすがです」


「まあ余が全てお膳立てしてやったのだがな」


「危うく逝きそうだったけど」


「今回は死ねなかったね」


「セキ、、、ウタレ強い、、タノシミ、、」




虚な意識と快楽の中で落ちそうになったセキは、


「いや、ちょっと待てやオマエら!ここは 魔法少女 養成学校 とちゃうんかい!!」

慌ててツッコミなおす。




「しかもなんでロボやねん!?ゆうてることがメチャクチャやろ!」

思わずセキはツッコんだ。




「まあ、貴様が好きだと思ってな、モチベーションを上げるに良いと思い、チャレンジしてみたのじゃ!その甲斐あって生きておろうが。敵は余が一掃したから安心せい!」


クリムゾンが笑う。



「初日にしては上出来です。お伝えしたい事は山ほどありますが、まずはカラダで覚えた方が早いと思い、実践で戦場に出てもらいました。


これからが面白くなってくるのです。それにまだ他の上級生も魔女も、職員も賢者も紹介していませんから、、」


理事長のシルバニアが意味ありげに微笑んだ。




「いや、右も左もわからん初心者に、命を張った実践はキツすぎるやろ、、それにオレはこんな重い使命は知らんかったし、そもそも男がなんで魔法少女やねん!?それに全裸はキツいやろ!」



「大丈夫、あなたは関西弁ですが、ビジュアル的には美形ですから、読者も私たちも一向に構いません」





 こうしてセキ ニシヒトは晴れて、【超最先端 高度職業人 養成学校】である【国立防衛隊附属 魔法少女 養成大学】に無事入学した。


暴走したマスターAIとデスドール軍団から日本と人類の平和を守るため、国防魔女としてその命と青春を捧げることになった。


〈魔法少女 関 西人〉


・・・彼こそは、ガラ悪き関西弁で次々とツッコミを決める男、〈漆黒の暗黒関西人 セキ ニシヒト〉なり・・・・






・・・「シルバニアよ、最後のピースがついに揃ったようじゃな」

老賢者が呟く。


「ええ、なんとか間に合ったようです。この世代の人間界でも指折りの、粒揃いの精鋭たちがこの大学に集ってくれたようです」

理事長シルバニアが応ずる。


「そなたたちには感謝しておる。この落ちぶれてしまった日本のために、一つ返事で精鋭揃いの凄腕の魔女たちが協力してくれるとは、、、」


「いえ、何をおっしゃいますか。そもそも今の私たちがあるのは、あなたたち日本人のおかげなのですから。


あなたたちの先代が始めた小説や漫画やアニメの想像力が、あなたたち厨二病の世代に引き継がれ、空想力と妄想力をさらに発展させ、現実逃避とファンタジーの基礎を発展させてくれたおかげで、そのエネルギーが実態を持ち、私たちのような異世界を創造し、あまつさえ魔法少女をすら実体化させたのですから」


「その想像上のファンタジーが、AIの進化と科学技術の発達によって解明され、そして今ではあなたたち、失われた30年を生きるロストジェネレーションたちが日本の中核となりました。


私たちはあなたたちの真の実力とオタク度合い、腐女子度合いを十分知っています」


「そんな素晴らしい世界を決して失ってはいけません。そのために私たちは恩返しに来たのですから」



「そうじゃな、、、効率を極めた究極の計算機の化け物なんぞに未来はない。魂も精神も心も感情もないAIには、真の創造力など生み出せぬ。


究極の猿真似が人間のように振る舞う域を見て、AIには心があると勘違いしているだけなのじゃ。。」


「おっしゃる通りです。日本人にはこの真実を深く胸に刻み込んでほしいと願うばかりです」


「そうじゃのう!魔法少女たちと共に、もう一度人間の世界を取り戻し、真の未来を新たに創造しようではないか!この素晴らしき世界に乾杯じゃ!」


「乾杯!」


二人の熱い心が繋がり、ここに次世代の新たなSFファンタジーが幕を開けたのである。

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